第30話 閑散
私達は喫茶店を後にする。
移動しようとした時、私の腹が鳴った。
頭を使い過ぎて、ついに私のエネルギーがそこを尽きたのだ。
「ちょっとクマ子、私朝から何も食べてないから腹が減ったんだけど」
クマ子は物言いたげな感じで、私を見る。
私の腹の虫より、自身への“クマ子”呼びが気に掛かったようだが、その事には触れてこなかった。
――私達は駅前のコンビニを訪れる。
同じ最寄り駅でも、学校がある反対側の駅は栄えているが、私の家に近い駅は寂れた商店街の先にあり、そんな中にぽつんとあるこのコンビニは周りの景観とは異なり、現代風な佇まいだった。
「んっ」
コンビニの前で、私はクマ子の前に手を差し出す。
「……なんだ?」
「手貸してやるんだから、奢りなさいよ」
ダメ元で言ってみた。
「……協力の見返りは情報だろう。お前に奢る義理はない」
正直、クマ子ならそう言うだろうと思っていた。
「空腹で動けなくなっても知らないわよ」
もう一度だけ粘ってみる。
「……」
クマ子はジト目で私を見ると、500円玉を差し出した。
「……やる」
私はそれを受け取る。
「ありがと……」
かなりのわがままではあったが、聞き入れてくれた事には素直に感謝した。
普段、私はコンビニで買い物などしない。スーパーの方が遥かに安いからだ。
だからこそ、コンビニ飯にありつけるこの機会を逃したくはなかったのだ。
クマ子はスマートフォンをいじり出すと、ぼそりと呟く。
「……妖怪飴舐め乞食」
「ああぁん!?」
私がガンを飛ばしながら、ドスの利いた声で迫ってもクマ子は表情一つ変えなかった。
事実だからこそ、私はキレたのだ。
だってお金ないんだもん――。
コンビニで買ったパンを食べている最中、クマ子は私に尋ねてきた。
「……お前、戦闘経験は?」
「ん~? ちゃんと戦ったのは……三回」
「…………」
クマ子はジト目のまま不安そうな顔をした。
私はクマ子の心情を察し、得意げに答えてやる。
「平気よ。私は馬鹿でかい大柄なアサブクロを倒したことがあるんだから、簡単にやられはしないわ」
クマ子は、スマートフォンの操作に戻りながら話す。
「……当たり前だ。アサブクロ如きで手を焼いているようでは話にならん」
「何? アサブクロや契約者の他にもヤバいのが居るっていうの?」
パンを食べ終わると、冗談のつもりで言ってみた。
クマ子は私が食べ終わったのを確認し歩き出すと、背を向けたままスマートフォンを握る手に力を込めて答えた。
「……居る」
「えっ……」
「……だが、今は後回しだ。まずは樋郡 らむねの件を片付ける」
「おっ、おう……」
クマ子と話すたびに不安要素が増えていった。
だが、今は目の前の問題に集中することにしよう。
私は、東征学園へ向かうというクマ子の後に続く。
ここからであれば私の学校側の駅へ行く方が近道なため、再び商店街のシャッター通りを進んで行った。
「……しかし寂れているな」
クマ子は昼近くなっても閑散としている商店街の様子に、思わずそんな感想を漏らす。
「今となっちゃ、ここら辺に住んでる人は少ないし、年寄りばかりだからね。
賑わうようなとこじゃないわ」
話しながら進んでいると、世界は突如色を無くした。
「っ!?」
「……」
私達はゾーンに引き込まれたのだ――。
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