第21話 犬
「あんたは家が裕福なのと、お姉ちゃんの人気に嫉妬していたんだ!
自分がやった罪の重さを知れ!」
「私は刺されたから、やり返しただけ」
私はぬいぐるみの存在に気づいていないフリをした。
「お姉ちゃんはそんな事してない!」
中倏妹がどれだけ捲し立てようと、私は淡々と答えた。
「言葉でも人は刺せるのよ。私はあの時言われた事だけは、忘れてないから」
中倏妹は拳をさらに強く握りしめ、言い返してきた。
「黙れ! そうやってお姉ちゃんを逆恨みし続けているから、一度ならず二度までもお姉ちゃんに暴行を加えた!」
中倏妹が私から視線を逸らした隙に、ビルの方へ目をやる。
正確な有効範囲は知らないが、いつでも憑依出来るであろう距離まで“ロリポップ”は近づいていた。
中倏妹は悔しさを滲ませながら、徐々に涙ぐんでいく。
「今度は全身あざだらけにしたあげく、骨折まで……絶対許せない!」
そこで私は間の抜けた表情をしてしまう。
「何それ、そんなの知らないけど」
「黙れと言っているだろ! あんたの言うことなんて信用するもんか、マヌ犬っ!」
その掛け声とともにゾーンが展開され、一瞬の閃光を得て、中倏妹は憑依体へと姿を変えた。
やはりというか、犬のぬいぐるみの頭を被り、手と足には着ぐるみの手足のような物をはめている。
それに加え、背中に垂れたぬいぐるみの前足をフックのようにして、棍棒部分が骨の形になっている三節棍を掛けていた。
「お姉ちゃんが受けた苦痛を思い知らせてやる!」
背中に掛けた三節棍を手に持つと、中倏妹は私へ目掛け振りかざしてきた。
その瞬間、今度は中倏妹の眼前に閃光が走る。
「何ぃ!?」
中倏妹の前には、振りかざした三節棍を“ロリポップ”の腕で受け止めている憑依体となった私の姿があった。
こいつの武器の扱い方からして、まるで戦闘慣れしていないようで、容易く受け止めることが出来た。
私は“ロリポップ”の腕で三節棍を握ると、強引に奪い自分の後方遠くへ投げ捨てた。
「嘘……! そんなっ!? あんたも!?」
中倏妹は、自分以外にもコイツらのような力を持つ者が居る事が信じられないといった顔をしていた。
分からなくもない。私も最初は自分だけが特別なのだと思っていた。
一度だけ、私は中倏妹を説得しようとした。
「少なくとも今中倏の身に起きている事を、私は知らない。
これ以上やり合うのは無意味よ」
「うるさい! あんたがやったに決まっている!」
「都合の良い事ばかり信じていると、向き合うべき現実が見えなくなるわよ」
中倏妹は聞く耳を持たず、私に向かって殴りかかって来た。
「うあああ~っ!」
私はそれをかわすと、“ロリポップ”の腕で中倏妹の体ごと払いのけた。
中倏妹は数メートル弾き飛ばされる。
「あぐっ!」
地面に倒れると、中倏妹は小さく声を上げた。
私は攻撃が届く距離まで近づくと、今度こそ人の部分を傷つけないように集中し、着ぐるみのような部分へだけ素早く何度も切りかかった。
口で転がしていた、ロリポップを動かす手も止まる。
「~~~っ!」
中倏妹は抵抗できず、着ぐるみのような部分は傷ついていった。
やがて憑依を維持出来なくなったのか、再び憑依体である中倏妹の体は弾き飛ばされ、一人と一体に分かれたのだった。
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