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メスガキラー  作者: わっか
シープリィ編
24/112

第18話 アサブクロ

「ふえ? 何ぃ!? 弥兎みうちゃんのお友達ぃ?」


 ――そんな訳あるか。どう見ても、友好的ではないだろう。

 以前遭遇した、麻袋を被った化け物。“アサブクロ”だ。

 だが、いずれも以前見た奴とは形状が違っていた。


 1体は基本的な特徴は同じだが、最大の違いは、腰から上には二つの上半身が枝分かれする形でえていた。

 それぞれ両腕の麻袋の中からカミソリ、又はカッターののようなモノがいくつも飛び出している。


 もう1体は体格が良く、露出した生気のない人肌からは強靭きょうじんな筋肉が見て取れる。

 両腕の麻袋の先からは斧のが飛び出していた。何より横にいる“二股のアサブクロ”の2倍程の背丈せたけである。



 2体のアサブクロはこちらへ近づいてきた。

 “大柄のアサブクロ”は一歩踏み出す毎に地響きを起こし、“二股のアサブクロ”はそれぞれの上半身が腕を激しく振り回しながら、ケタケタと笑っている。


「くっ、“ロリポップ”!」


 私は以前のように、まるで取り憑かれているような、あの憑依体ひょういたいをイメージして声を上げた。

 それと同時に、一瞬の閃光を得て、私は憑依体へと姿を変えた。

 今回は、前方に居た“ロリポップ”が光ったかと思うと、この姿へ変わっていた。どうやら私目掛けて飛ぶ必要はないようだ。

 それより、以前の憑依では感じなかった事に気づいた。


(……何?)


 体の中で何かが失われた、減ったという感覚があった。だが、この正体を今の私が知るすべはなかったのだ。


「えっ、何ぃ? 何なの……?」


 ひなたは困惑していた。表情から察するに、アサブクロも憑依体も初めて見たようだ。


「ひなた! アイツらは私達を容赦なく攻撃してくる。“まくら”を使って倒すのよっ!」


「えっ……えぇっ」


 ひなたは私とアサブクロを交互に見やり、未だに状況を掴めずにいた。


 “まくら”が向かって行ったと同時に、私も奴らへ向かって行く。


 “大柄のアサブクロ”に“ロリポップ”の腕で何度も切り付けた。

 奴はうなり声を上げるものの、私の攻撃に構わず、太い腕を振り下ろしてきた。

 私はそれを上手くかわすが、けた途端に振り下ろした勢いで突風が起きる。奴の腕力は相当なもののようで、直撃すれば一溜ひとたまりもないだろう。


 “まくら”はひなたに近づけまいと、“二股のアサブクロ”の前に立ちふさがった。

 “まくら”をおおう毛がふくらむように増え、やがて大きな毛玉となる。その見た目は羊だが、体を覆う毛は羊毛ではなく、綿わたのようだ。


 立ち塞がる“まくら”を前に、“二股のアサブクロ”は振り回しているそれぞれの腕で、容赦なく“まくら”を切り付けていく。

 その場にとどまる事しか出来ず、“まくら”の綿は見る見る切り取られ、その体もまた傷つけられていく。


「いや……やめてっ! “まくら”に酷い事しないでぇ!」


 ひなたはその場から動けず、胸の前で自分の手をにぎめ、懇願こんがんする事しか出来なかった。


 その声に反応し、“二股のアサブクロ”はひなたの方へ近づいて来た。

 幾度となく切り付けられた“まくら”は、その場でぐったりとしている。


 私は、ひなたへ近づく“二股のアサブクロ”に注意が向いていた。


 その瞬間、“大柄のアサブクロ”が左腕を、私目掛けて振り下ろした。

 私は避けきれず、右側の“ロリポップ”の腕が奴の太い腕に押し付けられ、抑え込まれてしまう。

 押さえつけられた衝撃で、私の足は地面を離れ、仰向けに倒れこんでしまった。

 今、私の眼前に広がったものは空ではなく、“大柄のアサブクロ”の雑にえがかれた不気味な顔だった。

 奴の力にかなわず、その場でもがくが抜け出す事は出来なかった。

 そのまま“大柄のアサブクロ”は、右腕を私目掛けて振り下ろした。私はそれを左側の“ロリポップ”の腕で受け止める。

 巨大な斧のと、私の鉤爪かぎづめが接触し、時より火花が散った。

 しかし奴の力に抑え込まれ、斧のは徐々に私への距離を詰めていく。


「や……、いや……」


 近づいて来る“二股のアサブクロ”を前に、ひなたはおびえ、その目に涙が浮かんでいった。


 私は身動きが取れず、ひなたへ向かって叫んだ。


「ひなた! 憑依して、ソイツを倒して!」


 ひなたは私を見る事なく言った。


「だめ……、私には出来ない」


 “大柄のアサブクロ”の斧はなおも私に迫って来ていた。


(ああぁ……、もうっ!)


 私は一際ひときわ大きな声を上げ、ひなたに(かつ)を入れた。


「戦え、ひなたっ! 叶える夢があるんでしょ!?」


「っ!」


 ひなたは私の言葉ではっとすると、その瞳は力強く輝いた。


「――そうだよ。私は……、助けてもらうばかりなんて――嫌だぁ!」


 ひなたは“まくら”へ向き直り、その手を伸ばした。


「“まくら”っ! 私に……守る力を貸してっ!」


 その言葉を受け、辺りを一瞬の閃光が包み、ひなたは憑依体へと姿を変えた。


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