第13話 ステーキ
私は昨日とは違う街に来ていた。
情報を集めるのも大事だが、今日の最優先事項は肉を食うこと。昨日、掲げた目標だ。
私は目的のステーキが食べられるファミリーレストランへ向かっていた。
歩道橋に差し掛かると、私の前をロングスカートを穿いた女子が紙袋を両手で抱え、フラフラしながら階段を登っていた。あの様子では足元が見えていなさそうだ。
すると、彼女は登りきるすんでのところで段差を踏み外した。
バランスを崩し、体を後ろへ反らす。
「うっ、あっ、うわわぁ~!?」
そのまま後方へ倒れそうになる。私は急いで駆け寄り彼女の体を支えた。
(っ! 重い……)
「あっ、あれ?」
それ以上体が傾かない事を彼女は不思議がっていた。
「早く、体勢を……戻して!」
私の存在に気づくと彼女は体勢を立て直し、私たちは歩道橋の上に辿り着いた。
「ほんとに助かったよ~。ありがとう~」
「別に」
彼女は、以外にも私より年上のように感じた。
左右に分けた癖毛が強いセミロングの後ろ髪を、それぞれ手前で結っている。
寝ぼけ眼な瞳と、ふわふわとした雰囲気の彼女はいかにもどんくさそうだ。
だが、こいつに構っている暇は無かった。私は一刻も早く、青臭い胃袋に肉汁の雨を降らしたいのだ。
私が立ち去ろうとすると彼女は引き留めてきた。
「待って~。大怪我するとこだったもん。何かお礼しなきゃだよぉ」
そう言うと彼女は紙袋をあさり出すが、私はある事を閃く。
「ふーん、お礼がしたいんだ」
「ふへぇ?」
私と少女はファミリーレストランへ入って行った。
「いらっしゃいませー!」
ドアに付いたベルは入店を知らせる音を奏で、それを合図に定員は威勢の良い挨拶をする。
昼にはまだ早い時間帯なため店内はほとんど客がいない。私達は窓辺の席に向かい合うようにして腰を下ろした。
私が礼をしたいなら飯を奢れと言うと、彼女は快く承諾してくれた。
(言ってみるもんだ)
私は出来るだけ高いメニューに目を通していると、彼女は話しかけてきた。
「私はひなた。あなた、お名前は?」
「東林」
ステーキかハンバーグで迷っているため、あまり話しかけないでほしかった。
「下の名前だよぉ~」
「…弥兎」
それを聞き彼女はぱあっと目を輝かせたかと思うと、胸の前で手のひらを合わせ、僅かに首を傾けて私へ微笑んでくる。
「弥兎ちゃんかぁ~! 宜しくねぇ」
馴れ馴れしく感じたが、奢られている手前多少の事は我慢しよう。
ステーキを注文し、私はお腹を満たすその時を待ちわびた。