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メスガキラー  作者: わっか
コングリィ編
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第36話 乱入

 「東林とうばやしさん、目を覚まして! あなたはその人に騙されてる! 私達が争う必要なんてないよ。私の方があなたを理解してるから!」


 「どう理解してくれてるの?」


 私は樋郡ひごおりに問いかける。


 「いじめを受けたものの痛みをだよ、東林とうばやしさん。

 私は突然、理不尽な暴力にさらされた。この体の傷が治ったって、心の傷がえることは決してない。

 こんなつらい思いをする人を無くすために、こんな事を平気な顔で出来てしまう人たちを野放しにしないためにも、私は仕返しをしているの」


 らむねは自分の憑依体の手の平を見つめる。


 「絶望的な状況にいた私を“暴君”が救ってくれた。

 “暴君”の拳は、中倏なかじょうさん達が私に与えてきた痛みを彼女達に知らしめてくれたの。

 私の見ている前で、みんな“暴君”に殴られていた。どんな気分だったんだろうね? いじめていた相手の前で情けない姿を晒すのは。

 少しは身にみたはずだよ。自分達がしてきたことが……」


 私は続けて問いかける。


 「ドールにやらせたの?」


 「“暴君”のこと? そうだよ、東林とうばやしさん」


 「……、あんたの言いたい事はわかるよ。樋郡ひごおり

 同情はするわ。

 ――だけど、賛同はできない。私はあんたとは違うわ」


 「何で……」


 樋郡ひごおりは握り拳をつくり、手を震わせる。


 「なんでよっ!」


 拳を構えると、私目掛けて駆け出してきた。クマ子は一旦後退し、距離をとる。


 「んうっ!」


 樋郡ひごおりは殴打を放つが、私は高くび上がり攻撃をかわした。


 樋郡ひごおりは上空の私へ向けて、言葉を放つ。


 「東林とうばやしさんだって、ぼこぼこにしたって言ってたじゃない! 自分の行いだけ正当化するのはやめて!

 私には分かるの、理不尽な暴力に晒されるものの苦しみが。だから、正当な暴力で仕返しした。それの何がいけないの!?」


 私は言い返す暇がなく、再び憑依体の腕を伸ばして、無数の斬撃ざんげきを地上の樋郡ひごおりへ向けて放つ。


 先程と同様に、樋郡ひごおりは頭上で両腕を曲げ、私の攻撃をしのごうとした。


 だが、両腕の隙間から樋郡ひごおり眼差まなざしが私を射抜いぬく。


 「そう何度もさせないよ」


 「っ!?」


 樋郡ひごおりは頭上で曲げていた左腕を伸ばすと、肩をじくに素早く腕を回した。

 そこで私の憑依体の右腕が樋郡ひごおりの長い腕にからまってしまう。


 「なっ!?」


 自身の腕にからまったのを確認すると、樋郡ひごおりはその腕で私の憑依体の腕をつかみ、自分の方へ引き寄せた。


 同時に右腕で殴打の構えを見せ、私は咄嗟とっさに憑依体の左腕で防御の体勢に入った。


 「ふうんっ!」


 強烈な接触音と共に、樋郡ひごおりの殴打が私に直撃する。


 「うああぁぁっ――」


 私は叫び声を上げながら、放物線をえがいて吹き飛ばされた。


 「ぐあっ!」


 私の体は地面に叩きつけられる。


 「……」


 「……おい、大丈夫か?」


 倒れたまま動かない私へ、遠巻きにクマ子が声を掛けた。


 「――っ!?」


 そこで私は地面に後頭部をつけたまま、海老反えびぞりになり叫んだ。


 「いったぁぁぁ~っ!!」


 その場で足をバタバタとさせる。


 私はゆっくりと、胸を押さえながら立ち上がった。


 大袈裟おおげさなリアクションをとる私は、それ程深刻な怪我ではないと分かり、クマ子は小さく安堵あんどした。


 実際殴られた痛みはあるが、動けなくなるような状態ではなかった。


 「ちくしょう……」


 しかし、考えてみればこの姿でまともに攻撃を受けたのは初めてかもしれない。


 憑依体の時は自身の身体能力も向上している。それを一番実感するのは体の強度だろう。

 高所から着地しようと、私の体はびくともしない。


 だが、同じ憑依体相手ではそうもいかないようだ。


 生身なまみの人間相手なら恐れる必要はないが、憑依体の攻撃を何度も受けていては身が持たないだろう。


 互いに距離をとったまま、しばし膠着こうちゃく状態が続いた。

 そんな中、静寂をかき消すように突如声が上がる。


 「うあああーっ!」


 「……っ!?」


 何者かがクマ子に襲い掛かるとその攻撃は道路の一部をくだき、瓦礫がれきが舞い上がった。


 攻撃をかわしていたクマ子はさらに後退し、樋郡ひごおりに背を向けないようにしながら私の方へ近づく。


 私達は奇襲してきたものの正体を確かめた。


 「ほらっ、こいつでしょ! 見つけた! あたし、ちゃんと見つけた!」


 そこには憑依体となった中倏なかじょう妹が三節棍さんせつこんを持ち、クマ子を指差しながら立っていたのだ。



 ――佳奈かなは褒めてもらうのを待つ犬のような表情で、らむねを見た。


 しかし、らむねは苛立ちを隠せず、眉間みけんをひくつかせながらぼやく。


 「もう……駄犬だなぁ……」


 「あれ……?」


 期待していた賞賛しょうさんの言葉が無かったため、佳奈かなはピンと立てていた指先をらし困惑した。


 文字通り嗅ぎつけたようだが、佳奈かなの実力を把握しているらむねは、たいした戦力にならないと判断し、妨害者二人への対策を早急にることにする。


 (東林とうばやしさん達のコンビネーションは油断ならない……。何とかしなきゃ、私の仕返しがたせなくなる。

 でも、佳奈かなちゃんは当てにできないから、私が相手の戦力をぐしかない。

 そうなると、現状の一番の脅威は……)


 らむねは、花子へ冷たい目を光らせた。


 「佳奈かなちゃん、こっち来て」


 佳奈かなは恐る恐るらむねのもとへ近づいた。


 「なっ、何?」


 「ちゃんと言う通りにできたんだね」


 らむねは適当に褒めて続ける。


 「私が合図したら、次の事をやってほしいの。失敗は許されないから、今度こそ一発で成功させてね。

もし出来なかったら……」


 らむねは以前と同じように冷たい口調になる。


 「わっ、分かってる! ちゃんとやるからっ!」


 らむねは弥兎みう達に聞こえないように、小声で佳奈かなに伝える。


 話し終えると、らむねは弥兎みう達に向き直り、花子をひとみに捉えた。


 (まずは、あなたからだよ……クマの人)

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