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Regalia  作者: 山下愁
第7章:朽ち果てた玉座に座る傀儡の王

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【第7話】

 ハルフゥンからそこそこ離れた場所に、名前のない深い森がある。


 陰鬱とした雰囲気が漂う森林は不気味で、今にも化け物が飛び出してきそうだ。こんな場所に量産型レガリアが彷徨っていると考えただけで、子供たちは眠れないだろう。

 四輪車を使えば聴覚機能に優れた量産型レガリアの襲撃がある、という可能性を見越してエルドたちは徒歩で移動してきた。武装した集団がこぞって移動する様は物々しき空気を醸し出していたことだろう。


 鬱蒼と葉が生い茂る森の中に足を踏み入れたエルドは、周囲を見渡して顔を顰める。



「何だか不気味なところだな」


「【同意】薄暗く湿気がある。エルドが不気味と判断する理由も分かる」



 エルドの背中をピッタリとついてくる全身真っ白な自立型魔導兵器『レガリア』――ユーバ・アインスは、銀灰色ぎんかいしょくの双眸を周辺に巡らせながら応じる。



「【報告】周辺に敵性レガリアの反応はない。【推測】光学迷彩等の兵装を用いて当機の索敵を逃れているのかもしれない」


「ユーバ・フィーアならやりかねねえな」



 自分自身で戦う力を持たないユーバシリーズ4号機、ユーバ・フィーアは大勢の量産型レガリアを従える傀儡くぐつの王様だ。喋り口調はおかしなものだが、大群とも呼べる量産型レガリアを操る才能は折り紙付きである。

 ずる賢いユーバ・フィーアのことだ。量産型レガリアを介して安全地帯から見守っているのだろう。『侵食』の能力とは便利なものだ。


 あらかじめ団長から預かった値図を確認すると、



「この森の先に、今はもう廃墟となった国があるみたいだな。そこにレガリアが大量に配置されているらしい」


「【推測】ユーバ・フィーアの従えるレガリア軍団だろう」


「そう見て間違いねえな」



 ハルフゥンを奪還した時もそうだったが、今回の敵は油断してはならない敵だ。何せレガリアを従えることを可能とした自立型魔導兵器『レガリア』である。シリーズ名で管理されるレガリアならばまだしも、量産型レガリアだったら倒しても倒しても新しい機体が即座に配備されてしまうのでキリがない。

 加えて、ユーバ・フィーアの飛び抜けた人工知能で命じられるがまま動くお人形たちは、普段からエルドたちが相手している量産型レガリアよりも統率を持って動くはずだ。なかなか手強くなると見ていい。


 エルドは背後を歩くユーバ・アインスを一瞥すると、



「アインス」


「【応答】何だ?」


「平気か?」


「【回答】問題ない」



 いつもの淡々とした口調で、表情すら変化させないまま頷くユーバ・アインス。


 今回の戦いで、ユーバ・アインスは鬼門となる。彼は全身を改造した改造人間ではなく、リーヴェ帝国に所属していた自立型魔導兵器『レガリア』なのだ。

 つまり4号機のユーバ・フィーアによる『侵食』の能力をモロに食らう羽目になる。ハルフゥン奪還作戦時はエルドの機転によってユーバ・アインスは『侵食』の能力を除去したが、今度はそうもいかない。戦場のど真ん中、しかも敵陣の中心であんな馬鹿なことなど出来やしない。


 湿った空気に「うへぇ」と顔をしかめるエルドは、



「何か異変があったら言えよ」


「【了解】その命令を受諾する」



 淡々と命令を受け入れたユーバ・アインスは、



「【警告】止まれ、エルド」


「あん?」



 唐突に停止を要求され、エルドは湿った森のど真ん中で立ち止まる。

 エルドが先陣を切って歩いていたので、後ろから続いていた傭兵団『黎明の咆哮』所属の戦闘要員たちも立ち止まってしまった。彼らも疑問に満ちた視線をエルドの背中に突き刺し、口々に「おい、どうしたんだよ」「まさか本当に化け物か?」などと問いかけてくる。


 ユーバ・アインスがエルドを押し退けて前に進み出ると、



「【展開】迷彩看破ファインダー



 光学迷彩等の兵装を強制的に解除させる兵装を展開すると、ガシャンという硝子の割れるような音が耳朶に触れた。



「ッ」



 エルドは息を呑む。


 光学迷彩を使ってエルドたちを付け狙っていたのは、どうやら予想が当たったようだ。その証拠に、この鬱蒼とした森の中で量産型レガリアが20機ほど森を踏み荒らすエルドたちを観察している。

 チカチカと明滅する赤い光が絶妙に気味悪く、非戦闘員の子供たちならば確実に悲鳴を上げる。襲いかかる訳でもなく、ただ茂みの中や木の影からエルドたちの様子を窺っていた。



 ――じゃりッ。



 土を踏みしめる音。


 弾かれたように顔を持ち上げれば、1機の量産型レガリアがエルドたちの行手を塞ぐように立っていた。つるりとした頭部、チカチカと眼球の位置で妖しく輝く赤い光。だらりと垂れ落ちた両手は重機関砲が括り付けられているが、それを持ち上げて攻撃するような雰囲気は感じられない。

 量産型レガリアは不思議そうに首をカクンと曲げると、



「【疑問】おンやあ? 愚かな兄者、昨日ぶりでござるなぁ。今日はまた随分と大所帯で」


「【応答】ユーバ・フィーア……」



 ユーバ・アインスの表情が険しくなる。



「【警告】即座の投降を」


「【拒否】お断りでござるよ。父上に示しがつかないですからな」



 量産型レガリアの声帯を器用に使って自分の言葉を代弁させるユーバ・フィーアは、



「【要求】兄者こそ、そろそろそんな雑魚と一緒にいるのは止めてほしいんでござるが? リーヴェ帝国に戻りましょうよ、兄者。当機せっしゃは怒ってないんで」


「【拒否】断る。当機には父から与えられた秘匿任務がある」


「…………」



 ユーバ・フィーアはそこで押し黙り、



「【回想】そういえば、父上は当機せっしゃらを見て実に悲しそうな顔をしておりましたな。あの人はお優しかったから、人を殺す為に構築された当機らの存在を許すことなど出来なかっただろうね」



 それまで馬鹿にしたような喋り口調だったのが、嘘のように穏やかな声である。4号機のユーバ・フィーアもあのように話すことが出来るのか。



「【回答】じゃあ兄者、我々はここで袂を分つということで。【警告】当機せっしゃも悪いけど簡単に撃破される訳にはいかんですわ、全力で抵抗させていただきますんで」


「【回答】やってみろ」


「【警告】では遠慮なく」



 それまでエルドたちを見守っているだけにすぎなかった量産型レガリアの群れが、一斉に武器を構え出す。赤い光を瞬かせながら「【警告】【警告】【警告】【警告】」と叫びました。

 両腕に括り付けられた重機関砲が、一斉に火を噴く。雨霰のように飛んでくる量産型レガリアによる銃弾を、エルドや他の改造人間は兵装を展開して身を守る。ユーバ・アインスは純白の盾を展開して、量産型レガリアによる鉛玉の贈り物を防いでいた。


 右腕の戦闘用外装を広げて身を守るエルドは、



「ゥオラ!!」



 力任せに右腕を薙ぎ払う。


 鋼鉄の右腕にぶち当たっていた量産型レガリアの銃弾が何発か弾き返されて、重機関砲を展開する量産型レガリアの頭を貫いた。眉間を的確に射抜かれ、量産型レガリアは膝から崩れ落ちる。

 さすがに想定内だったのか、ユーバ・フィーアは従えた量産型レガリアに命じて攻撃を止めさせなかった。なおも撃ち込まれる銃弾の雨霰に、今度はユーバ・アインスが動く。



「【展開】一方通行アクセラレーション



 純白の盾で防いでいた銃弾が逆再生されるかのように跳ね返され、行手を阻んでいた量産型レガリアの頭部をぶち抜いた。紫電を放ち、頭部から赤い光がプツリと消える。

 糸の切れた操り人形よろしくその場に崩れ落ち、道が開ける。少し危険だが、存在がバレてしまった以上は強行突破する他はない。


 ユーバ・アインスはエルドへ振り返り、



「【要求】エルド、先に行け」


「テメェは!?」


「【回答】殿だ」



 ユーバ・アインスは「【展開】地雷爆撃ボム」と次なる兵装を展開し、量産型レガリアの足元を爆破する。爆発に巻き込まれた量産型レガリアは呆気なく吹き飛び、手足がひしゃげて機能停止した。

 これだけ大量のレガリアを相手にすれば無事では済まない。今回の任務も命懸けだ。


 頬を掠めた銃弾に舌打ちをするエルドは、



「行くぞ!!」



 量産型レガリアの銃弾を弾き飛ばしながら、エルドは森の奥にて待ち受ける傀儡の王を目指すのだった。

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