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メスガキラー  作者: わっか
合宿編

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第94話 コテージ

 二台のタクシーは草の生えた土地へ入り、周辺に砂利が敷き詰められている建物の前で停車した。


 「デカっ!」


 タクシーから降りた私の第一声である。


 遠くの方に何軒か別のコテージが確認できることから、私達が泊まる場所はコテージエリアの一番手前に位置しているようだ。


 広大な土地の中で各建物は十分すぎる程の距離があるため、他の宿泊客が気になることはない。


 振り返ってコテージの正面から見える景色へ目をやれば山々を一望でき、かなり高い所まで来たのだと実感できた。


 「うわ~、素敵だねぇ~」


 「コテージと言うより館っスね……!」


 降りてきた二人も各々感想を漏らす。

 そのかん、シシ子はそれぞれの運転手に料金を支払っていた。


 「うはーっ! テンション上がるしぃ~!」


 「すっ、すごい……!」


 ギャル子とらむねもコテージに目を奪われている中、クマ子はスマートフォンを向けて写真を撮っている。


 荷物を下ろし終えるとタクシーは走り去り、私達は玄関へ向かい始めた。


 玄関前はコンクリートで出来た足場の上に屋根が設けられ、雨や日差しを凌げるようになっている。


 全員が集まったところで扉を開け、私達は中へと入っていった――。





 「おお~!」


 「わぁ~!」


 コテージへ入ると最初に広い玄関が目に付き、その先には吹き抜けになっている階段が見えた。

 また、木造の建物内にはほのかに木の香りが漂っている。


 「寝室は一階に一部屋、二階に二部屋ございますので、お好きな所をどうぞ」


 董華とうかの説明を受けて、らむねは弥兎みうへ視線を向けた。


 (電車とタクシーじゃ、東林とうばやしさんの隣になれなかったし……。

 折角のお泊まりなら一緒の部屋になりたいな……)


 「わあっ! クマちゃん! 行こ行こっ!」


 「……ああ」


 一番乗りで中へ進んでいく二人を見ながら、董華とうかは思う。


 (どうやら夏樹なつきさんと花子はなこさんが同じお部屋になりそうですわ。

 まだ花子はなこさんとも余りお話が出来ていませんが、同室になれないのであれば……)


 「真奈美まなみさん、らむねさん! 同じお部屋にいたしませんか?」


 「えっ!?」


 「わっ、私とですか?」


 「勿論ですわ! 二階の一室は三人部屋になっておりますので、ご一緒出来ますの!」


 (まだ交流の少ないお二人と同室になることで互いを理解し、今よりも仲を深めてみせますわ!)


 (どっ、どうしよう……! 出来れば東林とうばやしさんと一緒になりたかったけど、こんな素敵な所に招待してくれた獅子上ししがみさんの提案は断れないよ……!)


 (立場を忘れさせないように、しっかり監視するってことっスか!? おっかないっス!)


 結局、董華とうかに促された二人は階段を上がって二階へと向かっていった。


 残った弥兎みうは、ひなたへ声を掛ける。


 「取り敢えず荷物を置きに行きましょ」


 「うん」


 董華とうか達から少し遅れて、弥兎みうとひなたも二階へ向かう。


 階段を上がる最中さなか弥兎みうは一階の奥の部屋へ花子はなこ夏樹なつきが入っていくのが見えた。

 階段を上がると左側へ董華とうか達が向かったため、弥兎みうは上り終えると右へ曲がり扉を開ける。


 中は六畳程の広さのある寝室で、ベッドが二つ並べられていた。


 弥兎みうは自分の寝床を部屋の奥のベッドに決めると、その傍に旅行鞄を置き、窓の前に立って緑豊かな自然に目をやる。


 時折ときおり鳥の鳴き声が何処からか聞こえ、時の流れが穏やかに感じられた。


 「わあ~、良い景色だねぇ~」


 入ってきたひなたは、入り口に近い隣のベッドへ荷物を置く。


 「弥兎みうちゃん、私が一緒でもいいかなぁ?」


 「ええ」


 弥兎みうは一緒に上がって来た段階で、ひなたと同室になるのはおおよそ察していた。また、内心彼女であれば五月蠅うるさくないだろうと、どこか安心もしていたのである。


 綺麗な寝室を目にしたことで他の部屋も気になりだした時、元気良く階段を駆け上がる音が部屋の前まで来ると、テンションが高まった夏樹なつきが入ってくる。


 「ウサちゃんっ! ここマジ凄いよ!」


 「良いとこよね」


 「探検しよ! 探検っ!」


 夏樹なつきは、胸の前で握った拳を上下にブンブン振りながら誘ってきた。


 「私も他の部屋を見たいと思っていたわ。ひなたも行く?」


 「私は少しゆっくりしてるねぇ~」


 「そう。じゃあ、行くわよ、ギャル子!」


 「うん!」


 廊下に出ると、二人は奥の部屋から出てきた真奈美まなみとらむねに出くわした。


 「ここほんと凄いっスね……」


 コテージの広さに完全に圧倒されている真奈美まなみの横を通り過ぎ、夏樹なつきは奥の部屋へ注目する。


 「そっちがハムちゃん達の部屋?」


 「私と公星こうぼしさんと獅子上ししがみさんの三人です」


 向き直った夏樹なつきは、後ろかららむねに抱き着く。

 距離感の近い彼女の行動にらむねは体を強張らせている一方、気にせず夏樹なつきは二人にも声を掛けた。


 「あーしら、これからコテージ探検するけど、ハムちゃんとらむちゃんも来る?」


 「そっ、そうですね……。私もこれだけ立派なところに泊まるのは初めてなので、見て回りたいです」


 「自分も行くっス!」


 「それじゃあ! コテージ探検にしゅっぱーつ!」





 その後、四人は一頻ひとしきり全体を見て回ったことで、コテージの全容を把握した――。


 一階は玄関扉を開けて中へ入ると、正面が東にあたる。


 広い玄関を上がると横向きの短い廊下があり、真っすぐ東へ進むと吹き抜けの階段へ続き、右手に当たる南側へ向くと扉がある。


 そこを開けると中はトイレになっている。


 反対の北側へ進むと、ダイニングキッチンに入ることが出来る。


 ダイニングキッチンは廊下から入って直ぐの西側を向けば、カウンターキッチンが目に映り、冷蔵庫、炊飯器、電子レンジ、ガス台、グリル、流しと料理には困らない設備や道具が揃っていた。


 キッチンの反対側のカウンターには席が二つあり、さらにその奥には六人掛けの長テーブルが置かれている。


 長テーブルの先へ進むとガラス製の大きなスライドドア、そこを開けると階段付きの小さなウッドデッキが設けられているため、ここからの出入りも可能になっていた。


 ダイニングキッチンの東側に隣接しているのは、長方形の広いリビング。


 吹き抜けで天井が高いここにはL字のソファーが南向きに置かれ、その前に敷かれたマットの上にはテーブルがある。

 ソファーの正面には、戸棚付きのテレビ台の上に大型テレビが設置されていた。


 ソファーの真後ろにもガラス製の大きなスライドドアがあり、そこを開けると大きな長方形のウッドデッキがある。

 外から上がれる階段に加え、胸元ぐらいの高さのあるフェンスが付けられたこの場所は、雨天でも外でバーベキューを楽しむことが出来るようになっていた。


 普段はこのリビングとダイニングキッチンを仕切るスライドドアが開けられた状態であるため、開放感のある空間で宿泊客は大人数でも快適に過ごせるのである。


 リビングの奥へ行って南側へ進めば、吹き抜けの階段の所に出られる。

 だが、そちらへ進まず東側へ行けば横向きの廊下と扉が目に映る。


 扉を開けた先はベッドが二台ある寝室で、花子はなこ夏樹なつきが寝る所だ。


 寝室を出ると、正面にはリビングとダイニングキッチンが見える。


 そのまま左手側の南を向いて廊下を進むと、突き当たりの東側には扉、西側は吹き抜けの階段へ繋がっている。


 東側にある扉を開けると、洗面所兼脱衣所がある。


 中には大きな鏡の前に洗面台、その付近には洗濯機とバスマット。

 また四段の棚の中にはそれぞれかごがあり、衣服を別々に入れられるようになっていた。


 洗面所内南側の扉を開けると、中は風呂場になっている。


 シャワーは南側と東側の二か所に設けられ、西側には二人で入っても窮屈さを感じない快適な浴槽があった。


 吹き抜けの階段へ戻ると、コテージ内で最も開放感のある空間であることが分かる。


 コテージの中心であるここへは、西の玄関側、北のリビング側、そして東の洗面所前の廊下から出入りが出来る。


 玄関側に立って見れば、南から東の壁へ沿ってL字の階段が二階へ続いている。


 また見上げると、天井には空気を循環させるためのプロペラ、シーリングファンが設置されていた。


 普段そのような物が取り付けられた所とは無縁な彼女たちにとって、それはお気に入りポイントの一つであった。


 階段を上り切ると、足元には吹き抜けに沿った廊下がぐるりとあり、正面北側には高めの柵がある。


 そこから下を見下ろすとリビングを一望でき、リビングの吹き抜けに繋がっているのが分かる。


 廊下の東側の扉を開けると、弥兎みうとひなたが過ごす寝室があり、この部屋は花子はなこ達の部屋の真上に位置していた。


 弥兎みう達の寝室を出て直ぐの南側の扉の先は、広いベランダになっている。


 洗面所と風呂場の真上に位置する此処では、洗濯物を干すのは勿論、靴が汚れたり虫が気になる人向けに、建物から出ずに高い場所でバーベキューが楽しめるようになっていた。


 景色も良いため、夜は横になって星空を楽しむのも一興いっきょうだろう。


 廊下に戻り西へ向かって真っすぐ進んで北側の扉を開ければ、董華とうか真奈美まなみ、らむねの寝室へ入れる。


 三人部屋の此処はダイニングキッチンの真上にあたり、窓のある西側にベッドが三台並べられている。


 東側の壁沿いには机や棚、北側にはガラス製のスライドドア。

 そこを開けるとこちらにもベランダがある。


 董華とうか達の寝室を出て少し進むと扉があり、中はトイレになっている。

 そこはちょうど一階のトイレの真上にあたるのだ。


 階段沿いの廊下はしっかりと落下防止用の柵が設けられ、董華とうか達の寝室から廊下を真っすぐ進んだ南側の先は窓になっているだけであった。


 これが、今回彼女達が過ごすコテージの全容だ――。





 「おかえり~」


 弥兎みう達がリビングへ戻ってくると、ソファーにはスマートフォンをいじる花子はなこと笑顔で出迎えるひなたが座っていた。


 董華とうかはカウンターキッチンの方で、何やら色々と整理をしている。


 コテージを見て回り素敵なこの場所に感動しつつも、周辺を山と森で囲まれていることで真奈美まなみには不安があった。


 「熊とか出てこないんスかね……」


 そんな彼女を前に、夏樹なつきは得意げに“まるこげ”を指差す。


 「いや、そうじゃないでしょ。

 大体だいたいキラードールを相手にしてるのに、今更野生動物にビビってんじゃないわよ」


 「それとこれとは話が別っス!」


 皆歩き回ったため、リビングで一息入れている中、弥兎みうはキッチンに居る董華とうかの元へ向かった。


 「シシ子、はい」


 「何ですの?」


 「あんたにやるわ」


 そう言って、弥兎みう董華とうかへロリポップを差し出す。


 「これ、弥兎みうさんの大好物ではありませんか。よろしいんですの?」


 「ええ」


 「では、ありがたく頂戴いたしますわ。ありがとうございます」


 弥兎みうへ微笑み掛けながら、董華とうかはロリポップを大事そうに受け取った。


 カウンター席に座り、董華とうかの作業を目で追いながら、弥兎みうは尋ねる。


 「ところでさ、あんたって何人家族? 元々家族だけで泊まるつもりなら、此処広すぎるんじゃないの?」


 董華とうか時折ときおり弥兎みうを見つつも、手を止めることなく話した。


 「家族で泊まりに来る時は最初の数日こそゆっくり過ごすのですが、父と母のどちらかは、あとから知り合いのご家族をお招きしてしまいますの。


 そういった際、その方達が泊まれないことがないように、あらかじめ部屋数の多い所を予約しておきますの。


 今回も、当初は三人が一部屋ずつ贅沢に使い、心身ともにリラックスする時間を過ごす。

 そして、お世話になった方をご招待する場合は、わたくし達家族は三人部屋に泊まるというつもりでしたわ。

 來加らいかさんのご家族とも何度かお泊りしていますの」


 「ふーん、そう言うこと」


 (格差を感じる……)


 一人気落ちしている弥兎みうへ、董華とうかは声を掛ける。


 「お昼はどうなさいますの?」


 「私、まだあんまりお腹空なかすいてないのよね」


 「自分もっス」


 「では、お昼は少し遅めにいたしましょうか」


 董華とうかは、外の景色へ目をやってから続ける。


 「もし川へ行かれるのでしたら早い方が良いですわ。

 山の天気は変わりやすいですし、暗くなるのも早いので」


 「こんなに快晴なんだから天気の心配なんて――」


 そう言いながら、窓の前まで行って空を見ると、山の向こうに灰色の不穏な雲が見えた。


 (えっ? 雨雲?)


 「もしかしたら夕方には降り出すかもね」


 隣に来たらむねが同じように、遠くの雲を見つめながら呟く。


 「だったら、先に川に行きましょ。体を動かせば腹も減るだろうし」


 「さんせーっ!」


 そうして弥兎みう達は、川遊びの準備を始めた。

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