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メスガキラー  作者: わっか
弥兎回想編
16/112

第10話 財布

「実は中倏なかじょうさんのお財布が無くなりました」


 それを聞いてこの時間が実に無駄に思えた。こいつの財布がどうなろうが知ったことではない、ましてやちゃんと管理していなかったあいつに責任がある。

 私は無駄骨とはわかっていたが仕方なく机に置いたかばんの口を開く。


(なにコレ……)


 見知らぬ財布が入っている。私の物ではない。

 呆気あっけにとられていると、中倏なかじょうがにやつき担任に私のかばんを調べるようにうながす。

 担任がかばんの中の財布に気づくと、中倏なかじょうは大げさにこちらを指さした。


「それーっ! 私の財布!」


 クラス中が私に注目する。担任がこの財布はどうしたのかと問うてくる。


「そんなの知らないっ!」


 当然私は否定した。中倏なかじょうの持ち物などさわりたくもない。しかし私への疑惑は晴れず、担任はネチネチと質問攻めにしてきた。私が幾度となく弁明していると中倏なかじょうが喋り出した。


「どうせ私に嫉妬してやったんでしょー。ママから聞いたよー」


 私が理解に苦しんでいると中倏なかじょうは大声で話し出す。


「みんな聞いてぇー! 東林とうばやしのママって夜お酒を出すお店で働いているんだよー! そういう所で働く人ってお金に困ってるんだって~」


 中倏なかじょうは私を見下し、続ける。


「だからあんたは私の財布取ったんでしょー。貧乏な家の子って手癖悪~い!」


「私は……人の金を奪ったりしない……」


 私の手は震えていた。握りしめた拳に爪を食い込ませ、その痛みで正気を保った。

 取り巻きの女子共は口々に喋り出す。


「私―、東林とうばやしのお父さんが不倫してるの見たことあるー! 平日も働かずに遊んでたー!」

「あんたも前、ずる休みしてたもんねー! 流石、親子だねー」


 次第にクラスの奴らは好き勝手に言い出した。


「俺も見たことある。他の人に怒鳴り散らしてた」

「だからあいつもガラが悪いんだ」


 中倏なかじょうが怖くて同調している腰抜け共の声は耳障りだった。


「あいつはぁ! 父親なんかじゃない!」


 クラス中に目をやると、そこにまともな奴など一人もいない。

 ようやく私が声を荒らげたことを中倏なかじょうは面白がった。


「知ってる。ただのヒモでしょ。学校行事にも来ないで、あんな男に金をみつぐ為に働いてさ。あんたのママ、人としてほんと終わってるよね」


 私に顔を近づけ中倏なかじょうは言い放つ。


「そうやって誰にも愛されないのがあんたなんだよ、東林とうばやし!」


 その瞬間、中倏なかじょうに掴みかかり押し倒した。片手で髪を引き千切るつもりで引っ張りながら、奴の顔を何度も殴りつけた。

 中倏なかじょうの顔が歪んで見えるのは、殴打のせいか私の涙か判断できない。だが心は悔しさといきどおりでいっぱいだった。


 この日、私は心底うんざりした。

 私が何をした。良い子にしていれば、再び母は私へ目を向けてくれると思って耐えてきたのに、これで全て無駄になったのか。

 周りにいるのは腐った大人と腰抜けと、この人でなし。

 こいつらがいる世界から一刻も早く抜け出したかった。


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