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メスガキラー  作者: わっか
アイアン・メイデン編
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第51話 検証

 あれから時間が合う時は皆で集まり処刑女しょけいじょの捜索をこころみたが、成果はかんばしくなかった。

 捜索の最中さなか、私達はアサブクロと遭遇――。

 クマ子はこれを撃破し、魔力の回収に成功。

 処刑女戦へ向けた最低限の準備は整ったものの、こちらから特定のキラードールを見つけ出すというのは容易ではなかった。



 平日のある日――。


 今日は皆の予定が合わず、捜索は後日に回された。


 私は、ボロアパートからさほど遠くない住宅街の道路を闊歩かっぽしている。

 一人での時間が出来た今、ずっとためしてみたかった事を実行することにしたのだ。


 「……」


 車が一台も見受けられない道路の真ん中で立ち止まると、私は自分の手首に目をやる。

 腕には、パステルカラーをした安っぽい腕時計をはめていた。


 これから私が行おうとしているのは、ゾーンに関する検証である。


 ゾーンの展開から閉鎖までの所要時間。そもそも発生者が閉じない限り永遠に展開し続けているのか。その事実を確かめておきたいのだ。


 取り敢えず30分を目安に計測し、それ以上経っても閉じないようであれば自分で閉じる事にしよう。

 ゾーンが閉じるまでの正確な時間を把握しておくべきなのだろうが、ゾーン内に長く居過ぎるとこちら側へ戻って来れなくなる……、そんな悪い妄想が脳裏をよぎっていた。


 実際そんな事は無いかもしれないが、絶対にありえないとも言い切れない。

 一人でいる以上、何かあった時に対応しきれないため、安全を配慮してゾーン内に長居し過ぎない事とする。


 そして、ひなたが教えてくれた情報を裏付けるために、ゾーンが閉じてから4時間後に再発動が可能なのかも確認しておきたい。


 「ふー」


 私は静かに息を吐いた。

 ゾーンを展開させるのは初めてなため、何とも言えない緊張感が走る。


 「よし! いくわよ」


 その場でゾーンを広げる意識を持って、軽くりきんだ。


 「んっ!」


 すると、“ロリポップ”の中心から、まるで膨らむシャボン玉のように色のない空間が広がろうとする。

 しかし半径2メートル程度しか広がらず、膨らんだりしぼんだりを繰り返し、明らかに展開しきれていない。


 「ちょっと、“ロリポップ”っ! もっとすんなり出しなさいよ!」


 私はりきみながら、内にため込んだ力を体外へ解き放つように振る舞ってみた。


 「んん~っ! はっ!」


 直後、一瞬でゾーンが辺り一面に広がり、世界は色の無い空間へと姿を変えた。


 「おお~」


 周囲を見渡しながら、私は思わず満足感から声を漏らす。

 私がこの空間を発生させたのだ。そして、魔力の減少も確かに感じた。

 引き込まれていない場合のゾーンというのは、秘密基地のように特別で居心地が良い場所のように感じられた。


 「はっ!」


 我に返ると、私は周囲に目をやり警戒する。

 私が故意に引き込んでいなくとも、キラードールや契約者がいる可能性はある。

 だが、その不安は杞憂きゆうであり、見たところ私と“ロリポップ”以外この空間には居ないようだ。


 「あっ」


 私は肝心なことを思い出すと、急いで腕時計に備わっているストップウォッチのスイッチを押し、計測を開始した。

 ゾーンの発生から既に30秒程経ってしまっていたが、計測終了時はここの誤差がある事を念頭に置いて、後は自然に閉じるのを待つことにする。


 「まぁ、ぼぉ~と待っていてもつまらないし……」


 そうぼやきながらロリポップを舐めだすと、私は“ロリポップ”の方へ目をやった。


 「よっと」


 以前ビルを登った時と同じように、“ロリポップ”に肩車する形でまたがると、長い両耳を左右の手で操縦桿そうじゅうかんのように握りしめた。


 「よしっ、行くわよっ! “ロリポップ”っ!」


 私の呼びかけ、そして脳内での指示を受けて、“ロリポップ”は走り出した。


 「おおーっ」


 “ロリポップ”は長い前足を地面に押し付け、自分の体に引き寄せるようにしながら前方へ跳ぶ。着地と同時に走り続けながら、また同じ動作を繰り返していく。

 加速しながら、私の周りの景色が流れる。


 「ははっ! “ロリポップ”!」


 私の指示を受け取ると、“ロリポップ”は地面を蹴り上げ民家よりも高く飛び跳ねた。


 「おお~っ!」


 着地し先ほどのように走り続けてから、再度上空へ飛び跳ねる。


 「はははっ!」


 これは楽しい。

 まるで、アトラクションにでも乗っているような気分だった。


 飛び跳ねて空へと舞い上がる際に全身で感じる風は爽快であり、上空で最高地点に到達した時は、無重力感と共に見慣れながら別世界となった街並みを見下ろす。

 落下しながら胸がそわそわする感覚と共に下から上へと吹きすさぶ風は私の体を冷やしてくれた――。



 気が付けば、数駅分の距離を移動している。

 行く当てがあるわけではないが、楽しさのあまり“ロリポップ”にまたがりながら進み続けていた。


 なるほど、ひなたが移動手段として利用するのもうなずける。ゾーンの発動回数に制限が無く、魔力を消費しないのであれば毎日でも利用したいくらいだ。


 そこで、ふと私は自分の腕時計に目をやる。


 「あっ……!」


 既に15分以上経過していた。


 (んっ……)


 “ロリポップ”に指示を出し、飛び跳ねるのをめさせる。

 私が今まで発動中のゾーン内にいた時間は、せいぜい10分から15分くらいだろう。


 ここから先はいつ閉じるかわからない。

 上空にいた時にゾーンが閉じれば、“ロリポップ”は透けてしまい、私は高所から地面に叩きつけられてしまう。

 想像しただけでも恐ろしい。


 “ロリポップ”は走るのをめて、歩行へ移る。


 やや遠くまで来てしまい、帰るのを面倒に感じていた時だった。


 (……っ!?)


 突如“ロリポップ”に触れている部分が透けてしまい、私はその場で尻餅をつく。


 「あいたっ!」


 ハム子のようなリアクションを取ってしまう。

 私はお尻をさすりながら起き上がり周囲に目をやると、世界は色を取り戻していた。


 ゾーンが閉じられたのだ。


 「んっ」


 私はストップウォッチをめる。

 16分45秒――。

 ゾーンが開かれてから計測開始まで約30秒遅れていたため、これに遅れた分の数値を足して17分15秒。そして閉じてから、計測終了までにプラス15秒ほど掛かってしまったため、それを差し引くと実際のゾーンの展開時間が導き出せる。


 (17分……)


 初めての計測なため正確とは言いがたいが、これがゾーンの展開最長時間のようだ。


 「ふーっ」


 私は軽く息を吐くと再び計測を開始し、“ロリポップ”に声を掛けた。


 「いい? “ロリポップ”。ゾーンが展開できるようになったら、すぐに発動しなさい」


 “ロリポップ”はこちらを見てから、ゆっくりと顔をらした。聞いているのかいないのか、よく分からないのだ。


 私はどうせ戻るなら、また“ロリポップ”に乗って帰った方が楽なため、4時間後の再発動まで時間を潰すことにした。


 (ここって……)


 周囲に目をやると、その住宅街には見覚えがあった。


 (まさか居ないわよね……)


 私はしばし歩みを進めながら、とある人物を探して回る。


 「あっ」


 それは全くの偶然だった――。


 しかし、目的の人物に出会えたため私は小走りで近づくと、その背中を軽く叩きながら声を掛けた。


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