第27話 暴行
「やめてっ! ――あがっ!」
佳奈の制止の声を聞く間もなく、ゴリラのぬいぐるみはさらに一発、佳奈を殴った。
「全く、佳奈ちゃんが匂いを嗅ぎ分けられるって言うから、お願いしたのに。
全然ダメじゃない」
「うぐっ……、ほんとに違いや距離まで分かるの! でも、まだ力に慣れていなくて、上手く識別出来ないだけ……」
再び、ゴリラのぬいぐるみは佳奈を殴った。
「ぐぁはっ!」
佳奈は腹を抱えたまま横たわってしまう。
「それが使い物にならないって言ってるの。
また、あの“クマの人”に邪魔されちゃ面倒だから先手を打とうとしたのに、期待した私が馬鹿だった。
これはお仕置きが必要かな……、“暴君”っ!」
らむねの掛け声で、“暴君”と呼ばれるゴリラのぬいぐるみが指を鳴らす仕草をしながら、佳奈に近づいていく。
「やっ……、やめてぇっ! 止めて下さい! ほんとに痛いの!」
らむねは暗い目をして言った。
「私もあなたのお姉さんに同じ事を言ったわ。でも、中倏さんは止めてはくれなかった」
らむねは冷たい口調で続けた。
「それどころか四条さん達に命令してね、一人に付き五発殴るって言うの。
殴られている最中声を上げる度に、さらに五発増やすと言ってね……。
私は叫びたくなるような痛みを、声を押し殺して耐えたわ。
でも、終わったと思って気が緩んだ私の脛を誰かに蹴られてね、
私は声を出してしまった。
そしたら、中倏さんは五発増やすと言った。
私は耐えきったのにどうしてと訊くと、蹴らないとは言ってないと答えた。
結局、その後も中倏さん達が満足するまで、難癖を付けては何度も殴られたわ……酷いよね」
「……」
“暴君”は佳奈を殴った。
「ぐあはぁっ!」
佳奈は悲痛な声を上げる。
「ねぇ、聞いてる? 佳奈ちゃんに話してるんだよ?
……まあいいや。
という訳で、今から“暴君”が五発殴るから耐えてね。声を上げる度に、さらに五発殴るから」
「うぐぅ……、何のために……」
「お仕置きだって言ったでしょ? 言う通りに出来ない佳奈ちゃんが悪いんだよ?」
“暴君”がさらに近づくと、佳奈は観念して口を両手で塞ぎ、身構えた。
「いーちっ、にーいっ――」
らむねの掛け声と共に“暴君”は佳奈を殴りつける。
「んん~~っ!? ん~~っ!!」
佳奈は声を押し殺して耐える。
「――ご~おっ」
最後は強めの一撃であったが、佳奈は耐えきった。
「ふうぅー……っ! ふうぅー……っ!」
いつ声を出しても良いのかタイミングが分からず、佳奈は口を塞いだまま鼻息を荒くして呼吸を整えようとしていた。
すると、“暴君”は佳奈の脛を蹴る。
「んああっ!?」
その不意打ちに、佳奈を声を上げてしまう。
「はい……声、出しちゃったね。それじゃあ、あと五発ね」
「なんでっ!? 殴られている間はちゃんと耐えたでしょ!?」
「殴る間だけなんて言ってないもの。ほらっ」
らむねが言い終わると同時に、“暴君”は佳奈を殴りつけた。
「がはぁっ!」
今度は身構えていなかったせいで、その痛みから佳奈は悲鳴を上げる。
「はい。さらに五発追加、あと九発ね」
「あぁっ! あがっ……、がはっ……あぐっ!」
その後、悲鳴を上げ続ける佳奈だったが、らむねはそれ以上殴る回数を増やす事はせず、ただ口元に手を添えてクスクスと笑っていた。
そうして、“暴君”は追加の十発を殴りきった。
「さて、私はそろそろ仕返しに行くから。佳奈ちゃんは今度こそ“クマの人”を探し出しておいてね」
「うぅっ……あがっ……」
佳奈は横たわったまま、殴られた腹を抱え、時より体が痙攣していた。
「大袈裟だなぁ……、その姿なんだから大して痛くないでしょ。
ほんとに使い物にならなくなったら、動けるようにしておく意味が無いんだから」
佳奈を放置し、らむねはその場から離れていく。
少し遠ざかったところで立ち止まり振り返ると、“暴君”が佳奈へ近づき、殴りつけた。
「がはぁっ! ……何っ!?」
「この空間佳奈ちゃんが開いたんだから、さっさと閉じてよ。
私が出られないでしょ」
「今、探せって……」
「仕返しに行くって言ったでしょ? そのくらい分かってよ……」
「ごっ、ごめんなさい……」
ゾーンが閉じられ立ち去ろうとした時、再び佳奈の方へ振り返ると、らむねは冷たい口調で言った。
「いい? 裏切ったり、おかしな真似をしたら、お姉さんを二度と歩けない体にしてやるから」
「――ひっ! ……やります! ちゃんとやるからっ!」
佳奈の言葉を聞き終えることなく、らむねは姿を消した。
佳奈はその場に手をつき跪く。
「うぐっ……うっ……お姉ちゃん……」
その瞳から涙が零れた。
「誰か……、助けて……」
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