表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メスガキラー  作者: わっか
シープリィ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/115

第12話 大家

 家に戻ると、冷蔵庫からラップがされた料理を一つずつテーブルに並べた。

 白米・もやしとモズクのえ物・冷ややっこ・ちくわと野菜の炒め物、これが今晩の私のめしだ。


(肉が食べたいなぁ……)


 私は文句を言いつつ、手間が掛かる料理が用意されている事は有難ありがたく思っていた。ましてや私が好んで野菜を取ることなど無いのだから。

 一人の食事は、箸と食器の接触音と時計の秒針が耳障りなほど鮮明に聞こえた。


 結局あの女から何も聞き出せなかったが、街に行けばまた手がかりを見つけられるだろう。

 何せ今はほかに当てがないのだ。

 だが今の私は、明日へ向けてもう一つの目標をかかげていた。



 翌朝、昨日使った食器をお盆に載せて階段をりる。

 その音につられて階下から初老の女性が姿を現した。


弥兎みうちゃん、おはよう。ご飯ちゃんと食べたかい?」


「見れば分かるでしょ」


 この人はこのボロアパートの大家だ。私はおばちゃんと呼んでいる。

 私の部屋の下の階に住んでいる彼女は、私の事を赤ちゃんの頃から知っている。部屋に料理を用意してくれたのはこの人だ。

 大家の権限で勝手に上がり込んでいる訳ではない。私が許可しているのだ。私が唯一信用している人物と言ってもいい。

 事実、おばちゃんが出入でいりするようになってから、金目の物が無くなった事は一度もない。


 おばちゃんは自分の畑を持っているため、そこで収穫した野菜をふんだんに料理に取り入れてくる。そのため提供されるものは、いつも老人ホームの介護食のようだ。

 あれでは明らかに動物性タンパク質が不足している。


(ちょっとはバランス考えてよ……)


 だが、心の不満を彼女にぶつけることはない。私が言える立場ではないからだ。


 あの男との暴力沙汰の際、通報してくれたのは彼女だ。

 母とは出ていく前に話をしていたようで、私がここで変わらぬ生活をしていられるのは、この人のお陰なのだ。


 おばちゃんの部屋の戸の横へお盆を置くと、彼女は割烹着かっぽうぎのポケットからポチ袋を私へ手渡した。


「これで美味しいものでもお食べ」


「うん」


 私は彼女に視線を合わせることもせず、ポチ袋をしまい込むとロリポップを舐めだした。


弥兎みうちゃんは本当に飴ちゃんが好きだねぇ、おばちゃんのも上げようか?」


「いらない」


 彼女は黒糖飴しか持っていないのだ。


「ご飯は足りているかい?」


「…」


「今日はどこに行くんだい?」


「…」


「帰りはいつもくらいかねぇ?」


「…」


 どうして年寄りというのは質問攻めにするのだろう。分かってる。私が何も答えないからでしょ。


「私、もう行くから」


「そうかい。車には気を付けるんだよ」


 私はおばちゃんを無視していた訳ではない。今日こそはお礼を言いたかったが、喉から先へ言葉は出てくれなかったのだ。


 近しい人ほど感謝の言葉を伝えるのは難しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ