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メスガキラー  作者: わっか
吊り天井編

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第61話 実力

 「むー……」


 先日のアイアン・メイデン捜索の際には訪れなかった街の駅構内へ、私は足を運んでいた。


 ドール・ゲームを生き抜くために今私達が出来る事は、憑依体を強化し、常に魔力を満たした状態を維持することだ。

 いつ強力なキラードールが現れようとも、対抗できるようにするためである。


 そのため、今日は皆で魔力回収を目的として集まることになっていた。


 集合場所である駅の地下街には様々なテナントが入っており、壁にはライトで発光している大きな広告看板がある。


 そこの前で、ハム子は口いっぱいに種を詰め込んだハムスターの様に頬を膨らませていた。

 隣では、ギャル子が困り顔であたふたとしている。


 私は二人の元へ近づくと、声を掛けた。


 「あんた、何むくれてんのよ?」


 ハム子は、いじけた様子で答える。


 「ギャルさんから聞きました……。酷いっス、皆さんだけでお食事に行って……、自分も行きたかったっス。疎外感を感じました……」


 「ごめんてっ! ハムちゃ~ん!」


 ギャル子は手を合わせてハム子へびる。


 「ほら、ハムちゃん用事あるって言ってたじゃん? わざわざ呼び出しとか悪いと思っただけだしぃ~。あーしら、ハムちゃんの事ハブったりとかしてないしぃ~。

 ねぇ? ウサちゃん!」


 「うん」


 「む~……!」


 納得いかないのか、ハム子はさらに頬を膨らませた。


 どうする事も出来ず、ギャル子は私へ泣きついてくる。


 「ふへへぇ~んっ! ウサちゃ~んっ! ハムちゃん機嫌直してくんないしぃ~!」


 泣きじゃくるギャル子を前に、ハム子は慌てていじけるのをめ、彼女をなだめようとする。


 「ちょおっ!? ギャルさんっ!? 泣かないでほしいっス!

 自分、もう気にしてないっスから!」


 「すん……ほんとぉ?」


 「はい! ほんとっス!」


 「うぅっ……ごめんね、ハムちゃん……」


 いつの間にか、ハム子がギャル子をなだめる形になっていた。


 「……何してんだ」


 一人遅れてやってきたクマ子は、私の隣で立ち止まるとぼそりと呟く。


 「よっ」


 「……ん」


 相変わらず簡素な挨拶を私達は交わす。


 「こいつらは気にしないで。それよりクマ子、今日は魔力回収をするんでしょ?」


 「……ああ、じっとしていても仕方がない。魔力回収の利点を考慮すれば、集まれる時に集まっておいた方が良いだろう。

 ……それに、もし処刑女に遭遇しても特性の違う憑依体が多ければ、それだけ柔軟に対応できるしな」


 「そうね」


 処刑女の出現により、以前よりも状況は厳しくなったと言えるだろう。

 “微笑みの処刑女”だけなら一人で何とかなったかもしれないが、アイアン・メイデンを相手にしていたのなら、私だけで倒せていたとは思えない。


 「……襲ってくるキラードールが厄介になりつつある現状、敵に対抗するためには全員の協力が不可欠だ。

 ……それを踏まえ、今日は確認しておきたい事がある」


 「何?」


 クマ子はハム子へ目をやる。


 「……真奈美まなみ、お前の実力だ」


 「じっ、自分っスか!?」


 「……ああ。この後の捜索でアサブクロを見つけられたら、その時はお前に戦ってもらう」


 「えっ!? いっ、いいっスよ! 自分、そういうの得意じゃないんで! 皆さんにお任せするっス!」


 「……この前は、“実績を積まなければいつまで経っても成長しない”と言っていただろ?」


 「あれは……! クマさんのお力になりたかっただけで……。目的を達成されたのなら、自分を戦わせなくても良いのではないでしょうか……」


 「……お前が一人の時にドールに襲われ、何かあっては困る。いつも私達がそばに居られる訳ではないからな。

 ……だからこそ、真奈美まなみもある程度戦えるようにしておくべきだ。

 ……そのためにも、まずはお前の実力を把握しておきたい」


 「むぅー……、ウサさぁん……」


 ハム子は私に助けを求める。


 「まあ、無駄にはならないんじゃない?」


 「うっ……! ギャルさぁん……」


 ギャル子は困り顔のまま、愛想笑いで答える。


 「あはは……、ほらっ! ハムちゃん! あーしらも付いてくし!

 少しだけ、頑張ってみない?」


 「はい……、了解したっス……」


 ハム子は観念した様子で肩を落とす。


 乗り気ではないようだが、必要な事だろう。


 くして、私達はハム子の実力を測るため、アサブクロの捜索を開始した――。



 二時間程各々のキラー・スタッフト・トイに捜索させることで、私達はようやく一体のアサブクロを見つけ出した。


 平らなアスファルトが広がる広場に居たそのアサブクロは、基本的な特徴は同じだが、人の原型をほぼ留めていた。

 麻袋で覆われた左右の腕の先から無数のカッターの刃が露出しており、私が初めて遭遇した“女のアサブクロ”の男版といった感じである。


 私達は茂みに身を潜め、“男のアサブクロ”に気づかれないように距離を置く。


 クマ子は一通り辺りを見渡した。


 「……よし、他にキラードールは居ないようだな。真奈美まなみ、お前がアイツを倒せ」


 「いきなりっスかぁ!?」


 「あんたがやんなきゃ意味ないでしょ?」


 「ファイトだよ! ハムちゃん!」


 「うー……、わっ、分かりました」


 立ち上がり茂みから出ようとするハム子を引き止めるように、クマ子は声を掛けた。


 「……待て、まずはどうする気だ?」


 「えっ? ゾーンを展開して、あちらの方を引き込みます」


 それを聞いて、私達は一斉に声を上げた。


 「は?」


 「……違う」


 「ダメだよ! ハムちゃん!」


 「何なんスか!? 皆さん!?」


 「……4人がかりでようやく見つけたアサブクロだぞ。魔力回収の機会が貴重であることを忘れてはならない。

 ……ゆえに、魔力の無駄使いは極力控えろ。複数体ならまだしも、単体で特殊なタイプではないヤツなら先手を打たずとも、引き込まれてからの憑依で十分だ」


 「はい……」


 「……真奈美まなみ、お前の憑依経験は?」


 「二回っス」


 「……」


 「はあ?」


 思わず私は声を上げる。全然憑依してないではないか。


 「何で怒るんスか!?」


 「別に怒ってないわよ」


 「みんな~、あの子どっか行っちゃいそうだよぉ?」


 “男のアサブクロ”は広場の外へと向かってしまう。

 戦闘となれば、開けたこの場の方が良いだろう。


 それを見て、ハム子はハム蔵と共にしぶしぶ“男のアサブクロ”の前へ歩み出た。


 “男のアサブクロ”はハム子達に気づき、体の向きを変える。


 「どっ……どもっス」


 軽く手を上げて、ハム子は友達の友達に挨拶するように気まずそうな感じで声を掛けた。


 (なぜ声を掛ける……?)


 すると、“男のアサブクロ”は自身を中心にゾーンを展開する。


 「ひぃっ!」


 引き込まれると、ハム子は体をビクつかせて降参のようなポーズを取るが、肘は外側へ開かないようにして、手は軽く握った状態で固まった。

 彼女がビクつく時は決まってこのようなポーズを取る。


 全身を強張こわばらせるハム子へ向かって、“男のアサブクロ”は接近してきた。


 それを受けて、ハム子は頬から汗を伝わせながら足を広げて身構える。


 「やるしかありません……! ハム蔵さん! お願いするっス!」


 一瞬の閃光とともに、ハム子は憑依体へと姿を変えた――。

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