【第10話】
視覚機能が再起不能になるような眩い光が、夜の闇を引き裂いてユーバ・ドライに襲いかかる。
虚な瞳で『超電磁砲』が襲いかかる様を眺めていたユーバ・ドライは、踊るような足取りで襲いくる閃光を回避する。回避行動を取った拍子に彼女の銀髪が翻り、毛先が閃光に飲み込まれて焼かれてしまう。
頭髪も部品の1つであり、自動回復機構が適用されるはずだ。それなのに自動回復機構による回復行動が適用されず、ユーバ・ドライの閃光に焼かれた毛先はチリチリに焦げたままだ。
そうだ、彼女は魔力を外部から取り込まなければいけない状態である。残存魔力最低ラインを切っているので、自動回復機構の展開が停止しているのだ。
「【展開】疾風ノ陣」
ユーバ・ドライが動く。
グッと腰を低く落とし、力強く地面を蹴る。弾丸のような速度でユーバ・アインスの懐に潜り込むと、黒鞘に納められた大太刀を抜き放つ。
ぞろりと滑り出てきた薄青の刀身が、的確にユーバ・アインスの右腕を捉えていた。暗闇の中に薄青の軌跡が刻み込まれると同時、右腕部分が肩から消失する。
ユーバ・アインスの頭部に搭載された人工知能が、痛覚機能の遮断と右腕の消失を伝えてきた。
――【報告】右腕消失。痛覚機能を遮断し、戦闘行為の最適化を実行します。
――【展開】自動回復機構の適用。消失した右腕の部品を完全修復します。
ユーバ・アインスの斬り飛ばされた右腕が、白色の粒子をまとって復活する。自分の中の保有魔力が大幅に減った。
適宜、空気中から魔力を取り込んでいるとはいえ、こうも右腕や左腕などを斬り飛ばされていては自動回復機構が追いつかなくなる。やはり白兵戦が得意な機体だ。
復活した右腕の調子を確かめていると、さらにユーバ・ドライの攻撃が飛んでくる。
「【展開】断空ノ陣」
「【展開】絶対防御」
純白の盾を展開して攻撃を受け止める。
距離を飛び越えてきたユーバ・ドライの居合を受け止めたことで、純白の盾から聞こえてはいけないような音がした。見れば本来なら絶対に傷つかない白い盾に、薄らと切れ込みが生じていた。
ユーバ・アインスは銀灰色の双眸を音もなく眇め、
「【展開】【並列】自動拳銃」
純白の盾を展開した状態で、ユーバ・アインスは白い拳銃の兵装を展開する。
左手に出現した白い拳銃を握ると、純白の盾をユーバ・ドライめがけてぶん投げた。ユーバ・ドライの視線が投げつけられた純白の盾に注目する中で、ユーバ・アインスは大きく逸れてユーバ・ドライの横に回り込む。
ユーバ・ドライはこちらに気づいていない。今のうちだと銃口を向けるのだが、
「【展開】旋風ノ陣」
「ッ」
大太刀を振り回し、その遠心力を使ってユーバ・ドライはぐるんと大きく回転する。
旋風によってユーバ・アインスが発射した弾丸は押し戻されてしまい、狙った場所とは違った地面を抉る。彼女の足元の地面には幾重にもなって刀の切れ込みが刻まれており、あの1回転で複数回にも渡る斬撃を叩き込んだのだ。
油断はしていなかったが、彼女は猪突猛進な戦術ばかりを取っていたので侮っていた。勝てるのであればどんな手段を用いても戦うのが彼女だ。
「【要求】戦術更新間隔を5秒から1秒に更新、設定。撃破する為の最適化を」
――【了解】戦術更新間隔を更新しました。機体の最適化を開始します。
純白の自動拳銃を投げ捨て、ユーバ・アインスは兵装を解除する。ユーバ・アインスの手を離れたことで純白の拳銃は白い粒子となって消えた。
ユーバ・ドライが音もなくユーバ・アインスを見やる。虚な青い瞳で見据えられ、反射的に回避行動を取るが遅い。
地面を蹴飛ばして肉薄してきたユーバ・ドライの抜刀。今度は左腕が斬り飛ばされる。軽くなった左腕の部分に舌打ちをし、ユーバ・アインスはユーバ・ドライの握った大太刀めがけて兵装を展開した。
「【展開】蹴撃風塵」
ジジジ、とユーバ・アインスの右足に光が集まる。
以前に団長のレジーナ・コレットによる攻撃を受けた際に模倣した兵装だ。エルドの戦闘用外装から得られた情報を元に模倣した『剛神鉄拳』はよく使うのだが、こちらの兵装はあまり使わない。威力計算が心配だ。
第二撃が右腕を狙って振るわれるも、それより先にユーバ・アインスはユーバ・ドライの脇腹めがけて回し蹴りを叩き込む。『蹴撃風塵』によって強化された足刀の威力は凄まじく、ユーバ・ドライは呆気なく吹き飛ばされる。
「【展開】重機関砲」
さらに兵装を展開。
ユーバ・アインスは純白の重機関砲を構え、素早く照準を合わせるり視覚機能に表示されたユーバ・ドライを狙って、重機関砲の引き金を引いた。
ズダダダダダダダダダダダ!! という銃声が連続する。放たれた弾丸はユーバ・ドライの腹部や胸部を撃ち抜くが、未だに行動することが出来るのか体勢を変えて着地をする。大太刀を構えると、またユーバ・アインスに接近してきた。
今度は接近など許さない。
「【展開】自動拳銃」
素早く兵装を展開し、重機関砲から自動拳銃に持ち帰る。その銃口を接近してきたユーバ・ドライに突きつけて、引き金を引いた。
ズドン、という腹の底に響くような銃声が夜空に響く。ユーバ・ドライの額が的確に撃ち抜かれ、その中に隠された人工知能などの様々な部品が露出した。バチバチと小さな火花が散り、緑色の液体が漏れ出る。
飛び抜けた美貌を持っていたはずだが、額を撃ち抜かれたことで見るも無惨な状態となっていた。さすがにボロボロになりすぎたのか、ユーバ・ドライはユーバ・アインスから距離を取って内部構造が露出する額を押さえる。
「【疑問】まだ続けるか」
「…………」
白煙が立ち上る純白の拳銃を突きつけたままユーバ・アインスはユーバ・ドライに問いかけるも、相手は何も答えない。答える自由さえも残っていないのだ。
なおも大太刀を構えて戦う姿勢を見せるユーバ・ドライは、大太刀を鞘に納めて腰を落とした。居合を放ってくる合図である。
彼女の居合は視覚機能で捉えた相手を切断してくる。つまり見えなければ切れないのだ。
ユーバ・アインスは自動拳銃を構えたまま、
「【展開】【並列】閃光爆撃」
ユーバ・ドライの目の前に、白い球体がどこからともなく現れる。
虚な青い瞳でその白い球体を捉えたユーバ・ドライは、迷いなくその白い球体を大太刀で叩き切った。真っ二つに割れると同時に、カッと爆発を引き起こして彼女の視覚機能を再起不能に追い込む。
悲鳴はない、絶叫も文句もない。ユーバ・アインスは閃光が晴れた頃合いを見計らって、
「――――」
発砲。
ズドンズドン、と銃声が2回。
射出された弾丸は、目を覆うユーバ・ドライの両方の膝を撃ち抜いた。支えをなくしたユーバ・ドライは、そのままうつ伏せに倒れ込んでしまう。
自動回復機構が展開しないまま、彼女は傷だらけの状態で起き上がろうとする。ユーバ・アインスはそんなユーバ・ドライを蹴飛ばして、仰向けに転がした。
「【謝罪】兄貴、ごめん」
不意に、ユーバ・ドライの口から謝罪の言葉が紡がれた。
「【否定】謝るな、ユーバ・ドライ」
純白の自動拳銃を彼女の頭部に狙いを定めたユーバ・アインスは、
「【回答】貴殿の死は、当機が背負う」
引き金を引く。
自動拳銃から銃弾が射出され、ユーバ・ドライの額を的確に撃ち抜いた。額から露出していた内部構造を傷つけ、彼女の瞳から光が消える。
強制戦闘信号による消え方ではなく、完全に停止したことを示していた。白煙の上る純白の自動拳銃を消して、ユーバ・アインスはユーバ・ドライの側にしゃがみ込む。
彼女の開きっぱなしになった瞳に手を添えて、
「【報告】ユーバ・ドライの機能停止を確認。【状況終了】」
そっと、彼女の瞼を下ろしてやった。




