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メスガキラー  作者: わっか
アーマリィ編

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第46話 二台

 自己紹介を終えて、私はギャル子とハム子に確認を取った。


 二人とも初めての憑依の際にやはり“あの声”を聞いており、この件は全ての契約者に共通して起きている事象なのだろう。


 またクマ子の時と同様、全体で話を進める前に“アサブクロ”や“憑依体”など、この事態に関する言葉を統一していった。


 一頻ひとしきり用語を照らし合わせたところで、ハム子は小さく手を上げて尋ねてくる。


 「あのー、“キラードール”と言うのは?」


 私はサムズアップにした手を横向きにして、隣で突っ立っている“ロリポップ”を指しながら答えた。


 「コイツらのこと」


 広くとらえれば、謎の存在、化け物の事をひっくるめて言ってもいいのだが。


 「はあ……。でも、“ドール”って“人形”って意味っスよね?

 ハム蔵さん達どう見てもぬいぐるみっぽいですし、“キラー・スタッフト・トイ”の方が正しいのでは?」


 「長い、却下」


 「えぇ……」


 私は握り拳を作って、机をバンと叩いた。


 ハム子は条件反射的にビクつき、肩をすくませる。思いのほか、大きな音を立ててしまった。


 「呼び方なんてどうでもいいのよ。 ニュアンスが伝われば」


 「んー」


 ハム子は納得のいかない顔をする。


 すると、私達の話に割って入るようにギャル子が声を上げた。


 「ねえねえ! あーし、みんなの連絡先知っておきたいんだけど!」


 ギャル子の発言で思い出したように、クマ子も声を上げる。


 「……そうだ弥兎みう、お前のスマフォの番号を教えろ」


 私は冷めた目で答えた。


 「持ってない」


 「……? 忘れたのか?」


 「違う、私はスマフォを持ってない」


 「……持っていると言っただろ」


 「そんな事、一言も言ってないわ。あんたが勘違いしただけでしょ。

 いい? 私はスマフォを持っていないの!」


 そう、私はスマートフォンを所持していない。

 元々それを持つほど金銭的に余裕がないのもあるが、したしい友人がおらず、頻繁に連絡を取り合う相手が居なかったため、必要と感じたことがなかったのだ。


 「えぇ~、今時スマフォ持ってないとか。ウサちゃんお勤め終えたばかりとかぁ?」


 ギャル子は茶化すような顔で言ってきた。


 「失礼な」


 ギャル子は嫌な奴だと思った――。


 「うちはね、貧乏なの。そんなのに金を使うなら生活費に回すわ」


 「……今は機種がタダのもあるぞ」


 「そういうのって通信料は掛かるんでしょ?」


 「……当たり前だろ」


 「なら、論外ね」


 話を聞いていたギャル子は涙ぐんだ。


 「ふへへぇ~んっ! ウサちゃん可哀そうだしぃ~」


 「ウサさん苦労してたんスね……」


 「……極貧ごくひんキャンディー中毒」


 「ああぁんっ!?」


 クマ子の罵倒を受け、ハム子を睨んだ。


 「今、言ったのクマさんスよ!?」


 分かっている。クマ子を睨んだところでどうせリアクションがないので、ハム子に八つ当たりをしたのだ。


 私は椅子にふんぞり返ると、わざと嫌味ったらしく大袈裟な振る舞いをした。


 「あぁーやだやだ、これだから“普通”の家庭の子って奴は。

 自分たちの今の状況が当たり前だと思って、現状のありがたみに気づきもしないんだから」


 私はいじけた態度を取る。


 そんな私に構わず、ギャル子は話しかけてきた。


 「じゃあじゃあ、あーしのスマフォ貸してあげる!」


 「えっ? いや……そんなのあんたが困るでしょ?」


 「へーき、へーきっ! あーしメインとサブで二台スマフォ持ってるから、こっちのサブのスマフォをウサちゃんに貸したげるしぃ!」


 そう言うとギャル子は一台のスマートフォンをこちらへ差し出したので、私は手を伸ばしてそれを受け取った。


 「いいの?」


 「うん! ほらっ! あーしはこれがあるしぃ」


 ギャル子は私に渡した物と全く同じ色・同じ機種のスマートフォンを持って、アピールするように軽く振って見せた。

 ギャル子が持つメインとするスマートフォンが私のサブの物と唯一違う点は、紅葉もみじのストラップが付いていることだ。


 「紅葉もみじ好きなの?」


 私はギャル子に聞いてみた。

 彼女が片耳に付けているイヤリングもまた、紅葉もみじだったからだ。


 「これかえでだしぃ~」


 そう訂正すると、ギャル子は自分のイヤリングを指先でピンと跳ねる。


 「えっ……、違いが分かんない」


 「……まあ、細かい点で言えば違いはあるが、一般人からしたらどちらも似たような意味だ」


 横からクマ子が説明をしてくれた。


 「でも、これはかえでだかんね!」


 今度はスマートフォンのストラップを指差すと、ギャル子はきっぱりと言い切った。


 「にしてもこんなに見た目が同じだと、メインとサブで間違える事もあったんじゃない?」


 私は率直な疑問を投げかける。


 「……全くだな」


 すると、クマ子が不貞腐れた様子でぼそりと呟く。


 「ごめんてぇ! クマちゃ~ん!」


 それを聞いたギャル子は、すぐさまクマ子へ手を合わせてびていた。


 「ほんとにいいの?」


 私は上目遣いでギャル子に尋ねる。


 「もち! そうすればウサちゃんといつでもお話し出来るし、支払いはあーしの方で持つから、ウサちゃんの負担にもならないでしょ!」


 ギャル子は楽しに話しながら、そう提案してくれた。


 私は自分の胸元へ借りたスマートフォンを押し当てると、ギャル子の案を受け入れる事にする。


 「ありがと」


 「うん!」


 ギャル子は良い奴だと思った――。


 「って、ちょっとクマ子!」


 私はある事に気づくと内緒話をするように口元に手を当てながら、前のめりになる。


 「今って、スマフォ二台持ちが普通な訳?」


 クマ子もスマートフォンを二台所持しているのだ。


 クマ子は顔を上げて私の目を見ると、再び目線を下げてスマートフォンの操作に戻りながらぼそりと呟く。


 「……当たり前だろ」


 (――っ!?)


 私に衝撃が走る――。


 (知らなかった、私は知らなかった――。

 私が貧乏を極めているうちに、世間はそこまで裕福になっていたのか……)


 私が自分の現状の深刻さを痛感していた時だった。


 「いや、持ってても一台っスよ。ウサさんに嘘教えちゃ駄目っスよ」


 「えっ?」


 ハム子はクマ子の発言に意見する。


 クマ子を見ると、片方の口角だけを上げ“くくくっ”と笑っていた。


 (おのれ、クマ子っ!)


 私はクマ子に睨みを利かせながら、右腕を真横へ真っすぐ伸ばす。

 頭上に私の手が来たため、ハム子は体をビクつかせる。

 クレーンゲームのアームのようにした私の手をハム子の頭に下ろすと、雑に撫でてやった。

 ハム子はどうすれば良いのか分からず、わなわなと震えている。


 「ぷぷぷっ。もお~、ハムちゃんウサちゃんにビビり過ぎだしぃ~」


 「ギャルさんは知らないんスよ。殺気立ったウサさんは、とにかくおっかないんスから……」


 私はハム子を撫でるのをめると、訂正を兼ねて言葉を掛ける。


 「だから誤解よ。そりゃあ、結果的にやり合う事になったけど……。

 大体、先に仕掛けてきたのはあんたでしょ?」


 「抵抗しなきゃ、自分はお陀仏だぶつだったじゃないっスかぁ!」


 ハム子は必死に反論してきた。


 「私は最初に“聞きたいことがある”って言ったわよ」


 「それは……そうっスけど……」


 が悪いと思ったのか、ハム子はうつむき押し黙ってしまう。


 「はぁー……、何があったのよ?」


 私は、改めてハム子から事情を聞くことにした。


 ハム子はゆっくりと話し出す。


 「あの頃……ハム蔵さんに出会ってから自分に起こった事が理解できず、困惑していたんス……。

 そんな時、例の麻袋の化け物に襲われまして……もうダメかと思ったんスよ。

 そしたら知らない契約者の方が現れたかと思うと、あっという間に化け物を倒しまして助けてくれたんス。

 だから良い人かなと思ったんスけど、その方……助けた見返りに自分に従うように言ってきたんス」


 私達はハム子の話に耳を傾ける。


 「自分は、目の前で化け物をバッサリやっちゃってるその方を見てビビっちゃいまして、思わず断っちゃったんスよ。

 そしたら、その方態度を一変いっぺんさせて自分に襲い掛かって来まして、命からがら逃げだしたんス……」


 ハム子は俯きがちなまま、時より私達の方を見る。


 「だから、この力を持っている人はおっかない人なんだと思い、その後外を歩いていても何時いつそうした人に出くわすかと思うと怖くて怖くて、怯えてたんス……。

 そんな時……街中で声を掛けられ、振り返るとウサさんがおっかない顔しながら追いかけてきまして――」


 (まだ言うか……)


 「――必死こいて逃げたんス。

 結局追いつかれてしまい、ヤられるくらいならと……抵抗する事に決めたんスよ。

 窮鼠猫きゅうそねこを噛むってやつっス」


 「この場合はウサギだけどねぇ!」


 茶々を入れるギャル子の肩にクマ子はそっと手を置き、黙らせた。


 (そういえばあの時――)


 当時のハム子の言葉を思い出す。


 「(そんなこと言って! 騙されないっス! あんさんだってきっと同じだっ!)」


 (他の契約者を知っている口ぶりだったな……)


 「……それで、真奈美まなみを襲ったのはどんなドールだったんだ?」


 話を聞き終えたクマ子が、ハム子へ問いかける。


 「あれは……――」


 深く俯くと当時を思い出したのか、ハム子の頬を冷や汗が伝う。


 俯きがちなまま目線を上げると、ハム子はその特徴を口にした。


 「――ライオンだったっス……」


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