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メスガキラー  作者: わっか
コングリィ編

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第38話 四つ腕

 樋郡ひごおりは元の両手で地面に手をくと、そのまま両腕で体を支え足を浮かせた。

 前傾姿勢のまま更に体を前に倒し、背中の両腕を前へ突き出し地面に手を突くとナックル・ウォークの姿勢になる。


 「んっ!――」


 樋郡ひごおりはクマ子に鋭い眼光を向ける。

 力強く地面を押し上げると、四本の腕を足代わりにまたたく間にクマ子へ急速接近する。


 「なっ!?」


 私が反応する頃には、既に樋郡ひごおりはクマ子の前まで移動していた。


 (さっきまでとは比べ物にならない――! なんてスピード……!)


 樋郡ひごおりはクマ子の前まで来ると地面から手を放し、両足で地面を踏みめる。

 全ての腕で握り拳を作り、四本の腕からなる連続殴打――“四腕連打よんわんれんだ”をクマ子へ放った。


 「……くっ!」


 クマ子は顔の前で腕をL字に曲げ、防御に徹するしかなかった。


 樋郡ひごおり四腕連打よんわんれんだは正面の攻撃のみ防げているが、それぞれの腕が角度を変えて左右からも放たれ、確実にクマ子への攻撃は通っていた。


 「……っ!」


 クマ子は隙をついて殴打を放つ。


 樋郡ひごおりの拳とクマ子の拳がぶつかり合い、空気を切って突風が吹きすさぶ。


 クマ子の拳が押し勝ち、樋郡ひごおりの拳は反発するようにはじかれた。


 クマ子は樋郡ひごおりの本体へ攻撃を向けようとするが、すぐに残りの長い腕から連続で殴打を放たれ、クマ子は再び防御へてっせざるを得なかった。


 私はクマ子の言葉を思い出す――。


 クマ子の攻撃は強力だ。それは、あのアサブクロを一撃でうち倒した事からも明らかだろう。

 先程の拳のぶつかり合いでクマ子が力で打ち負かしたように、同じ殴打を得意とするパワー型の樋郡ひごおりと比較しても単発の威力はクマ子の方がまさっている。

 だが、樋郡ひごおりの長い腕からなるリーチは、中距離からの攻撃が可能だ。

 加えて能力使用時のつ腕による手数の多さは、対象に命中さえすれば強力なクマ子の攻撃を通す隙さえ与えない。


 一対一であれば、クマ子にとって相性が悪い相手と言わざるを得ない。


 「クマ子っ! ――っ!?」


 「はああーっ!」


 私は後方に跳び、攻撃をかわす。

 三節棍さんせつこんが道路をくだくと、中倏なかじょう妹が立ち塞がった。


 「退けっ! 中倏なかじょう妹!」


 「黙れっ! ――言う通りにしないと、お姉ちゃんが……!」


 中倏なかじょう妹は手を震わせながら、必死な形相ぎょうそうで私の前に対峙していた。


 「中倏なかじょうが……?」


 なるほど。どうやら姉の事で脅され、言いなりになっているようだ。


 「はああぁぁーっ!」


 中倏なかじょう妹は三節棍さんせつこんをやたらめったらに振り回してきた。

 狙って攻撃してこない分、かえって挙動が読めない。


 「あいつのゴリラに何度殴られたって! お姉ちゃんのためなら……耐えて見せる! 何だってやってやる!」


 「くっ!」


 このかんにも、クマ子は攻撃を受けている。


 (あんたに構っている暇はないのよ!)


 私は憑依体の右腕の鉤爪かぎづめを地面に突き刺すと、左腕を伸ばす。

 突き刺した右腕をじくに、左腕を大きく振りかぶった。


 「ふうんっ!」


 バチンとはじく音が響き渡る。


 「あああぁぁ~っ!」


 しなった憑依体の腕にはじかれ、中倏なかじょう妹は吹き飛ばされた。


 私は跳び上がると腕を伸ばし、樋郡ひごおりへ斬撃を放った。


 樋郡ひごおりは私の攻撃を背中で受けながらも、構わずクマ子への四腕連打よんわんれんだめようとしない。


 浮き上がっていた私の体は徐々に高度が下がっていき樋郡ひごおりへの距離を詰めると、樋郡ひごおりは体を大きく一回転させ私とクマ子をぎ払った。


 「ぐわぁっ!?」


 「……んっ!」


 回転によって勢いいた樋郡ひごおりの憑依体の腕が私に当たり、再び後方へ吹き飛ばされる。


 「ぐはっ、んん~っ……、――くっ!」


 私はすぐさま体を起こし、ひざをつきながら樋郡ひごおりへ目をやると、即座にクマ子への攻撃を再開していた。


 (くっ! あくまで攻撃のかなめである、クマ子から先につぶすつもりか!?)


 「無視してんじゃないわよ!」


 私は憑依体の腕を伸ばす。

 樋郡ひごおりの背中越しに彼女の憑依体の二本の右腕を私の右腕で、二本の左腕を左腕でぐるぐると巻き付けた。


 「んんっ!?」


 急に腕が動かなくなり、樋郡ひごおりは驚く。


 だが、すぐさまほどこうと暴れ出し巻き付けていた憑依体の腕はゆるみ、私の体が持ち上げられた。


 「ぬうっ!」


 着地した私はその場に踏ん張り、巻き付けていた腕を締め直すと、腕の先の左右の鉤爪かぎづめを地面に突き刺し、先程よりも体勢を安定させた。


 樋郡ひごおりは左右それぞれの腕を縛られ、十字の体勢で両腕を伸ばし胸を張る姿勢となった。


 「今だっ! クマ子!」


 私の腕の伸縮、樋郡ひごおりの腕の増殖があるように、クマ子にもまた――能力は存在する。


 「……ふぅ~……」


 クマ子が息を吐きながら右手の拳を構えると、ひじから先はクマ子の憑依体並みの大きさにまで肥大化した。


 「うっ……!」


 樋郡ひごおりはその巨大な拳を前に、動揺を隠せない。


 「……これは初戦でお前に見せずにいたな」


 「くっ――」


 待ち伏せ時に作戦を話された際、クマ子の能力については聞かされていた。


 クマ子の腕の肥大化は見た目だけでなく、威力もまた増強している。

 クマ子の……私達にとっての、切り札なのだ。


 樋郡ひごおりの体をクマ子の拳の影がおおう。


 「……終わりだっ!」


 「――っ!」


 肥大化した鋼鉄の指が輝くクマ子の拳が、樋郡ひごおりへ向けて放たれた――。


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