第22話 眼帯
「うぐっ……お姉ちゃん……」
私は片手だけで腕組のようなポーズをし、右手で口内のロリポップを転がしながら、中倏妹の前に立った。
「くっ! 東林ぃ……」
中倏妹は恨みを込めた目で、私を睨みつけていた。
何だか凄く哀れに思えた。
憎んでいいとする相手が居るのは楽な事だろう。だからこそ、その執着が中倏妹自身を苦しめているように感じた。
すると中倏妹は逃げ出そうとしたため、私はその背中へ声を掛けた。
「中倏妹っ!」
「っ!」
中倏妹は足を止め、私の声に耳を傾ける。
私は中倏妹を通して、中倏姉妹へ言葉を発した。
「あんたらみたいのって、他人の痛みに疎いから、気を付けた方がいいわよ」
「ちっ!」
舌打ちを残し、中倏妹とそのぬいぐるみは路地へと姿を消した。
すると中倏妹が開いていたゾーンが閉じられ、私の憑依は解除された。
日も沈みだし、街が赤く照らされだした。
結局、ゾーンについての確認は出来なかったが、憑依については確信に近づいた。
今回も何かが減った感覚があったが、満たされる感じはしなかった。
以前との違いは、あの青白い発光体を吸収したかどうかだ。
「……」
私は考えを巡らせながら、新たなロリポップを咥え、帰路に就くのだった。
――路地の片隅で佳奈は何度もゴミ箱に蹴りを入れていた。
「くそっ、くそっ!」
その様子を、マヌ犬はただじっと見ている。
「ちっ!」
その態度は佳奈をイラつかせ、今度はマヌ犬へ殴る蹴るを繰り返した。
「このっ! マヌ犬の間抜けっ! 大体あんたが弱っちいから、あたしはこんな目に!」
佳奈の蹴りも殴打もマヌ犬に触れたかと思えば透けてしまい、すべて空振りになってしまう。
「はぁーはぁー、東林ぃ……覚えてろ! 必ずお姉ちゃんの敵は取ってやる!」
佳奈は暴れ疲れ、路地を抜けようと歩き出した時だった。
「――中倏 佳奈ちゃん、だよね?」
背後から突然、声を掛けられた。
「あぁん!?」
振り返ると、そこには見覚えの無い少女が居た。
佳奈は自分より背が高かったため、直感的に年上だと思った。
ショートカットの彼女は、手足や頭に包帯を巻き付けていた。右腕で左腕を庇うように、その二の腕の辺りに手を添えている。
左目に眼帯を付けている彼女は、見ているだけでも消毒液の匂いが漂ってきそうだった。
「誰よあんた。私は今、虫の居所が悪いの! 消えて!」
佳奈は眼帯少女を無視して路地の奥へ向かおうとしたが、再び背後から声を掛けられる。
「お姉さんは元気? ……なーわけないか、あの怪我じゃね。当分退院は出来ないでしょ」
「――……は?」
姉の事を出され、佳奈は眼帯少女に向き直った。
「私は何度も入院させられたから、お姉さんにも味わってもらおうと思って、入院生活がどんなものか」
「何……言ってんの?」
佳奈は眼帯少女の発言を整理しきれず、呆気に取られていた。
するとビルの上に潜んでいたのか、佳奈の目の前にガタイの良い動物のぬいぐるみが着地し、立ち塞がった。
自分や東林のよりも屈強なぬいぐるみを前に、佳奈は徐々に状況を理解し、全身に冷や汗をかく。
「……お姉ちゃんを知ってる――、入院って……、あんたまさか!?」
眼帯少女は軽く握った手を口元に当て、クスクスと笑っていた。
「病院送りの子!?」
第一部 完
第二部へ続く
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