【第3話】
「遠距離攻撃を中心に展開しろ、改造人間は戦場に出るな!!」
「砲撃だ、砲撃しろ!!」
「右足の兵装が吹っ飛ばされた、誰か修理できる奴はいねえか!?」
「痛えよぉ、痛えよぉ」
「誰だよリットー要塞を攻め込むとか言ったの!!」
「調子乗ってんじゃねえぞ、アホンダラ!!」
リットー要塞から程近い場所に展開されたアルヴェル王国側の陣地は、凄まじいことになっていた。
怪我人が次々と運び込まれ、衛生兵によって傷の治療を受けている。中には重篤な怪我を負ったアルヴェル王国軍兵士もいて、ぎゃあぎゃあと叫びながら縫合の手術をされていた。どこもかしこも噎せ返るような血の臭いがこびりついており、眩暈がしそうだった。
兵装部分を吹き飛ばされた改造人間もまた壊れた兵装を修理されており、順番待ちしている改造人間が長蛇の列を形成している。改造部分を吹き飛ばされても痛覚機能は搭載されていないので、怪我をした兵士より比較的ケロッとした様子だった。
襤褸布を頭からすっぽりと被ったユーバ・アインスは、バタバタと騒がしい陣地を眺めて呟く。
「【驚愕】凄まじい光景だ」
「そりゃ魔力があれば勝手に直るレガリアとは違うだろうよ」
「【納得】確かにそうだ」
エルドたち改造人間は、魔力を取り込んで傷ついた箇所を回復するという神技めいた機能は備わっていない。壊れれば壊れたで手動で修理しなければならないのだ。その分、資材があれば性能のいい兵装に交換できるのが利点である。
一方の自立型魔導兵器『レガリア』は空気中の魔力を取り込んで自動的に傷ついた箇所を回復する自動回復機構が備わっているが、設計された通りの運用以外はされない。防御力に特化しているのであれば防衛任務に、攻撃性能が優れていれば突撃部隊に回される。あらゆる戦場を想定して設計・開発されても、中途半端なものしか生まれないという非常に難しいことになる。
あまりの凄まじさに立ち尽くす傭兵団『黎明の咆哮』の面々に、アルヴェル王国軍の兵士が慌てた足取りで駆け寄ってきた。軍人らしい立派な敬礼をすると、
「ご足労感謝いたします。自分はアルヴェル王国軍一等軍曹、ロイド・ナッツェと言います」
「傭兵団『黎明の咆哮』だ」
ロイド・ナッツェと名乗った軍人は、敬礼をした状態で「お待ちしておりました」と告げる。
「長時間の移動でお疲れでしょうから、本日は仮眠を取ってもらってから明朝に作戦行動を開始してください」
「心得た。団員の連中に言い聞かせておこう」
「助かります」
淡々と応じる団長のレジーナに、ロイドが「あの」と言葉を続けた。
「傭兵団『黎明の咆哮』はレガリアの鹵獲に成功したと聞き及んでおりますが」
「ああ」
団長のレジーナはしれっと答えた。
もうここまで来れば隠す必要もないと考えているのだろう。エルドのすぐ横に立つユーバ・アインスに視線をやる。
ユーバ・アインスは視線だけで団長の意思を汲み取り、頭をすっぽりと覆い隠していた襤褸布を取り払った。その下から雪のように真っ白な髪と銀灰色の双眸、世界中のあらゆる色から嫌われた真っ白なレガリアが姿を見せる。
「ユーバ・アインス……!?」
「【肯定】当機は自立型魔導兵器『ユーバシリーズ』初号機、ユーバ・アインスだ。現在の所属は傭兵団『黎明の咆哮』であり、アルヴェル王国側に楯突くような真似はしない」
驚愕するロイドに、ユーバ・アインスは淡々といつもの調子で答えた。
ユーバシリーズの有能さは現在でも語り継がれるほど強大だ。ユーバ・アインスがリーヴェ帝国を裏切らなければ、ユーバシリーズが戦場に出てきたら勝ち目がないと言われているほどだった。実際、ユーバ・アインスに搭載されている兵装は最新型のレガリアさえ上回るほど強力である。
ロイドも、それから他のアルヴェル王国側の兵士も傭兵もその恐ろしさは身をもって分かっているはずだった。ユーバ・アインスに向けられた視線の鋭さは刃を想起させ、エルドは居た堪れなくなってくる。
「ほ、本当にユーバ・アインスですか」
「ああ、そうとも」
レジーナは頷くと、
「リットー要塞を守護する2号機、ユーバ・ツヴァイに対抗できる唯一無二の手段だ」
「信じられません。どんな手口を使ったのですか」
「それは言えんな、奇跡のようなものだ」
ロイドの怯えた視線や他の兵士や傭兵から浴びせられる敵意に満ちた視線を受けながらも、レジーナは軽く右手を掲げた。
何も起きなかった。
当然である、ユーバ・アインスの力を知らしめたいだけだろうがそんな打ち合わせはしていない。
「何をしている、ユーバ・アインス?」
「【疑問】何故そのような質問を? 当機に何の要求がある?」
「いや分かるだろう、空気を読め空気を。お前の力を知らしめて威圧させるのが目的だろう」
「【回答】意味のない挑発行動は拒否する」
何と、団長のレジーナの命令を拒否する姿勢を見せた。
確かにまあ、意味のない挑発行動などユーバ・アインスからすれば利点はないのだ。拒否されてもおかしくはない。政治的利用はいただけない。
ただ、ここで威圧しておかなければ傭兵団『黎明の咆哮』の沽券に関わる。エルドは軽く咳払いをすると、
「アインス、ちょっと兵装で脅しかけるだけだ。ウチの傭兵団が舐められたら困るだろ」
「【疑問】侮る要素がどこにある?」
「たとえば『テメェのところはレガリアを籠絡したんだから楽できるだろうな』とか嫌味を言われたり、レガリアが強いだけで俺らが弱いみたいにみられたり」
「【納得】なるほど」
ユーバ・アインスは納得したように頷くと、ロイドに向き直った。
「【疑問】ロイド・ナッツェ、貴殿にはそのような意思があると? エルドを、ひいては傭兵団『黎明の咆哮』の印象を下げるような意図があると言うのか?」
「めめめめめめめ滅相もございません!!」
ロイドは首が取れる勢いで否定した。レガリアが人間の兵士を脅しかけるという凄い構図である。ユーバ・アインスとしてはただ単純に疑問に思ったことを口にしただけだろうが。
「おーいおい、ウチの若い子をあまり虐めないでやってくれよ」
すると、ロイドの背後から背の高い男が現れた。
兵士としてそれなりに鍛えているのか、煌びやかな勲章が輝く軍服の下からガッシリとした肉体が垣間見える。栗色の髪を雑に束ね、山羊のような髭を生やした飄々とした軍人だった。
ロイドは安堵したような表情を浮かべるが、慌てて顔を引き締めて敬礼をする。
「ジェファ大尉、お疲れ様です」
「はい、お疲れさん。ロイド君はいいよ、ここはオレが対応するから」
「はい!!」
ロイドと入れ替わるように大尉と呼ばれた男が「いやぁ、ごめんねぇ」と謝り、
「あの子ね、軍学校を卒業したばっかだから。いいとこの坊ちゃんな訳よ」
「お前は随分と隙がなさそうに見えるがな」
「これでも傭兵の拾い上げさ。アルヴェル王国は懐が広いね」
男はヘラヘラと笑いながら言葉を続ける。
「アルヴェル王国軍大尉のカイニス・ジェファだ。よろしくな」
「こちらこそ」
「いや何、オレは勝てばいいって思ってるからね。誰が味方でも嬉しいし、天下最強のレガリア様が味方についてくれるってんなら心強いことはない」
カイニス・ジェファと名乗った男は、ユーバ・アインスにグッと顔を近づける。
ユーバ・アインスは不思議そうに首を傾げて「【疑問】何か?」と問いかける。
相手は品定めをするような目つきでユーバ・アインスを観察していた。元傭兵上がりの大尉が何を思っているのか不明だが、敵意が込められている訳ではない。単に興味の問題か。
「お宅の弟さんがいるんだろう? 倒せるのかい?」
「【肯定】当機であれば問題なく撃破可能だ」
「そうかい、それなら何も言うことはない」
カイニスはユーバ・アインスの肩を叩くと、
「頑張ってくれよ、ウチの命運はお宅にかかってんだから」




