表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Regalia  作者: 山下愁
第9章:白百合の如き愚かな花嫁様へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/127

【第5話】

 右腕を酷使したからか、地味な痛みを感じる。



「い、つつつ……」



 義手を押さえてエルドは痛みに呻く。


 花嫁の格好をした自立型魔導兵器『レガリア』――アルテカ・アンを撃破して、しばらく進んだところで野営をすることにしたのだ。アルテカ・アンの亡骸はユーバ・アインスが有効活用するとか言って回収された。

 どこに有効活用をするのか詳しく聞きたかったのだが、説明されてもエルドに理解する為の頭はない。おそらく聞かない方が賢明なのだ。


 右腕に装着された義手を外し、エルドは綺麗な断面を押さえる。



「神経がある場所も斬られたからかな……」


「【疑問】右腕は問題ないか?」


「お」



 四輪車に引きこもるエルドに、戦闘用外装を抱えて戻ってきたユーバ・アインスが淡々とした様子で問いかける。

 今まで戦闘用外装の整備をしてくれていたのか。彼の献身さには感謝してもしたりないぐらいである。簡単な整備や戦闘用外装の掃除ぐらいならエルドも出来るようにドクター・メルトから説明を受けているが、やはりユーバ・アインスの方が手際がいいかもしれない。


 後部座席に戦闘用外装を放り込んだユーバ・アインスは、普通に助手席へ乗り込んできた。



「【疑問】右腕が痛むか?」


「まあ」


「【要求】診せてほしい」



 ユーバ・アインスに要求されて、エルドは素直にユーバ・アインスへ右腕を見せる。


 綺麗に手術された断面を確認し、それから右腕の義手も受け取る。指先の部品や手首の部品の動きなどを確かめてから、エルドに義手を返してくる。

 どうやら問題がないようだ。エルドを苦しめる痛みの原因は、右腕を喪失したことによる幻肢痛だろう。今までは右腕も神経が死んでいた影響で痛みさえ感じなかったが、おかげで痛みを感じるようになって嬉しい。


 エルドは右腕の義手を装着して、稼働率を確かめるように指先や手首を動かす。指先も手首も問題なく動く。



「【回答】幻肢痛か何かだろう。【提案】痛むなら薬品による痛み止めがある」


「いや、いい。痛み止めは貴重だからな」



 特に戦争中のこのご時世、薬品は非常に貴重なのだ。自立型魔導兵器『レガリア』には空気中に散らばる魔素を取り込んで傷ついた部品を回復できることが出来るのだが、生身の部分がある改造人間はそうもいかない。

 薬品は常に不足しているのだから、節約しなくてはいけないのだ。自分の不注意で斬り飛ばされた右腕の痛みなど薬で和らげる訳にはいかない。


 しかし、ユーバ・アインスは首を縦に振らなかった。



「【拒否】その提案を拒否する」


「は?」


「【回答】団長から痛み止めの薬品を貰ってくる。【要求】エルドは車内で待っていてくれ」


「いやだから薬品は貴重だからって」


「【回答】薬品は貴重でも、本当に必要とする人物に渡らなければ意味がない」



 ユーバ・アインスは助手席の扉を開けると、エルドが制止する前に外へ出てしまった。

 本当に気が利くレガリアである。自立型魔導兵器『レガリア』とは、本当にここまで気が利くような存在なのだろうか。他人の体調の変化に敏感なのは羨ましい限りである。


 エルドは背もたれに背中を預け、



「い、てて……」



 ズキリと痛みを訴えた右腕を押さえて、エルドは窓の向こうに視線をやる。


 夜の闇の中に浮かぶ白い男性。世界中の色という色から嫌われてしまったその男は迷いのない足取りで団長のレジーナが休む四輪車に歩み寄ると、四輪車の窓から顔を覗かせたレジーナと何やら話し合っている。

 その光景を見ても何も思わない。昼間の時と大違いだ。昼間に花嫁の格好をしたアルテカ・アンに抱きつかれた時は、胸の内側が不思議と痒くなって苦しくなったような記憶がある。


 そして自分の手でアルテカ・アンを破壊した時、胸がすくような思いになったのだ。「お前などユーバ・アインスに相応しくないのだから、嫁として隣に並ぶなど烏滸がましい」と一瞬でもそんな思考がよぎった。



「何考えてるんだろ」



 ポツリと呟いたエルドは、ズキズキとした痛みに耐えるように瞳を閉じた。



 ☆



「【要求】痛み止めを貰ってきたので、早期の服用を」


「あいよ」



 レジーナから貰ってきた痛み止めの薬品を受け取ったエルドは、渋々と錠剤の痛み止めを口の中に含む。すかさず水の入った鉄製のカップも差し出され、冷たい水で錠剤を胃の腑に流し込んだ。

 痛み止めを貰ったので、そのうち右腕の幻肢痛も消え去るだろう。錠剤を分けてくれたレジーナには感謝しなければならない。


 エルドはカップに残る水で口の中を潤し、



「なあ、アインス」


「【疑問】何だ?」


「俺はおかしいンかな」



 不思議そうに首を傾げるユーバ・アインスに、エルドは自分の胸の内側を吐露する。



「昼間の花嫁さんを壊した時、俺は『ざまあみろ』って思ったんだよ。『コイツの隣にいるのはテメェじゃねえ、この俺だ』とも」



 たとえ眼中になかったとしても、ユーバ・アインスに対して「王子様」と宣うあの花嫁の存在が気に食わない。だからこそこの手で破壊できて、スッキリとした感覚になったのだ。

 アルテカ・アンは、ユーバ・アインスの隣にいる存在ではない。ユーバ・アインスの隣にいるのは、相棒であるエルドだ。彼女にユーバ・アインスは相応しくない。


 ユーバ・アインスは淡々とした口調で、



「【回答】エルドがアルテカ・アンを撃破していなければ、当機が破壊していた」



 そっとエルドの頭を抱き寄せて、ユーバ・アインスはどこか嬉しそうに言う。



「【歓喜】エルドがそのように思ってくれて嬉しい。当機のことを大切にしてくれて、嬉しい」


「当たり前だろ、相棒なんだから」



 抱き寄せてくるユーバ・アインスの手のひらに頬を寄せ、エルドは応じる。


 大切にするのは当然のことだ。ユーバ・アインスはエルドの大切な相棒である。もう生活に関する全てのことは掌握されており、手放せない存在となっている。

 便利だからという理由ではない。エルドが望んでユーバ・アインスに「隣にいてほしい」と願っているのだ。今までは傭兵団の戦闘要員とも適切な距離を保って接していたが、これほど自分の領域に踏み込ませたのはユーバ・アインス以外にいない。レジーナだって腐れ縁だが、そこまで深く踏み込ませたことはないのだ。


 エルドはユーバ・アインスの銀灰色の双眸を見据え、



「戦争が終わっても、隣にいてくれるか?」


「【回答】エルドが望むのであれば、当機はその命令を受諾しよう」


「そうでなきゃ困る。飯の問題とか」


「【了解】では、その命令を受諾しよう。当機はエルドが死ぬまで、貴殿の側から離れることはない」



 淡々としながらも、どこか芯の通ったユーバ・アインスの迷いない答えに満足して、エルドは彼の背中に手を回す。体温もなく、柔らかさもないのだが、どこか落ち着く感覚だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ