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Regalia  作者: 山下愁
第8章:空を断つのは呪いか愛か

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【第6話】

「【報告】食事が出来た。【推奨】速やかな食事の開始」



 ユーバ・ドライに要求されたユーバ・アインスの料理がついに完成した。


 鼻孔をくすぐるのは食欲を唆る何かの香りだが、今日の献立が果たして何なのか見当もつかない。少なくともユーバ・ドライが言うようにボルトやナットが入っているような可能性はないと思いたい。

 かつてボルトやナット入りの食事を経験したことがあると言っていたユーバ・ドライは、嗅覚機能を刺激するこの匂いに混乱している様子だった。青色の瞳を見開き、驚いたような表情で「【混乱】何この匂い……?」などと首を傾げている。


 ユーバ・アインスが食卓に並べたのは、



「【補足】本日の献立は非戦闘員から仕入れた知識を元に模倣・再現したビーフシチューなるものだ」



 焦茶色のスープに肉の塊がゴロゴロと投入され、大きめに切られたじゃがいもやにんじんなどが焦茶色のスープの中に浮かんでいる。どこから用意したのか、硬めに焼かれた黒パンなども添えられていた。


 エルドも混乱する。戦時中にこんな贅沢な食事が出来るのかと驚いたが、まず材料が手元になかったはずだ。基本的に傭兵団『黎明の咆哮』でも保存の効く食材を中心に備蓄しているので、携帯食量が大半だった。

 そういえばハルフゥンは、人里であるゲートル共和国に程近い集落である。もしかしたら昼間のうちにゲートル共和国へ買い物に出掛けていたのかもしれない。非戦闘員の連中から食材を分けてもらったりしたのだろうか?


 軽率に奇跡を起こすユーバ・アインスに、エルドは考えるのを止めた。そもそも知識がないので自立型魔導兵器『レガリア』のことを理解しようという方がまずいのだ。



「【疑問】どっから出てきたんだ、こんな飯……?」


「【回答】本日はゲートル共和国まで買い物に行ける日だと聞いた。【説明】非戦闘員の方々から食材を分けてもらい、調理を開始。足りない分は携帯食料で代用した」


「これに携帯食料も入ってんのかよ!?」



 こんなに美味しそうなビーフシチューが、携帯食料で一部が代用されているとは誰が想像するだろうか。やはり彼らユーバシリーズは軽率に奇跡を起こしてくれる。


 ユーバ・ドライはおっかなびっくり椅子に着席し、出された匙でビーフシチューの焦茶色のスープをすくう。それから少しだけ口に含むとクワッ!! と瞳を見開いた。

 ほんの数秒だけ動きを止めると、凄い勢いでビーフシチューを平らげる。食事をしなくても問題はないとユーバ・アインスは言っていたのだが、まるで何日も食べていなかったかのような物凄い速度でビーフシチューを消費していくのだ。銀髪碧眼の美人にしては食べ方が汚い気がする。



「【驚愕】美味え!?」


「【回答】一般的な食材を使っていれば当機も普通に料理が出来る。【補足】リーヴェ帝国で提供していた食事はボルトやナットなどしか食べられそうなものがなく、仕方なしにそれらを使って調理していた」


「【疑問】兄貴、ボルトやナットはさすがにレガリアでも食えんのよ」


「【回答】ただの魔力補給に過ぎないのだから何でもいいだろう」


「【否定】いやいやそうじゃねえだろ、絶対」



 ユーバ・ドライは淡々とした調子のユーバ・アインスの言葉を否定し、



「【指摘】じゃあ聞くけど、義兄さんの飯にボルトやナットを混入することが出来んのかって」


「え」



 唐突に話題に出されたエルドは反応に困った。


 そりゃ今までボルトやナット入りの食事を提供されたことはないが、その可能性が万が一にもあるということなのだろうか。それは嫌だ、なかなか嫌なことだ。

 自立型魔導兵器『レガリア』ならボルトやナット入りの食事でも腹を壊すことはないだろうが、エルドは改造されていても身体構造は人間である。普通にボルトやナットを食べただけで死に至る可能性だって捨てきれない。


 ユーバ・アインスは「【否定】そんなことはしない」と首を横に振り、



「【説明】エルドにボルトやナット入りの食事を提供すれば、誤飲によって死に至る危険性が考えられる。【否定】当機はエルドを害するような真似はしない」


「【疑問】じゃあ何で当機アタシらの飯にはボルトやナットが入ってたんだよ」


「【回答】それしか材料がなかったからだな」


「【嘆息】否定できねえや……」



 ユーバ・ドライは天井を振り仰いだ。どこまでも人間臭い仕草を見せる自立型魔導兵器『レガリア』である。

 他の自立型魔導兵器『レガリア』はどこか人形めいた雰囲気があり、ユーバ・アインスを含めたユーバシリーズだけは妙に人間味がある。普通に口論したり、悪口に対してムキになったり、怯えたり、人間と見紛うような行動の数々を目撃してきた。


 今のユーバ・アインスとユーバ・ドライのやり取りだってそうである。弟妹機とはいえ、本当の人間の兄妹みたいなやり取りを繰り広げていたのだ。静かな室内が一気に賑やかになった。



「【疑問】ユーバ・ドライ、おかわりは?」


「【要求】いる、ちょうだい」


「【了解】では皿を寄越せ」



 ユーバ・ドライが差し出した皿にユーバ・アインスは追加のビーフシチューを注ぎ入れ、思い出したように何かを振りかけて「【報告】味を変えてみた」などと言って提供した。

 焦茶色のスープに変わりはなく、肉の塊も大きく切られた野菜もゴロゴロとスープの中を揺蕩う。ただ1回目にはなかったものが焦茶色のスープの中に浮かんでおり、ユーバ・ドライはそれを見た途端に固まった。


 銀色に輝く小さな螺子ねじである。しかも大量にスープの中へ投入されていた。嫌がらせ以外に言葉が思いつかない。



「【疑問】兄貴、何で当機アタシの飯の中に螺子が入ってるんだ?」


「【回答】先程からボルトやナットなどの食事が云々と話していたから、食べたいのかと判断したまでだが」


「【嘆息】食べたくねえから言ってんだよ!?」



 小さな匙で「【悲嘆】しかも小さい、すくうのが面倒臭い!!」とユーバ・ドライは叫んでいた。そんな妹機の嘆き悲しむ姿を見ても、ユーバ・アインスはツンと澄まし顔である。

 ボルトやナット入りの食事を気にしていたのだろうか。さんざっぱらこき下ろされて、ユーバ・アインスも苛立っていたのだろう。リーヴェ帝国にはまともな食事もなさそうなので、ボルトやナットなどが入っていても食べて問題なければ作ってもらえるだけありがたいと思うべきなのか。


 ユーバ・アインスがエルドに向かって手を差し出し、



「【疑問】エルドもおかわりするか?」


「……おう」



 エルドの皿もいつのまにか空っぽになっていた。あまりにも美味しかったので手が止まらなかったのだ。


 空っぽになった皿をユーバ・アインスによって回収され、それから純白のレガリアはビーフシチューを皿に盛り付ける。小さな螺子ねじを投入するような素振りは見せず、そのまま皿をエルドに渡してきた。

 エルドの皿には螺子がお邪魔している様子はない。匙で確認してみるも、銀色に輝く部品が焦茶色のスープの中に浮かんでいることはなかった。


 ホッと胸を撫で下ろすエルドに、ユーバ・ドライが恨めしげな視線を寄越してくる。



「【要求】義兄さん、ビーフシチュー交換して」


「何でだよ」


「【回答】こっちは異物混入されたってのに!! 義兄さんだけまともな飯が食えるなんて羨ましいだろうが!!」


「ふざけんじゃねえ、誰が螺子入りのビーフシチューなんか食うか!! テメェは腹を壊さねえんだから大人しくそれ食っとけ!!」


「【要求】頼むよお願いだって可愛い義妹の頼みだろーッ!?」


「俺は腹を壊してもいいってか!?」



 相手が天下最強のユーバシリーズであることを忘れ、エルドはユーバ・ドライから自分の食事を懸命に守るのだった。

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