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メスガキラー  作者: わっか
アーマリィ編

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第44話 恐竜

 「んっ?」


 ギャル子は私達に気づくとその場で立ち上がり、近いにも関わらず腕をピンと伸ばしてこちらへ手を振る。


 「あっ! クマちゃ~んっ!!」


 「……ん」


 クマ子は無愛想な返事をした。


 立ち上がったギャル子は私よりも背が高く、その雰囲気から年上なのが一目で分かる。


 セミロングの髪をウェーブヘアにし、右側をサイドテールにしている。


 褐色肌かっしょくはだのギャル子は、太股ふとももあらわになっているタイトミニスカートをき、谷間の見えるチューブトップの上に、パーカーを肩と二の腕が出るように着崩きくずしていた。


 唇はリップでつやをだし、目元はアイシャドウでバッチリとメイクをしている。

 耳には紅葉もみじと思われるイヤリングを付け、首元はハート型のネックレス、全てのつめにマニキュアまで塗っており、何ともゴテゴテとした奴だ。


 クマ子はギャル子の後ろを周り、彼女の右側の席へ座る。

 私は階段を背にする形でクマ子の正面の席に腰掛けると、一度店内を見渡した。


 二人組の学生・子連れの主婦・年配の男性と客はまばらで、確かにこの時間帯にしては客が少なく、落ち着いて話すなら穴場の店舗と言えるだろう。


 そこで、私の興味は今一度ギャル子へ戻る。


 彼女もまた、契約者なのだ。

 そうなると、ギャル子のキラードールがどんなヤツなのかが気に掛かった。


 私は右斜めの方向へ顔を向けるとギャル子は背筋をピンと伸ばし、目をパチクリさせながら口をUの字にして、期待するような眼差まなざしでこちらを見ていた。


 彼女の真後まうしろに居るキラードールへ目をやる。

 ちょうどギャル子と重なり、どんなドールなのかいまいち分からなかった。


 私は体を傾けてギャル子の後ろを確認しようとするが、私の動きに合わせてギャル子も同様に体を傾けた。

 私が体勢を戻し改めて確認しようとすると、ギャル子は私の視界をさえぎるように同じ方向へ体を戻した。


 (全然見えない……)


 ギャル子を見ると先程と変わらず、目をパチクリさせながら私へ期待の眼差しをしている。


 「気になる!? 気になるっ!? ウサちゃんっ!」


 こちらへ熱い視線を送り、興味があると言ってくれと言わんばかりだ。


 「別に」


 しゃくなので、そう答えた。


 「うそぉ~! 絶対気にしてるしぃ~!」


 楽しげに答えながら、ギャル子は体を動かす。


 「あーしのはねぇ~……」


 座ったまま意気揚々と体を横向きにすると、左右の手を真っすぐ延ばして大きな“く”の字を作り、大々的に自分のキラードールを見せつけた。


 「じゃあ~んっ! 恐竜だしぃ~!」


 「なっ!?」


 私は目を丸くして驚愕する。


 そこに居たのは恐竜型のキラードールだった。


 私はその分野に詳しくないため、それがティラノなんたらなのか、トリケなんたらなのか分からないが、とにかく恐竜だった。


 何だか凄くずるい気がした。なるほど、クマ子が私では勝てないと言うはずだ。

 イメージに過ぎないが、ウサギとクマそして恐竜ときたら、どれが強そうかは明らかだ。


 「驚いてる!? 驚いてくれたよっ! クマちゃん!」


 ギャル子はクマ子の左肩に両手を置くと、軽く揺さぶる。


 「……そうだな」


 クマ子はスマートフォンをいじりつつ、画面から目を離さずに生返事をする。

 すでに一人で食べ始めており、小さな口でハンバーガーをちまちま食べていた。


 「はぁ……」


 思わずため息が出る。とりあえず私も食べる事にしよう。

 包装紙をめくると、腹がいていたため私はバクバクとハンバーガーを食べ始めた。


 ギャル子も自分の分は注文していたようだが、私達を待っているあいだに完食したのか、トレイの上はたたまれた包装紙とドリンクのみだった。


 「今日って顔合わせだけなの? クマちゃん?」


 ギャル子がクマ子へ尋ねる。


 「……弥兎みうに私が知りうることを伝える約束をしている。……全員で一度、現状における情報を共有し、整理しておきたい」


 それを聞くと、ギャル子は目を細めて得意げな顔をした。


 「ふーん。ウサちゃん、知りたがり屋さんなんだぁ~」


 「……」


 私は身構える。


 「それじゃあ、あーしがウサちゃんに取って置きの情報を教えてあげる!」


 「何?」


 聞けることは聞いておきたい。


 すると、それまで笑顔だったギャル子は真剣な顔つきになる。

 握った拳から人差し指だけを上へピンと立たせると、私に真面目な声色で言ってきた。


 「これだけは覚えておいて、ウサちゃん……」


 「んっ」


 私は生唾なまつばを飲む。


 「ネギトロの意味は、野菜や魚のねぎやトロじゃなくてね――」


 「うんちくなんて、どうでもいいのよっ!」


 私は思わず声を荒らげる。この現状に関する話ではなかった。


 「ごめん! ごめん~っ! 今度はちゃんと話すしぃ~」


 「たくっ……」


 「ウサちゃんよく聞いて……」


 ギャル子は再び真剣な顔つきになる。

 私はもう一度だけ、真面目に聞く姿勢になった。


 「信玄餅しんげんもちの正しい食べ方は――」


 私は堪忍袋の緒が切れた。


 「あんたもういいわよっ!」


 ギャル子へ向けて手で追い払う仕草をしながら声を上げると、私は不貞腐ふてくされたようにそっぽを向いた。


 「へえっ……?」


 それまで楽しげにしていたギャル子は口をわずかに開け、スンとした表情になる。

 硬直して動かないまま目がうるんでいくと、その瞳から涙が溢れ出すと同時に顔をくしゃくしゃにしながら隣に居るクマ子へ泣きついた。


 「ふへへぇ~んっ! クマちゃ~んっ!! ウサちゃんが、あーしのことイジメるしぃ~!」


 「いじめてないわよっ!」


 ギャル子は抱きついたまま、クマ子の体を揺さぶりながら泣きじゃくっていた。

 当のクマ子は、構わずスマートフォンの操作を続ける。


 「あーし、あーしただ……、仲良くなりたかっただけだしぃ~!」


 「何なのこいつ……、ちょっとクマ子っ!」


 私はクマ子へ見解を求めた。

 クマ子は目線だけ私に向けると、ぼそりと呟く。


 「……夏樹なつきはこういう奴だ。諦めろ」


 「はあ~……」


 私はさらに深いため息をつくと、残ったハンバーガーを頬張り平らげる。

 包装紙をくしゃくしゃに丸めると水を飲み干し、音を立てて腰を上げた。


 それを見たギャル子は私に注目する。


 「へえっ……? ウサちゃん、マジで怒った……?

 ごめん~っ! あーし、マジで謝るしぃ~!」


 ギャル子は血相を変えて、私にびようとする。


 「ゴミ捨てるだけよ」


 私はトレイを持って、真後ろを向くと席を離れた。


 「ふへへぇ~んっ! クマちゃ~んっ! もっとコミュ力上げたいしぃ~!」


 「……お前は少し下げろ」


 後ろの会話を聞き流し、私の席の後ろにあった返却棚へやって来る。

 下段にある種類別になったゴミ箱へゴミを入れ、トレイは上段で既に重ねられているところに戻した。


 「全く……」


 初めて会う契約者との接触に緊張感を持って来たというのに、とんだ拍子抜けだ。


 (それとも何か企んでいて、わざと私を油断させているのか? ……無いな)


 ギャル子との会話に疲れてしまっていると、ちょうど階下から一人の客が上がって来た。


 私が何気なく入り口である左側へ目をやると、そいつは商品が載ったトレイを持って階段を上がりきったところだった。


 その客はその場で立ち止まり、席を決めようと店内を見渡す。


 そこで一番手前に居る私と視線が重なった。


 私と目が合うなり硬直すると、そいつの口と瞳孔どうこうがゆっくりと開いていく。

 徐々に全身が小刻みに震え出し振動が商品にまで伝うと、ドリンクはトレイの上で踊り今にも倒れそうだ。


 その客は学生服の上にカーディガンを着込み、リュックを背負っているようだった。


 セミディヘア程の後ろ髪を手前へ流し、前髪は中央をぱっつんにしている。頭頂部の左右の髪をわずかに立たせ、まるで小動物の耳のようなヘアスタイルをしていた。


 太く短い眉を逆八の字にして、冷汗をかきながらおびえている。


 驚愕きょうがくし、その場から動けなくなっているその人物には見覚えがあった――。


 「何スか!? 何で居るんスかっ!?」


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