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Regalia  作者: 山下愁
第7章:朽ち果てた玉座に座る傀儡の王

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【第13話】

「ゥオラ!!」



 エルドは戦闘用外装を嵌めた右拳を突き出す。


 目の前に立ち塞がる量産型レガリアをぶん殴れば胴体と首が簡単に離れ、つるりとした頭部がぶっ飛んでいく。残された胴体が膝から崩れ落ちる前に蹴飛ばしてやれば、他の量産型レガリアを巻き込んで倒れた。

 ジタバタと仲間の亡骸に潰されてもがく量産型レガリアの頭を強めに踏みつけてやると、頭部で点滅していた赤い光が消える。頭部の表面はエルドの足の形に凹み、内部構造で不具合が生じたのか動かなくなってしまった。


 殴りかかってきた量産型レガリアを逆に殴り返すエルドは、



「あ?」



 その時は唐突だった。


 それまでエルドたち傭兵団『黎明の咆哮』を相手していた量産型レガリアが、まるで糸の切れた操り人形の如く次々と倒れていったのだ。

 別にエルドたちは何もしていない。他の傭兵も何が起きたのか分からず、倒れ込んでいく量産型レガリアを眺めて「何が起きた?」「分かんねえ」と互いの顔を見合わせながら話していた。


 ただ、量産型レガリアはユーバシリーズの4号機――ユーバ・フィーアの支配下にあった連中だ。あのレガリアの支配下に置かれていた量産型レガリアが一斉にバタバタと倒れたのだから、きっとユーバ・アインスが倒したのだろう。



「まだ油断するなよ」


「分かってるよ」


「敵の罠かもしれねえだろ」



 エルドが仲間たちに呼び掛ければ、彼らは慣れたような口振りで返してくる。あらゆる最悪の事態を想定できてこその傭兵だ。


 量産型レガリアはもう用済みとなった可能性だってある。もっと強い機体を手に入れたから、邪魔な機体を排除したという未来もあり得るのだ。

 つまりユーバ・アインスがユーバ・フィーアの侵食によって陥落したという最悪の未来である。最強にして高い防御力と受けた攻撃を分析・模倣して自分の兵装に組み込んでしまうユーバ・アインスが敵となったらまず勝てない。


 右腕に嵌めた戦闘用外装をガシャンと鳴らし、エルドはウェルシュタット共和国の最奥に聳え立つボロボロの王城を見やった。



「大丈夫だろうな……」



 ただ心配するのは、相棒の白いレガリアの無事である。



 ☆



 ややあって、純白のレガリアが帰還した。



「【報告】ただいま帰投した。【疑問】エルド、無事か?」


「おう、見ての通りだ」



 量産型レガリアが次々と倒れる謎の現象が起きてから10分が経過した頃合いで、傭兵団『黎明の咆哮』の面々も緊張感が解れていた。倒れ込んだ量産型レガリアをガンガンと叩いたり蹴ったりして動かないことを確認してから、バラバラに解体し始めたのだ。

 精密機器である量産型レガリアは、珍しい金属などで構成されているので溶かして改造人間の修理部品として再利用するのだ。内部構造は部品屋に高く売り飛ばすことも出来る。自立型魔導兵器『レガリア』だったら値段も遥かに跳ね上がるのだが、量産型レガリアでも稼げるには稼げるのだ。


 エルドは量産型レガリアから引き千切った足をまとめて抱え、帰ってきたユーバ・アインスを迎える。



「ユーバ・フィーアは倒せたか?」


「【肯定】ああ。【補足】ここにいる」



 ユーバ・アインスがエルドに突き出したのは、レガリアの両足部分だった。高熱でも使って焼き切ったのか、断面が溶けているように見える。

 量産型レガリアには見えないそれは、ユーバ・フィーアのものだろう。自動回復機構も適用されないあたり、4号機がもう動かないことを証明していた。


 エルドは「そうか」と応じ、



「埋めてやるか」


「【疑問】弔ってくれるのか?」


「敵だったとはいえ、テメェの弟機だろ。レガリアが天国に行くとか地獄に行くとか分からねえけど、でも弔ってやる気持ちが大事なんだよ」



 エルドは「どこに埋めたいとか、希望はあるか?」と問い掛ければ、



「【回答】ではアビサティヌ城に」


「あんなところに? 何かあったか?」


「【回答】彼の好みそうな少女型レガリアを放置してしまった。【要求】埋めるとは言わずとも、せめて彼女の側で寝かせてやってほしい」


「おうよ」



 エルドは抱えていた量産型レガリアの部品を他の傭兵に押し付け、



「ちょっとユーバ・フィーアの埋葬に行ってくる」


「レガリアなのに埋めんの?」


「売った方が金になりそうじゃね?」


「うるせえ」



 傭兵どもの心ない意見を一蹴し、エルドはユーバ・アインスと共にアビサティヌ城に向かうのだった。



 ☆



「【提示】ここだ」


「うわあ……」



 ユーバ・アインスに連れられてやってきたアビサティヌ城は、天井が吹き飛ばされてボロボロの有様だった。元からこうなっていたのだろう。

 そして瓦礫の山の上に、溶け落ちた少女型レガリアが転がっている。4号機であるユーバ・フィーアが扱っていた機体だ。エルドもほんの少しだけ見た覚えがあるのでまだ記憶に残っており、その可憐な見た目の自立型魔導兵器『レガリア』が無惨な死に様を晒していて目を逸らしたくなった。


 ユーバ・アインスは溶け落ちた少女型レガリアの側にユーバ・フィーアの両足部分をそっと置くと、



「【回答】これであと2機だ」


「……そうだな」



 残りは2号機であるユーバ・ツヴァイと3号機であるユーバ・ドライだ。それらを倒せば、ユーバ・アインスの秘匿任務も片方は完了する形である。

 最強のレガリアと名高いユーバシリーズを撃破すれば、リーヴェ帝国の戦力も削ぎやすい。自立型魔導兵器『レガリア』のシリーズは星の数ほど存在して最新機器もまだまだ開発されるだろうが、レガリアはユーバシリーズ以上の強い個体を生み出せていない。リーヴェ帝国が倒れるのも時間の問題だ。


 ユーバ・アインスはエルドへと振り返り、



「【疑問】貴殿は、当機の秘匿任務に付き合ってくれるか?」


「そう約束したからな」


「【回答】やはり、エルドは優しいな」


「やるって言ったらやる男なんだよ、俺は」



 出会った時から秘匿任務に付き合うことを宣言し、そして今日までやってきた。今まで7号機から順番に撃破していき、残り2機となった。

 ここまでやってきて、途中で放り出すような真似はしない。いくら普段から戦闘を面倒くさがってぐうたら生活したいと望んでいても、そんな不義理な性格をしていないのだ。


 エルドはユーバ・アインスの頭を撫でてやり、



「それより、テメェはいいんか」


「【疑問】何がだ?」


「弟機だったんだろ」



 瓦礫の山に置かれたユーバ・フィーアの両足部分を見やるエルドは、



「いくら自立型魔導兵器『レガリア』でも、弟機として開発された連中をそう何度も手にかけていれば辛くねえのか」


「【回答】秘匿任務だから問題はない」


「嘘つけ」



 エルドはユーバ・アインスの顔を覗き込み、



「問題ないって態度じゃねえだろ」


「…………」



 ユーバ・アインスの銀灰色の双眸から、透明な涙が流れ落ちていた。

 自立型魔導兵器『レガリア』が涙を流すとは驚いたが、無表情の割にユーバ・アインスは感情豊かだ。そういえば嬉しい時は笑うし、怒る時は凄みがある。涙を流す機能もついているとは、彼の開発者はなかなか凄腕の開発者だったらしい。


 ユーバ・アインスは涙を流しながら首を傾げ、



「【回答】当機は問題ない」


「泣いてんのに」


「【回答】泣いてない」


「強がりにも程があるだろうが」



 エルドは生身の左手でユーバ・アインスの頬を伝う涙を拭ってやると、



「俺がテメェの立場だったら、間違いなく気を病んでると思う。夢にまで出てくるだろうし、疲弊していってやりたくなくなるかもな」



 誰もが出来る所業ではない。

 いくら自立型魔導兵器『レガリア』でも、涙を流す機能を与えられたぐりいなのだ。彼の精神だって傷つくこともある。


 それなのに続けるのだから、立派なものだ。



「アインスは、凄えよ」



 素直にそう褒めてやれば、ユーバ・アインスはエルドの胸板に額を押し当ててきた。両腕をエルドの背中に回し、絶対に離さないとばかりに抱きついてくる。

 エルドはそんなユーバ・アインスの冷たく硬い身体を抱きしめ返してやり、しばらく好きにさせてやることにした。


 それから心配した仲間に呼ばれるまで、エルドはユーバ・アインスを抱きしめてやっていた。

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