表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メスガキラー  作者: わっか
コングリィ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/115

第37話 支配

 「どうして、あいつがここに?」


 突然の中倏なかじょう妹の登場に、私は驚く。


 「……誰だ、あいつは」


 クマ子からしたら、当然の疑問だろう。


 「あいつの名前は中倏なかじょう 妹」


 「……違うと思うぞ」


 間違えた。たしか名乗っていた気もするが、思い出せない。

 私からすれば中倏なかじょうですらどうでもいいのに、その妹となれば覚える気にすらならなかったのだ。


 「柑奈かんなか? いや、それは中倏なかじょうの名前だ。

 駄目だ、思い出せない」


 「佳奈かなよ! 佳奈かなっ! 馬鹿にしてんのか、東林とうばやしぃ!」


 中倏なかじょう妹がキャンキャン吠えていた。


 「あぁー、そんなんだったわね」


 (駄目だ、今にも忘れそう……)


 「……中倏なかじょう 柑奈かんなの妹か、そいつまで契約者になっていたとは。

 ……だが、姉を襲った樋郡ひごおり側に付いているのはどういうことだ」


 「確かに」


 「……まぁ大方おおかた力でねじ伏せ、言いなりにさせているといったところか」


 クマ子の発言に樋郡ひごおりは口を挟んでくる。


 「酷い言いようだね、クマの人。私は力の差を示して、佳奈かなちゃんに手伝ってもらっているだけだよ。

 二人にも見せたかったなぁ。

 初めて会った時は牙をむいた狂犬って感じだったのに、私が負かしてからはすっかりおびえて、今じゃ捨てられた子犬のよう――」


 「要するに暴力で言いなりにさせてんでしょ。中倏なかじょうがあんたにしたのと同じように――」


 樋郡ひごおりは暗い顔をすると、反論してきた。


 「誤解してるよ、東林とうばやしさん。私は……乱暴な人間じゃない、こんな事するつもりなんてなかったのに……」


 樋郡ひごおりは握り拳を作ると、語り出した。



 らむねが柑奈かんなを襲った日――


 中倏なかじょう 柑奈かんなはゾーンに引き込まれていた。


 「何なの……、これは……」


 誰も居ない色を無くした世界を前に、柑奈かんなは困惑していた。


 「なっ、中倏なかじょうさん!」


 「んっ!?」


 柑奈かんなが振り返ると、そこにはい目とぎがあるゴリラのぬいぐるみを連れた、らむねの姿があった。


 「樋郡ひごおり? 何であんたがここに……。

 まさか! これ……あんたの仕業しわざなの?」


 「そっ、そうだよ。中倏なかじょうさん、私――」


 「ふざけんじゃないわよっ! 早く此処ここから出しなさいよ! さもないと、ただじゃ置かないから!」


 柑奈かんなを冷静にさせようと、らむねは落ち着きながら語り掛けた。


 「聞いて中倏なかじょうさん、私は中倏なかじょうさんと話がしたかったの。

 お願い、これまでの事をちゃんと謝って。そうすれば私、全部許すから。

 そしたら私達――」


 らむねの言葉を待たず、柑奈かんなは声を上げる。


 「はあ!? 何で私があんたなんかにっ! ただでさえあいつのせいで、こっちはむしゃくしゃしてるのよ!」


 柑奈かんなは独り言のようにまくし立てた。


 「折角せっかくクラスの連中を懐柔かいじゅうさせたのに、あの一件で私の面子めんつ丸潰まるつぶれよ! あれ以来、どいつもこいつも私の言うことを聞きやしない! あぁ~っ! ムカつくっ!」


 柑奈かんなはその場で地団駄じだんだむと、ふと思いついたように顔を上げた。


 「そうだ……また光桔みつき達と一緒にあんたの相手をしてあげる! 何の取りもないあんたは、私のような特別な人間のご機嫌取りをしてればいいのよ!」


 らむねが拳を強く握ると、その手は小刻みに震えていった。


 「そのしけたツラが袋叩きにされているのを見れば、ちょっとは私の気分も晴れるわ。

 私を満足させたら、ずっと病院にでも引きこもってろ!

 樋郡ひごおり、あんたみたいな居ても居なくても変わらない奴がどうなろうと、誰も気に掛けちゃくれないんだから!」


 「なっ、中倏なかじょうさぁん……うっ――」


 らむねは瞳をうるませながらうつむくと、握り締めていた拳は力なく開いた。


 顔を上げたらむねは冷たい眼差まなざしとなり、瞳のはしから一筋の涙が伝うと柑奈かんなへ告げる。


 「――そう、よく分かった……」



 ――ゾーン内で、弥兎みう達はらむねの話に耳を傾けていた。


 「酷い、酷いよぉ! 私は……謝ってくれれば、それで良かったのにっ!

 どうして中倏なかじょうさん達のおこないは許されて、私はとがめられなきゃならないの!? 私は黙って殴られていれば良かったの!?

 まかり間違えば、私は……死んじゃっていたかもしれない!」


 樋郡ひごおりは体を震わせ涙を流すと、切実な表情で私にうったえかける。


 「世の中にはそういう人達が居るんだよ! 東林とうばやしさん! どれだけ相手を傷付けても心を痛めず、笑っていられる人がっ!

 あの人達は、私がしたって事を覚えていたとしても、誰一人……私に申し訳ないと思ったりしない!

 “面倒な奴に手を出した。あんな奴に関わるんじゃなかった”と、ただの一人も謝ってなんてくれないんだぁぁーっ!」


 樋郡ひごおりは両腕の拳で地面を叩くと、激しい地鳴りが起きる。


 「だから仕返ししたんだよ! 二度と手出し出来ないように、私の痛みを知らしめるために病院送りにしてやった。

 誰より人の痛みが分かる私が、理不尽な暴力を終わらせたんだよ。

 それでも私があんな人達と同じだって言うの!? 答えて、東林とうばやしさん!

 こんな事は望んでいなかったのに……。

 私は……ただ……友達が――」


 「あんたは中倏なかじょうと同じだよ、樋郡ひごおり らむね」


 「――っ!?」


 私は樋郡ひごおりの問いを無視して答えた。


 「どうして……? どうしてそんな酷い事言うの?」


 樋郡ひごおりは隣にいる中倏なかじょう妹を睨みつけるが、すぐに同情の顔へと変わった。


 「分かるよ、佳奈かなちゃん。最初は何をされても反抗心を持ってチャンスを待つよね。でも次第しだいに痛め付けられるのが怖くて、早く終わってくれればと逆らわずに言いなりになってしまう。

 すると相手は面白くないから、増長してやることはエスカレートしていく……。

 それがお姉さんが私にした事、私がされた事……」


 「んっ……」


 中倏なかじょう妹は押し黙ってしまう。


 樋郡ひごおりは私達に向き直ると告げた。


 「あなた達にも教えてあげる。この世界の残酷で許しがたく、揺るがない現実を……。

 はああぁぁぁあ~っ!!」


 樋郡ひごおり雄叫おたけびを上げると、彼女の憑依体の背中からさらに二本の腕が生え出す。


 「っ!?」


 「……くるか」


 計四本の太く長い腕が生え揃うと、元の両腕のこぶし同士をゴツンと合わせ、樋郡ひごおりはより一層物々しい雰囲気をただよわせながら私達へ言葉を発した。


 「――暴力こそが人を支配するの!」

よろしければ、ブックマーク・評価をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ