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メスガキラー  作者: わっか
コングリィ編

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第42話 気まぐれ

 「私はね、ずっと友達が欲しいと思ってたんだ。

 あの頃、初めて見かけた中倏なかじょうさんはとてもまぶしく輝いて見えた。堂々としてて、自信たっぷりで――。

 私もあんな風に振る舞えたのなら、もっと人付き合いが上手く出来たのかとよく考えてたよ……」


 「あれがぁ? らむね、あんた見る目なさすぎ。ただの自信過剰な性悪女でしょ」


 「……おい」


 らむねは私へ向けて言ってきた。


 「自信を持てるって、それだけですごい事なんだよ。東林とうばやしさん。

 私にはそれがうらやましかったから。

 でも、あの学校で私を気に掛けてくれる人なんていないのかな……」


 悲しにぼやくらむねに、クマ子は声を掛ける。


 「……少なくとも下帯しもおびはそうではないだろう。今日の事をあいつは覚えていないが、あの時お前に掛けた言葉は紛れもない下帯しもおびの本心だ」


 「そうよ。あんな声のデカい自信過剰性悪バカより、下帯しもおびとの方が上手くやっていけんじゃない?」


 「私も接してて、下帯しもおびさんとは気が合うかなとは思ってたけど、あんな状況だったし……。

今更友達になりたいなんて、言い出せないよ。切り出す切っ掛けも分からない……」


 「そんなの一緒に飯食おうとか、今度の休み暇? とかから始めればいいのよ。

 仲良くしたいって本音で接しなきゃ、相手に伝わらないでしょ?」


 らむねはもじもじと、困った表情で答える。


 「人に本音でぶつかるのって、怖い事なんだよ? 東林とうばやしさん……」


 それを聞いた私は、らむねの背中をバシッと叩いた。


 「恐れずあゆみ出せ、らむね! つまづいたって、後退じゃないんだから!」


 「はっ――! うん……、うんっ!」


 らむねは、どこか吹っ切れたように返事をするのだった。


 「じゃ! もう、行くわ」


 私はその場を離れていく。


 「……じゃあな」


 クマ子はらむねへ一声かけると小走りで私に近づき、ぼそりとつぶやく。


 「……偉そうに」


 「うっさい!」


 「ふふっ」


 そんな私達のやり取りを見ていたらむねは、軽く握った手を口元に当てると、まるで憑き物が落ちたような屈託のない笑顔で、クスクスと笑っていた――。



 家へと帰る道すがら、小さな公園に設置された自販機に気づいたクマ子は私に聞いてきた。


 「……お前、飲み物は何が好きなんだ?」


 「今は炭酸が飲みたい」


 休憩がてら、その公園のさくにもたれかかった私は自販機で飲み物を買っているクマ子を待っていた。


 別に期待などしていない。

 戻って来たクマ子は自分の分の飲み物だけを持ち、私が“私の分は?”と尋ねると、“……奢るなんて言っていないぞ”と言い張る姿が目に浮かぶ。


 「……弥兎みう


 「えっ? ……おっと!」


 クマ子に名前で呼ばれたことに驚き、私は振り向いた。

 すると、クマ子は買ったばかりの炭酸飲料をこちらへ向けて投げて来たため、私はそれを両手で受け取り、呆気にとられながらもクマ子を見た。


 くまが薄れるくらいの夕日に照らされるクマ子は、真顔ながらどこか満足そうな面持おももちで答える。


 「……助かったぞ。ありがとう」


 「おっ、おう」



 しばし柵にもたれかかったまま、私達は並んで飲み物を飲んでいた。

 今回の出来事を振り返り、私はクマ子へ尋ねる。


 「ねえ、クマ子……」


 「……なんだ?」


 「いじめって、無くなると思う?」


 クマ子は少し考えてから答えた。


 「……無理だな、人間は弱い者をしいたげるのが好きだから。人が人である限り、無くなる事はないだろう」


 「そうね、そうかも……」


 諦めのような言葉とは裏腹に、私の中では強い思いが満ちあふれていた。


 (でも、無くす努力を惜しんじゃいけないんだ)


 多くの者の思いが入り組んだ今回の事件は、アサブクロのような化け物を倒せば良かった今までの戦いと違い、終わりを迎えても様々な事を私に考えさせ、心にしこりを残していたのだった。


 だが、全てが無意味だった訳ではない。

 くせのある奴だが、私は――クマ子……熊見くまみ 花子はなこという頼れる仲間を得たのだから。



 「あっ――」


 クマ子と共に帰路へ就く最中さなか、私は思い出したように声を上げた。


 「そういえば、何で下帯しもおび 野乃花ののかを助けたかったの?」


 未だに不鮮明なこの点を、クマ子に尋ねた。


 「……えっ、ああ……」


 駅へと向かう直線の通りで、クマ子は星が薄っすらと見え始めた空へ黄昏たそがれるように目をやると、黒のスマートフォンを握りしめながら、ぼそりとつぶやく。


 「――……ただの……気まぐれさ」


 感傷かんしょうひたるように空を見つめるクマ子が、それ以上を語る事はなかった。



 ――とある一室で、その人物は雑誌の下に埋もれていたスマートフォンを拾い上げる。


 「あちゃ~」


 スマートフォンの電源を入れると、お知らせのらんには花子からのメールや着信が十数件溜まっていた。


 「んん~、クマちゃん怒ってるかなぁ~」

コングリィ編 完 次回へ続く。


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