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メスガキラー  作者: わっか
アイアン・メイデン編

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第54話 パラソル

 佳奈かなは病室を出ると、廊下に目をやる。


 彩度を落とした白黒に見える病院内は、元の世界が日中にもかかわらず、まるで真夜中であるように錯覚させた。


 廊下を進みながら三節棍さんせつこんを構えると、佳奈かなは鼻を利かせる。


 「すんすん」


 (このフロアに3体。上の階に1体、さらにその上に1体……ということは、屋上か?)


 佳奈かなが敵の位置を感じ取り、確認していた時だった――。


 「キャハハハハッ!」


 (!?)


 子供の笑い声と共に、フロア全体に駆け回る足音が響いた。


 「……」


 病室のドアが並ぶ廊下を進み続けると、佳奈かなひらけたところへ出る。


 佳奈かなの左手側には四人掛けのテーブルが並び、その奥には大きなガラス窓、そこのかどにはテレビが設置されていた。

 普段なら、入院患者が食事や談笑をしている共有スペースだ。


 そこには一瞬目をやるだけで、佳奈かなはすぐに右手側を注視した。

 キラードールの匂いは、そちら側からしているのである。


 右手側の奥には、左手側とついになるように大きなガラス窓。その窓の左右にはエレベーターがあり、佳奈かながこの階に来た時に利用したものだ。

 ガラス窓の手前側には、背もたれのある長椅子が前後に2列並び、人が座っていれば後頭部が見えるだろう。


 だが、今は2列あるその背もたれのあいだから、アサブクロが頭だけを覗かせていた。


 「んっ……」


 目が合った状態で、佳奈かな三節棍さんせつこんを握る手に力が入る。


 すると、顔をこちらに向けたままアサブクロは真横へ移動し、長椅子のはしに来ると、その全容が明らかになる。


 身長は元々背が低い佳奈かなよりも小さく、中身は自分よりずっと幼い子供である事が分かった。

 頭からひざまでを大きな麻袋で覆い、その下には生気のない“かぼそい”あしが延びている。

 頭部には雑な顔がえがかれ、左右の足は足首をひもで縛った状態で麻袋を履いていた。


 なにより特筆すべきは、胸元である。

 背中から貫通している鋭利で長いくいが、胸から飛び出していた。


 「キャハハハハッ!」


 「っ!?」


 長椅子の端に来た直後、笑い声を上げながら“飛び出しのアサブクロ”は佳奈かな目掛けて、全速力で突っ込んでくる。


 「ちっ!」


 佳奈かな三節棍さんせつこんの端を持ち、一度大きく一回転させて遠心力を付けると、その勢いのまま“飛び出しのアサブクロ”へ向けて振り回した。


 「キャハハ――ブエッ!」


 勢いのついた三節棍さんせつこんが、“飛び出しのアサブクロ”の脇腹わきばらを直撃する。

 三節棍さんせつこんは肉が潰れる嫌な感触を佳奈かなへ伝えながら、“飛び出しのアサブクロ”を壁に叩きつけた。


 めり込みながら壁面にはつぶれたトマトのように血が飛び散り、“飛び出しのアサブクロ”は壁から床に崩れるように倒れる。


 すると、“飛び出しのアサブクロ”から魔力が湧き出し佳奈かなへ吸収されると、その体は黒いもやに包まれ、ちりとなって消滅していった。


 「すんすん――」


 “飛び出しのアサブクロ”を倒すと、すぐに鼻を利かせ、佳奈かなは残りの敵の位置を確認する。


 (他の4体も同系統の匂いだ。コイツら数は多いけど、それぞれは大したことない……)


 共有スペースのフロアを抜けて、佳奈かなは再び病室が並ぶ廊下に足を踏み入れる。


 病室のドアが近づくと、横振りするために佳奈かな三節棍さんせつこんを構えた。


 ドアの前で敢えて立ち止まると、はかったようにドアの向こうから足音が急速に近づいてくる。


 「イィィィィーッ!」


 鋭利な杭でドアを突き破ると、“飛び出しのアサブクロ”は佳奈かな目掛けて突っ込んできた。


 しかし、それを察知していた佳奈かなは、アサブクロが飛び出してきたと同時に思い切り三節棍さんせつこんを振り回す。


 「ベギャァッ!?」


 佳奈かなの攻撃が直撃すると、“飛び出しのアサブクロ”は頭とひざがくっ付きそうになるほど体を折り曲げながら、病室の奥へと吹き飛ばされた。

 壁に叩きつけられると、杭の周りから体が2つに裂け、そのまま動かなくなる。


 その亡骸なきがらから魔力が湧き出すと、佳奈かなへ吸収された。


 佳奈かなは特殊能力の効果時間が過ぎたため、再び魔力を消費して能力を行使する。


 「すんすん」


 佳奈かなは別の病室に入ると、隣の病室がある壁を三節棍さんせつこんで何度か叩きつけた。


 「ふんっ! はっ!」


 佳奈かなの攻撃で壁に大穴がくと、ドアの方へ体を向けて待ち伏せしていた“飛び出しのアサブクロ”がこちらへ顔を向ける。


 「おらっ!」


 突如真横から現れた佳奈かなに対応しきれず、佳奈かなの蹴りを食らって“飛び出しのアサブクロ”は床へ倒れ込む。


 起き上がったそのアサブクロは今までの2体とは違い、体をのけらして杭の先端が背中側から飛び出していた。


 のけ反ったまま背中を佳奈かなの方へ向けて、逆さまの顔が彼女を捉える。


 「アアアアアァァ~ッ!」


 叫び声を上げながら、後ろ向きに走ってきた。


 「ふうんっ! はあっ!」


 佳奈かな三節棍さんせつこんの中心にある棒を持ち、外側のそれぞれの棒を素早く相手に連続して打ち付ける。


 「ブッ! ベヘッ! バハッ!」


 三節棍さんせつこんが命中する度に体を左右に振られながら、やがてその場に倒れると“飛び出しのアサブクロ”から魔力が湧き出し、佳奈かなへと吸収された。


 「はぁー、はぁー……。――すんすん」


 息を整えて廊下に出ると、頭上に的を絞り、天井のある一点を集中攻撃した。


 「ふっ! ふんっ! はぁっ!」


 やがて、天井の一部が崩れる。


 「ミョオオ~ッ!」


 佳奈かなの狙い通り、真上に居た“飛び出しのアサブクロ”が降ってきた。


 「んんうんっ!」


 降ってきた“飛び出しのアサブクロ”が地べたに体を打ち付けると、佳奈かなは勢いをつけた三節棍さんせつこんを、ゴルフのスイングのように“飛び出しのアサブクロ”の顔面へ放った。


 「ブフエッ!」


 “飛び出しのアサブクロ”の首は千切ちぎれ、頭部が廊下を転がる。

 再度魔力を回収すると佳奈かなは空いた天井の穴へ向けて跳び、上の階へ移動した。


 「あと1体」


 そのまま階段へ向かいのぼっていくと、屋上の扉を蹴破けやぶる。


 「……」


 屋上には物干し竿に何枚ものシーツが干してあり、全体を見渡すには視界が悪かった。


 「すんすん……――っ!」


 佳奈かなが入ってきた扉の真上に設置された貯水タンクの上に潜んでいた“飛び出しのアサブクロ”は、杭の先端を佳奈かなへ真っすぐ向けて、そこから飛び降りてきた。


 「フウウゥゥーッ!」


 だが、その存在に気付いた佳奈かなは、振り返りながら力いっぱいに三節棍さんせつこんを大きく振るう。


 「ブフゥッ!」


 降下中に佳奈かなの攻撃が直撃する。

 吹き飛ばされた“飛び出しのアサブクロ”は屋上のフェンスをなぎ倒して、真下へと転落していった。


 「ヒユウウゥゥー……ブエッ!」


 肉が潰れる音が響くと、建物の下から湧き上がってきた魔力が佳奈かなへと吸収される。


 「はぁー、はぁー」


 佳奈かなは5体のアサブクロを倒し終えると、ゾーンが閉じられ世界は色を取り戻した。


 「ちっ! 手間取らせやがって」


 早々に切り上げて病室へ戻ろうと、階段へ続く扉のドアノブに手を掛けようとして、佳奈かなは足を止める。


 (また引き込まれたりしたら、面倒だな……)


 そう判断すると、今度は自分でゾーンを展開し、佳奈かなは再び憑依を行う。

 奇襲されることが無いように、周辺に敵が居ないか確認する事にしたのである。


 「んっ――!」


 今度はより多くの魔力を消費することで、匂いを感じ取る範囲を拡大した。


 「すんすん」


 体の向きをゆっくり変えながら、全方角へ鼻を利かせる。


 「すんすん……んっ?」


 病院の屋上から、ある建物の方へ佳奈かなの意識は引き付けられた。


 遠くに見える高層マンションに隠れたその向こう側、そこからかすかに匂いを感じ取ったのである。


 「さっきの麻袋の化け物とは違う……。異質な匂いが2つ……」


 佳奈かなは屋上のフェンスを飛び越えて、周辺の建物を屋根伝いに移動していく。


 徐々に高層マンションへ近づき、それの前まで来ると建物のでっぱりを利用してひたすら登っていった。


 「うっ、んん」


 高層マンションの屋上へやってくると、佳奈かなは身をかがめながら、登ってきたところとは反対の階下を見渡す。


 「ん……」


 そこは片道3車線の道路がいくつも交わり、道路の上には高架橋こうかきょうも架けられている。

 人が居れば、横断歩道を一度に数百人が行き交うような大きな道路だった。


 そんな道路に今は人っ子一人、車1台も存在しないため、この空間の不気味さを佳奈かなは再認識させられた。


 すると、佳奈かなから見て右側にある高架下より、ソレらは姿を現した――。


 かなり遠巻きではあったが、その容姿に佳奈かなは顔をしかめる。


 「何だ……、あれ……」


 姿を見せたソレらをの当たりにして、佳奈かなは思わず声を漏らした。


 1体は黒いゴスロリ服に身を包み、まるで外出にはしゃぐ子供のように、ひじを伸ばした腕を元気よく振りながら楽し気に歩いている。体格からして、佳奈かなと同い年くらいの少女のようだ。


 だが、異様なのは首から先。

 本来なら頭があるはずのそこに顔はなく、首から先にはパラソルが生えていた。


 パラソルは胴体よりも長く大きいため、人間であれば重さを支えきれずに倒れてしまいそうなものだが、パラソル少女は意に介さず胸を張るようにずんずんと歩いていく。


 そんなパラソル少女の後方には、日傘を差した黒いドレス姿のモノが後を追っていた。


 フリルをあしらい豪華な装飾に裕福さを強調させるドレスをまとったそので立ちは、さながら貴婦人と言った感じだ。


 貴婦人は鳥籠とりかごともドーム型とも言える半円状の日傘を、頭を覆うように差しているため顔を確認することは出来ない。


 シルエットだけ見れば人と変わらないが、貴婦人は早歩きくらいのスピードでずんずんと前を行くパラソル少女の後ろを、ぴったりくっ付く様について行っているのだ。


 普通ドレスを着たまま歩けば、多少は足元の布がなびきそうなものだが、貴婦人のドレスは形を変える事はなく、わずかに地面から浮いた状態で、氷上ひょうじょうすべるカーリングストーンのように平行移動のままパラソル少女を追従していた。


 2体の出で立ちとこの空間に居ることから、人では無いことは明らかだった。


 余りに異様、余りに異質――。


 さいわいパラソル少女と貴婦人が向かう先は、病院や佳奈かなの自宅がある方面ではなかったため、佳奈かなは遥か下方を横切る2体に気づかれないようにしながら、やり過ごす事にした。


 「何だ、この感じ……。とにかく、アイツらはヤバそうだ……」


 遠ざかるパラソル少女と貴婦人の後姿うしろすがたを見届けながら、佳奈かなはそっと後退あとずさると、病院へと引き返すのだった――。

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