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Regalia  作者: 山下愁
第7章:朽ち果てた玉座に座る傀儡の王

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【第9話】

「【展開】白壁天幕ドーム



 ユーバ・アインスの持つ純白の盾が消えたと同時に、エルドたち傭兵団『黎明の咆哮』を守るように白いドームが形成される。


 見た目に似合わず頑強な純白のドームは、建物内に隠れた量産型レガリアによる銃弾の雨嵐を完璧に防いだ。白い壁の向こう側からドガガガガガガガガガガガガガガガという銃弾が硬い壁を抉る音が容赦なく鼓膜に突き刺さり、恐怖心を煽ってくる。

 それでも銃弾如きではユーバ・アインスの高い防御力は揺らがず、苦悶の表情すら浮かべることはない。ツンとした澄まし顔で白いドームを維持している。



「【遺憾】兄者の防御力はさすがに敵いませんなぁ」



 量産型レガリアを操るユーバ・フィーアが、銃弾の雨嵐を一旦中断して言う。それに合わせて、ユーバ・アインスも純白のドームを解除した。


 目の前に進み出た1機の量産型レガリアが、滑らかな挙動で「【称賛】さすがですわー」と戯けて見せる。肩を竦めるなどの行動は、普段の量産型レガリアでは考えられないものだ。

 エルドたちに銃口を向けていた量産型レガリアが、一斉に建物の奥へと引っ込む。何が起きたのかと思えば、入れ替わるようにして人型のレガリアがエルドとユーバ・アインスの前に立ち塞がった。


 量産型ではない、自立型魔導兵器『レガリア』――シリーズ名で管理されている機体だ。



「【疑問】おやおやぁ? この姿を見るのは初めてですかな?」


「【肯定】そうだな。【予測】その口振りからすると、貴殿の子機として開発された機体か」


「【肯定】そうですぞ。当機せっしゃもまあ、一応は『戦える』って偽造をしておかないといけないんでつよ」



 戯けた口調で喋る自立型魔導兵器『レガリア』は、少女の姿をしていた。

 明るい桃色の髪をツインテールにし、大きくつぶらな双眸は夕焼け空を溶かし込んだかのように色鮮やかな赤い色をしている。愛らしさを前面に押し出した顔立ちは、喋り口調とは似合わないぐらいに子供らしい可憐さがある。


 桃色を基調とした戦闘衣装はフリルがふんだんにあしらわれたドレスで、胸元で揺れる星型のコンパクトらしきものが中心に据えられた大きなリボンが特徴的だった。華奢な手が握りしめるものは、ハートの形をした杖である。どこからどう見ても漫画や絵本に出てくるような、勧善懲悪を体現する魔法少女だ。



「…………テメェの弟機、馬鹿みたいな喋り方をするくせに見た目はそんな可愛いの?」


「【否定】ユーバ・フィーアに搭載された人工知能は若干アレな感じで、この機体は完全に彼の趣味だ」


「趣味」


「【肯定】リーヴェ帝国に在籍時、似たような絵本を突き出されて熱く語られたことがある。【補足】その回数は28回、合計で1870時間48分だ」


「長ッ」



 ユーバ・アインスはいつもの無表情で「【肯定】確かに長かった」と頷いた。彼も少なからず鬱陶しいとでも思っていたのだろうか?



「【遺憾】この格好を馬鹿にされてますな? 上等でござる、まとめて当機せっしゃの杖の錆にしてくれるわ」


「【展開】超電磁砲レールガン


「【驚愕】だからいきなり攻撃するのは反則なんですぞ兄者!!」



 白い砲塔を展開して網膜を焼かん勢いの光線を魔法少女の見た目をした自立型魔導兵器『レガリア』に発射するユーバ・アインスだが、少女型レガリアがぎゃーぎゃーと甲高い声を上げながら回避する様を眺めて舌打ちをする。白い光線はその他の建物や建物内部に待機していた量産型レガリア、石畳やベンチなどを黒焦げにするものの逃げる少女型レガリアには1発も当たらなかった。

 さすが天下最強のユーバシリーズ、その4号機である。「【憤慨】反則だって言ってんでしょーが!!」と叫びながらも逃げ回る挙動は滑らかなもので、本当にあれがユーバ・フィーアなのではないかと錯覚してしまうぐらいだ。


 ユーバ・アインスの展開する兵装『超電磁砲』から逃げ回っていたユーバ・フィーアは、



「【憤怒】だからいい加減にせんかぁ!!」



 少女型レガリアの持つハートの杖が掲げられると、どこからともなく紅蓮の炎が噴出された。

 火炎放射器のようなものは存在せず、エルドが認識している限りでは虚空から自然と生み出されたものに見える。自立型魔導兵器『レガリア』にも使われている技術――魔法と呼んでもいいだろう。


 エルドは右腕の戦闘用外装を広げて、迫ってくる紅蓮の炎を受け止める。耐火性もバッチリな戦闘用外装で炎を振り払い、



「アシュラ、吹き消せ!!」



 エルドが叫ぶと、右腕の兵装に青色の光が流れ落ちていく。

 岩をも粉砕できる剛腕を発揮する戦闘用外装で拳を作り、ごうごうと燃え盛る炎へ向かって突き出せば、暴風が吹き荒れて炎を残らず掻き消してしまった。少し強引だが、こんなことも出来るのだ。


 ユーバ・フィーアは「【憤慨】鬱陶しい!!」と怒りを露わにし、



「【命令】起きろ雑魚ども、改造人間なんてぶっ壊してやるでござるぁ!!」



 綺麗な巻き舌で量産型レガリアに命令を飛ばせば、量産型レガリアは一斉に両腕へ括り付けられた重機関砲を構える。あれらが再び火を噴けば、エルドたちとてタダでは済まない。

 タダでは済まないのだが、こちとら幾度となく量産型レガリアと死線を潜り抜けてきた立派な傭兵である。戦場のど真ん中で棒立ちしていればどうなるか、など簡単に予想できる。


 重機関砲を構える量産型レガリアに肉薄するエルドは、



「オラァ!!」



 裂帛の気合いと共に拳を突き出し、量産型レガリアの頭を胴体から吹き飛ばす。遠くに吹き飛ばされていく真っ黒な頭を見送り、膝から崩れ落ちそうになった量産型レガリアの腕を引っ掴む。

 建物内では未だに量産型レガリアが何機か待機しているのだ。屋外ならまだしも、屋内にいられると簡単に手が出せない。


 腕を掴む胴体だけとなった量産型レガリアを、エルドは建物めがけてぶん投げた。



「飛んでけ!!」



 量産型レガリアは窓を突き破って建物の中に放り込まれ、建物内部で待機していた量産型レガリアがバタバタと窓から顔を出す。


 その時を待っていたのだ。

 何も両腕が銃火器に改造されているのは、量産型レガリアだけの特権ではない。



「くたばれ!!」


「オラオラオラオラ!!」



 建物から顔を出す量産型レガリアへ、腕の部分に銃火器の武器パーツが組み込まれた戦闘要員たちが襲い掛かる。量産型レガリアの杜撰な照準よりも遥かに優秀で、的確に敵性レガリアの眉間を撃ち抜いていった。

 エルドのように肉弾戦を得意とする改造人間は、屋外に蔓延る量産型レガリアの排除を実行する。改造人間の反撃に処理落ち気味の量産型レガリアの胴体をぶん殴れば吹き飛んでいき、壁に叩きつけられて動かなくなった。元は精密機器なのだから、殴っただけでも再起不能になる。


 自分の配下に置く量産型レガリアが次々と狩られていく様に恐怖を覚えたのか、少女型レガリアを操るユーバ・フィーアが悲鳴を上げる。



「【絶叫】や、野蛮人どもめ!! 地獄に堕ちろーッ!!」


「あ、逃げやがった!?」



 少女型レガリアは桃色の髪を靡かせ、慌てた様子で逃げ出す。

 ユーバ・フィーアは言ってもレガリアを操る能力しか持たないので脅威ではないだろうが、ユーバ・フィーアが操るあの少女型レガリアは脅威だ。魔法を使ってくれば改造人間など一気に殺すことが出来る。


 量産型レガリアの首をもぎ取るエルドは、



「アインス、テメェが追え!!」


「【疑問】エルドは?」


「俺らは量産型レガリアの処理だ。コイツらがハルフゥンに向かわれると非戦闘員どもも被害を受ける!!」



 エルドたちは何としてでも量産型レガリアを一掃しなければならないのだ。このウェルシュタット共和国からハルフゥンの街までそう遠くはないので、量産型レガリアの大群が攻め込んで来れば終わる。


 ユーバ・アインスは1度だけしっかりと頷くと、少女型レガリアが逃げた方向に駆け出した。

 これは秘匿任務だ。ユーバ・アインスが弟妹機と戦い、撃破することが重要である。エルドは手伝いこそ出来るが、最終的な撃破はユーバ・アインスがやらなければ意味がない。



「勝ってこい、アインス」



 遠ざかる白い背中を見送り、エルドは量産型レガリアの掃討作戦に集中するのだった。

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