第20話 妹
私は再び街へ戻っていた。
ひなたから聞いたゾーンの事、戦闘時に感じた減少と増幅、それらをより正確に理解しておく必要があるだろう。
一番気に掛かったのは、ゾーンの再発動のための時間だ。
今までは引き込まれる一方だったが、こちらが発動すれば相手に奇襲をかけられる。
化け物に攻撃の手を許さず戦闘を終えられれば、危険も減るだろう。
だが、本当にゾーンの再発動に4時間も要するなら、その後は後手に回らざるを得ない。
故に、その事実確認は必要だろう。
「“ロリポップ”」
私の声を合図に、“ロリポップ”は七階ほどの高さのビルの壁を登っていく。
私が頭の中でアサブクロを探すように念じただけで、“ロリポップ”はそれを理解し即行動に移した。
実際は最初の声掛けすらいらないのだろうが、つい口に出してしまうのだ。
当然ゾーンの発動は無駄にはできない。それを行使するなら必然的に戦闘という事になる。
ビルの上で辺りを見回す“ロリポップ”の成果を待ちながら、私はロリポップを舐めて待っていた。
今晩もヘルシーメニューのせいで、カロリー不足になる事を気に掛けていた時だった。
「あんた、東林 弥兎でしょ」
振り返ると見知らぬ少女が居た。見るからに私より年下といった感じだ。
ラビットスタイルでシュリンプテールの髪型をし、低身長で尖った釣り目は生意気なガキといった印象だ。
そいつは歯を食いしばって、私を睨みつけていた。
「誰?」
私は咥えたロリポップを動かしながら、興味なさげに訊き返した。
「あたしは……、あんたに暴行を受けた中倏 柑奈の妹。中倏 佳奈よ!」
(あぁー、そういえば末娘……つまりは妹が居ると聞いたな)
私は少女の正体を知っても、特に驚いたりはしない。
とにかく中倏とは関わりたくなく、何より今となってはどうでもいい存在だからだ。
中倏妹は、一度歯ぎしりしてから言葉を続けた。
「あんたの所為で、あれからお姉ちゃんすごく気落ちしちゃって……、お姉ちゃんを慕っていた連中は離れていった。
それから、お姉ちゃんはクラスで孤立するようになっちゃったのよ!」
あの取り巻きが慕っていたとは、とても思えなかった。
中倏がそうなっている最中、支えになろうとしないのがいい証拠だ。
「あいつは私にいじめをしていたのよ」
「嘘をつけ! お姉ちゃんはそんな事をしない! そもそも、お姉ちゃんを不快にさせたお前が悪い!」
(……)
支離滅裂。中倏が私にした事を知っている口ぶりではないか。
「私は処分を下され、こうして罰を受けてる」
「そんなんで納得するもんか! だいたいあんた停学中でしょ! 外をほっつき歩いて、反省なんてしている訳がない!」
「自宅待機は学校と同じ授業時間中だけ、今は外出しても問題ないのよ」
本当は朝から出歩いていたが、中倏妹に正直に話す道理はない。
そもそも今日は休日だ。
「はぁ。それで、何の用?」
私はめんどくさそうに訊いた。
ダルそうに首を回しながら、屋上に居る“ロリポップ”に一瞬だけ目をやる。こちらに気づいているのを確認すると首を回し終え、再び中倏妹へ視線を戻した。
「分かってんでしょ! これは復讐よ。
お姉ちゃんが受けた苦しみをあんたにも味わわせてやる!」
「ふーん、私より華奢なあんたが、どうしようっての?」
私は喧嘩には自信があった。ましてや私より小柄な中倏妹に負ける気はしなかったのだ。
「ふん! 見てなさい、思い知らせてやる!」
私の挑発に中倏妹が怯むことはなかった。
だが、中倏妹の思惑空しく、私は彼女の企みに気づいていた。
なぜなら、その傍らに直立した犬のぬいぐるみが居たからだ。
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