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メスガキラー  作者: わっか
合宿編
105/112

第99話 海鮮

 「ご馳走さまでした」


 昼食が終わるとシシ子とギャル子は洗い物を、ひなたはテーブルを拭き始める。


 残った私達にこれ以上手伝える事はなかったため、お姉さん組に任せておくことにした。


 リビングとダイニングキッチンで各々がくつろいでいると、ひなたは一度寝室に上がってから荷物を持って降りてきた。


 彼女の手には、川原で話していた手作りのフェルトアートがあった。


 「みんな~これ作ったんだけど、よかったら受け取ってくれるかなぁ?」


 「マジっ!? ひなちゃん、ありがと!」


 ギャル子とシシ子に渡したひなたは、私にも手渡してくる。


 「はい、弥兎みうちゃん」


 「ありがとう」


 受け取ったフェルトアートは円柱の天面と底面が丸まった形状をしており、見掛けは太い錠剤といった感じだ。


 側面の半分から上はキラー・スタッフト・トイの顔が、下は胴体がデザインされている。


 天面部分には耳とキーホルダーの金具が付けられ、ドール達が見事にデフォルメされて再現してあった。


 「ほんとに良く出来ているわね」


 「えへへ、上のところはストラップやボールチェーンにも出来るから変えたい人は言ってね」


 受け取った私は“ロリポップ”に見せつけてやる。


 「あんたより愛嬌ある顔してるじゃない」


 “ロリポップ”は自分の姿をしたフェルトアートをまじまじと見つめ、満足した私は折角なのでウエストポーチに付けることにした。


 残った三人の分は合宿中に作って渡す事をひなたが再度伝えていると、コテージに配送業者の車が入ってくるのが見えた。


 「届いたようですわ」


 シシ子が午前中に駅前のスーパーで購入していた品である。


 それらを受け取ると、ダイニングキッチンの長テーブルの上には大量の食材が並んだ。


 「おお~っ!」


 「七人分とも為ると、すごい量だね」


 主な内訳は魚介類と肉類だった。


 「夕食は今日明日ともにバーベキューにするつもりですの。

 新鮮な内に召し上がっていただきたいので、今晩は海鮮をメインに、明日はお肉をメインにいたしますわ」


 「こんなの絶対旨いじゃない!」


 「楽しみっスね!」


 「どうせ焼くなら外でやりましょ! 早速準備を――」


 バーベキューの準備に取り掛かろうと意気込み空へ目をやると、日が射さずに午前中よりも暗くなっていた。


 「随分、くもってきちゃったね」


 「雨が降らなきゃ問題ないでしょ」


 らむねと共に空の様子を見ていると徐々に雨音がしだし、ぽつぽつと降りだしてしまった。


 「ちょっと! 何なのよ!」


 あま邪鬼じゃくな天気に苛立つ私へ、スマートフォンで天気を確認していたクマ子が追い打ちを掛ける。


 「……これから夜まで降っているな」


 「えっ!? 花火は?」


 「……無理だろ」


 気を落とし掛けた私に、シシ子はさとすように声を掛ける。


 「花火は明日行いましょう。楽しみにしている時間もあった方がより楽しめますわ。

 バーベキューはウッドデッキでも出来ますので、今夜はそちらで行うようにいたしましょう」


 「仕方ない……それで我慢するわ」


 「では、どなたかコンロの準備をお願いできますか?」


 「私がやる。ハム子、手伝って」


 「了解っス」


 シシ子とギャル子はキッチンで夕食の準備を進める。

 手伝おうとしたひなたは人手が足りていると言われたため、リビングのテーブルの上に道具を広げてフェルトアートの制作を始めた。


 「らむねちゃん、今時間良いかな?」


 「はっ、はい」


 ひなたに頼まれて、らむねはソファーに座りながら特徴を伝えるために“暴君”の絵をスマートフォンのアプリで描いていく。


 時折一人分の空間を空けて隣に座るクマ子に絵を見せ、指摘を受けながら作業を進めていた。


 私とハム子はコテージに常備されていたバーベキューコンロを運び、ガラス製の大きなスライドドアをけて、リビングに隣接するウッドデッキに設置した。


 スマートフォンでやり方を調べたクマ子からのアドバイスを元に炭や金網かなあみをセットし、何とか後は焼くだけの状態に持ってこられたのだ。





 「皆様、よろしければこちらをどうぞ。

 お昼があれだけでは足りないと思いましたので」


 ハム子と共に汚れた手を洗面所で洗いリビングへ戻ってくると、シシ子がダイニングキッチンの長テーブルに軽食を用意してくれた。


 夕食まで腹はかしておきたいが、確かに少し摘まみたいと思っていたため有難い。


 ひと仕事終えた私達が長テーブルへ向かうと、軽食を目にしたハム子は衝撃を受ける。


 「こっ……これは!?」


 そこに有ったのはサンドウィッチ。

 ハムとレタスを挟んだシンプルなやつだ。


 「ハムサンドじゃないっすか!」


 「いただきます」


 隣で騒ぐハム子を気にせずサンドウィッチを口にすると薄いハムが数枚入っており、嚙み切るのに負担はかからないが、ボリュームはしっかりと感じられる。


 さらに中に塗られた辛子マヨネーズがまろやかさと適度な辛みを与えることで、旨味の相乗効果が起きていたのだ。


 これらによって口内がくどくなろうとした時、みずみずしいレタスが緩和してくれることで、次の一口を欲するように促してくれる。


 「旨い!」


 結果、あっという間に平らげてしまった。


 隣で黙々と食べていたハム子はキッチンに立つ二人へ尋ねる。


 「これは……どなたが作ったんスか……?」


 「わたくしですわ」


 「シシさんっ!」


 「はい!?」


 大きな声を上げられ驚いたシシ子の元へハム子が駆け寄ると、彼女の両手を握った。


 「自分、シシさんのことを誤解していたみたいっス!」


 真っ直ぐ熱い眼差しを向けるハム子を前に、シシ子の瞳は潤んだ。


 「っ……真奈美まなみさん! まさか……ようやくわたくしを認めてくださったのですか!?

 嬉しいですわ!」


 「シシさん!」


 「真奈美まなみさん!」


 固く手を握り合う二人。


 「えっ……はっ? ハム子、あんたが抱えていた苦手意識って、こんなんで解消するの?

 あんなに怖がっていたじゃない」


 「何言っているんスか、ウサさん! 美味しいハムサンドを作れる方に――悪い人は居ないっス!」


 (単純すぎる……)


 少しは二人の事を気に掛けていたというのに、途端に馬鹿馬鹿しく思えてしまった。


 「良かったね! シシちゃん!」


 「はい!

 あの……真奈美まなみさん、ご無礼のお詫びにわたくしにさせたいことを……まだ伺っていないのですが……」


 「そんな事気にしなくていいんスよ! 自分達……仲間じゃないっスか!」


 「真奈美まなみさん!」


 「シシさん!」


 長テーブルへやって来たクマ子は二人の様子をジト目で見るが、すぐに興味を無くしサンドウィッチが乗った皿ごとリビングへ持って行った。


 「まっ、これでギスギスせずに楽しめそうね」


 「べっ、別にギスギスなんてしてないっスよ……?」


 「はいはい」


 「ふふふっ」


 一件落着したところで、シシ子は私達に提案をする。


 「よろしければ先にお風呂に入られてはいかがでしょうか?

 全員が夕食後となると、渋滞すると思いますので」


 (確かに女子七人ともなると、全身が一人ずつ入っていては風呂が空くのにかなりの時間が掛かる。

 いっそのこと二人まとめて入った方が上手く回せるだろう。

 それが可能なくらい広い浴室でもある訳だし)


 「じゃあハム子、一緒に入っちゃいましょ」


 「はい。何かいよいよ合宿っぽいっスね!」


 「えっ!?」


 会話を聞いていたらむねは何か言いたげであったが、それをさえぎってシシ子が駆け寄ると、らむねとクマ子に声を掛けた。


 「らむねさん! 花子はなこさん! お風呂をご一緒しませんか?

 お背中をお流ししますわ!」


 「……私は一人で入るから、最後でいい」


 「そうですか……。では、らむねさん!」


 「えっ……!?」


 らむねは何故か私を見てから、観念したように答えた。


 「はっ、はい……。分かりました……」


 シシ子に期待の眼差しを向けられたらむねは拒否することが出来ず、二人とは別に一緒に入る約束をひなたとギャル子が交わしたところで、今晩の入浴のペアが振り分けられたのだった――。





 私とハム子が風呂から上がる頃には日が暮れ出し、食卓には豪勢な海鮮や野菜がズラリと並んだ。


 バーベキューコンロでは焼く準備が整い、いよいよ楽しみであった夕食の始まりとなる。


 「それじゃあ~みんな! 改めて、あーしらの出会いに――」


 「かんぱ~い!」


 各々が喉を潤すと長テーブル側ではカニや刺身の盛り合わせへ手を付け、ウッドデッキ側のバーベキューコンロでは魚介類を焼いていく。


 肉厚なホタテ貝、プリプリの海老、歯ごたえが最高なイカとタコ――どれも絶品であった。


 外では雨が降り続けていたが、都会と違い山中であるここでは日が落ちるにつれ気温も落ち着き過ごしやすくなっていた。

 雨音と虫や鳥の鳴き声による自然のオーケストラにはわずらわしさよりも風情を感じられる。


 皆、長テーブルとウッドデッキを好きなように行き来しながら写真を撮り、談笑を楽しむ。


 ある程度してウッドデッキ側が私とハム子とらむね、長テーブル側がクマ子とお姉さん組という形で分かれていた。


 「いや~こんな旨いもんが食えるなんて、シシ子と知り合えて良かったわ!」


 「ウサさん、食べ物で実感されるというのは失礼っスよ」


 「あんたも似たようなもんでしょ」


 「うっ……」


 「ふふふっ、お二人とも気に入っていただいたようで何よりですわ」


 私は汚れてきた紙皿を変えるために、長テーブル側に居るギャル子に頼んだ。


 「ギャル子、紙皿取って。投げていいから」


 「行くよ、ウサちゃん! ほっ!」


 「よっ!」


 ギャル子がフリスビーのように投げた紙皿を受け取ると、聞きそびれていたことを思い出してシシ子に尋ねた。


 「そう言えばシシ子の特殊能力って、あの回転刃かいてんばを飛ばせるってことでいいの?」


 「はい。正確には放った回転刃を盾へ戻すことが出来ますわ」


 憑依体の話になると、スマートフォンをいじっていたクマ子が食いついてくる。


 「……細かく把握しておきたい。詳しく教えてくれるか?」


 「勿論ですわ。

 わたくしは標的へ向けてある程度追尾性のある回転刃を放つことが出来ますの。


 放った回転刃は緩やかな軌道で標的へ向けて飛んでいきます。

 正面から放ち斜めに位置する標的へ命中させる場合、回転刃は大回りで向かっていくことになりますので、命中するまでに少し時間が掛かりますわ。


 そのため素早いお相手では躱されるおそれがあるので、わたくしはお相手と向き合った状態で放つようにしております。


 刃を回転させた状態で正面のお相手に放てば、最短で命中させられますので。


 そして、放った回転刃はわたくしの意思で一度だけ対象を標的から盾へ切り替えることが出来ます。

 一度切り替えを行った場合、再度標的へ対象を変更することは出来ませんので、もう一度標的へ向かわせたい場合には改めて獅子の盾から放つ必要がありますわ。


 この対象を標的から盾へ切り替えた時、最初に放った際の軌道は失われ、新たに盾へ向かおうとする力が働き、そちらへ軌道が切り替わるのです。


 一応お伝えしておきますと、獅子の盾の刃を回転させるのに魔力は消費しませんので、魔力不足で回転を行えなくなることはありませんわ」


 「ギロチンに命中した後、回転刃が空中に留まってシシ子へ向けて飛んでいったのは、対象の切り替えをしたからってこと?」


 「おっしゃる通りですわ。

 しかし回転刃は追尾性があるものの、わたくしが軌道をコントロールしている訳ではありませんので、皆様が周囲にいらっしゃる状況では使用を躊躇してしまいますわね」


 「……だが、切断力は私達の中で最も優れている。十分重宝する能力と言えるだろう」


 「ありがとうございます。お役に立てるよう、尽力は惜しみませんわ」


 「ねえ、シシ子は特殊能力を使う時の魔力消費量はどんな感じ?

 ちょっと減るのか、そこそこ減るのか、かなり減るのか」


 「他の方の感覚が分かりませんので難しいですが、“そこそこ減る”といった感じでしょうか」


 「……おそらく私や夏樹なつき、らむねと同じパターンだろう」


 「あんたらの能力って、使う度に毎回減ってんのよね?

 私やハム子と同じように」


 「いえ、わたくしは一度魔力を消費した場合、一定時間のあいだは何度でも回転刃を放てますわ」


 「あーしも、時間切れになるまでは球体化を解いても、もう一回丸まればまた高速回転できるよ」


 「クマ子も?」


 「……私の場合は一定時間のあいだ、腕が肥大化した状態になる。

 ……一度元の状態へ戻し、再度肥大化させる場合は魔力を消費しなければならない」


 「私も熊見くまみさんと同じかな。

 一回戻しちゃうと、もう一度発動するには魔力消費が必要だったよ」


 「いずれにしても“そこそこ組”の特殊能力は時間制限型って訳ね。

 ひなたはどう?」


 「私は毎回ちょっと減るって感じだよぉ」


 「それじゃあ、私ら“ちょっと組”は常時消費型の特殊能力ってことになるわね」


 「……そのようだな。少量消費タイプは任意のタイミングで特殊能力を行使できるが、中量消費タイプは行使後、時間内で特殊能力を活かす戦術を取らなければ魔力を無駄にすることに成り兼ねない」


 (ともあれ――クマ子は打撃力、ギャル子は防御力、シシ子は切断力、ひなたはダメージの継続力、ハム子は機動力、私は跳躍力。


 これだけひいでた能力を持つ契約者が揃ったんだ――)


 私は、トングで金網の上の食材を押し付ける。


 (――全員が力を合わせれば、どんな敵が現れようとも必ず対処できるだろう)

次回へ続く。

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