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Regalia  作者: 山下愁
第3章:見上げるほど、遙かなる

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【第9話】

「【展開】電磁阻害エレキテル



 ユーバ・アインスを中心として、白い雷が波状に展開される。


 すぐ側にいたエルドは白い雷に触れても痛みや痒みさえなかったが、問題は薄い水色の髪を持つ女性型レガリア――ジュディ・スリィだった。

 白い雷に触れた彼女の動きが明らかに悪くなっていた。1体だけではなく、他の傭兵たちを襲っていた7体全てに異常が出ている。ジュディ・スリィ本体も自分の身体に出た異常反応に対応できず、瞳を見開いたまま固まっていた。


 バチバチと身体から紫電が弾け飛ぶ。白い雷を受けたことで体内に何らかの異常が発生した証拠だ。



「【疑問】これは一体?」


「【回答】当機の兵装『電磁阻害エレキテル』はレガリアの行動を阻害する為に設計・開発されたものだ。身体機能に異常を来たし、思うように身体を動けなくする」



 ユーバ・アインスは淡々とした口調で言い、



「【補足】本来は暴走したレガリアを相手に展開されるべき兵装だが、当機に設定されている現在の敵はレガリアである。兵装展開の妥当性を主張する」


「【嫌悪】面倒なものを兵装として搭載されたものですね」



 ジュディ・スリィは明らかに嫌そうな表情を浮かべた。ただのお人形かと思えば、ちゃんと表情を動かす機能まで搭載されているとは本当に人間のようである。


 兵装『電磁阻害エレキテル』によって自由を奪われたジュディ・スリィは、次々と傭兵たちによって破壊される。頭をもがれ、身体を蹴飛ばされ、魔力による自動回復機構が展開されるより先に暴虐の限りを尽くされて破壊された。

 綺麗な女性が見る影もなくボロボロである。だが不思議と、心は痛まなかった。この女性型レガリアは敵であり、ユーバ・アインスと違って味方になるような要素は全くなかった。


 ユーバ・アインスも最後の1機を破壊するべく、白い盾を振り上げる。



「ッ、危ねえ!!」



 エルドは思わず叫んでいた。


 身体の自由を奪われていたはずのジュディ・スリィだが、ユーバ・アインスの『電磁阻害エレキテル』による拘束を無理やり解除したらしい。

 ユーバ・アインスの死角から、ジュディ・スリィが展開した短槍が強襲する。ユーバ・アインスもそうだが、レガリアの武器は魔力によって構成されているのでどこからでも取り出すことが可能だ。


 すでに振り下ろされた白い盾の軌道は、ジュディ・スリィの頭を穿つように設定されている。だがジュディ・スリィの短槍も、頭を穿たれただけでは止まらない気配があった。



「クッソが!!」



 悪態を吐いたエルドは、ジュディ・スリィが突き出す短槍めがけて右腕の戦闘用外装を伸ばす。

 膨れ上がった右手の指先が、ジュディ・スリィの突き出した短槍を掠めた。ぢりッと金属と金属が擦れるような嫌な音が耳朶に触れ、エルドの右手の指が一部吹っ飛ぶ。


 横合いから邪魔をされた影響で、ジュディ・スリィの鋭い眼光が向けられる。ザマァみろ。



「おいアインス、ちゃんと見ろ!!」


「【謝罪】すまない」



 ユーバ・アインスは盾を掲げたまま強制停止し、



「【疑問】当機には魔力を取り込んで自動的に損傷部位を回復する『自動回復機構』が搭載されているが、何故エルドは当機を守った?」


「うるせえ、身体が勝手に動いたんだ!!」



 気がつけば勝手に身体が動いていたのだ。

 ユーバ・アインスにも魔力を取り込んで自動的に回復する『自動回復機構』が搭載されていることは、エルドも理解している。傷ついた彼を完璧に直したのも自動回復機構のおかげだ。


 ただ、エルドが嫌だったのだ。ユーバ・アインスが誰かに傷つけられることを。



「【警告】邪魔をするとはいい度胸です」


「うおっとい!?」



 エルドの眼球めがけて突き出された短槍を慌てて回避すれば、ジュディ・スリィのゴミに向けるような絶対零度の眼差しと交錯した。

 魔力で動くお人形が、よくもまあここまで感情豊かになるものである。ジュディ・スリィの瞳にもユーバ・アインスとの戦いを邪魔したエルドに対する憎悪に似た何かが宿っていた。


 短槍を握り直すジュディ・スリィは、



「【警告】今すぐにそこを退きなさい」


「――――おう、退いてやるよ」



 エルドはスッと膝を折って、その場でしゃがみ込んだ。


 共に行動した期間は短いものだが、何故か背後で庇うユーバ・アインスが兵装を展開する気配を察知できたのだ。これも傭兵として培われた長年の勘がなせる技なのだろうか。

 エルドの頭上から白い砲塔が伸びる。ユーバ・アインスが展開した純白の盾が砲塔に変形し、今まさにジュディ・スリィの意識を刈り取る死神の鎌として突きつけられる。


 銀灰色の眼差しを驚愕で身体を強張らせたジュディ・スリィに向けたユーバ・アインスは、



「【展開】超電磁砲レールガン



 ――――白い閃光が、エルドの網膜を焼く。


 ユーバ・アインスの構えた純白の砲塔から、白い光が束ねられて射出される。その白い光線はジュディ・スリィの全身を包み込んで焼き切った。

 白い閃光をまともに浴びて、無事でいられる訳がない。レストン王国を占拠していたいけ好かないレガリアもこの兵装で破壊に追い込まれたので、生き残ることは不可能だ。


 なのに、



「ぴー、がが、ががざ、ざざざ」



 腕は焼き切れ、肌もボロボロになり、薄い水色の髪も丸焦げになって、皮膚組織が融解して地面にポタポタと落ちていく。内部構造が徐々に露わとなっていき、嵌め込まれた硝子玉のような眼球がじっとエルドとユーバ・アインスを見据えていた。

 生きていたのだ、あの兵装を全身で受け止めておきながら。まだ動く余裕があるのか、千切れ飛んだ腕を動かして乱雑に振るう。短槍をまだ握っていると思っているのか。


 恐怖の人形と化したジュディ・スリィは、



「【警告】損耗率が80%を超えました。【要求】早期の魔力供給による自動回復機構の展開」


「【拒否】その行動は許可しない」



 ユーバ・アインスは純白の砲塔からいつもの盾の状態に変形させると、盾を使ってジュディ・スリィの頭をぶん殴った。


 満身創痍の状態で頭をぶん殴られ、無事でいられる方が少ない。

 ジュディ・スリィはその場で膝から崩れ落ちると、ギョロリとした作り物の眼球を動かしてユーバ・アインスを認識する。全身真っ白で、傷跡ひとつない最優にして最強のレガリアを見据えたジュディ・スリィは、フッと口の端を持ち上げて笑った。



「【遺憾】当機では貴方に勝てませんでした」


「【回答】当機はユーバシリーズ初号機だ。他のレガリアとは違う」


「【応答】確かにそうですね。貴方は非常に優秀なレガリアで、今もなお開発され続けるレガリアの中でも今もなお『最強』の座が揺るがない」



 ジュディ・スリィはなおも言葉を続け、



「【羨望】羨ましい」



 そのたった一言には、ジュディ・スリィの心の底からの羨望の意思が込められているような気がした。



「【助言】ユーバ・アインス、貴方にお教えしましょう」


「【疑問】何だ?」


「【回答】当機から言えるのはこれだけです。あとは貴方が推理しなさい」



 ジュディ・スリィはそっと瞳を閉じながら、



「【回答】アルヴェル王国がレガリアの開発なんて出来る訳がありません。あれは偽物ですよ」



 そう告げてから、ジュディ・スリィは瞳を閉じて動かなくなった。


 ユーバ・アインスはジュディ・スリィを静かに見下ろし、それから純白の盾を振り下ろして彼女の首を胴体から外す。吹き飛ばされた腕をせめてもの胸の上に乗せ、それから首を抱えさせた。

 見た目は酷いものだが、眠っている光景は安らかなものだ。量産型レガリアと比べて、死に方としては上々だろう。


 エルドは機能停止したジュディ・スリィを眺め、



「やっぱりな」



 分かっていたことだった。



「あのレガリア、やっぱりウチの王国のものじゃねえんだな」



 全く、団長も面倒な仕事を引き受けてきたものである。

 彼女は何も悪くないし、無知なアルヴェル王国が馬鹿なだけだ。リーヴェ帝国のレガリアを変に弄って「我が国が開発しました」と主張するなど滑稽である。


 エルドは右腕の戦闘用外装をガシャンと鳴らし、



「行くぞ、アインス。他も撤収するぞ、姉御に怒られるぞ」


「さっきのねーちゃん、何て言ってたんだ?」


「何かボソボソ言ってたのは知ってるけど、何かあんまり聞こえなかった」


「あー、何かアインスが羨ましいとか恨み節を吐きまくってた」


「レガリアが恨みつらみを吐くとかあるんだな」



 他の戦闘要員はレガリアの気配がいないことを確認してから、自分たちの四輪車に乗り込む。「あー、これ絶対にドクターから説教されるわ」「直るかな」などとぶつくさ呟いていた。ジュディ・スリィを轢いた際の傷跡が、四輪車に深く刻み込まれていたのだ。

 エルドの四輪車も同じような状況だった。これは絶対にドクター・メルトから説教を受けることになってしまう。轢かなきゃよかった、と今更ながら後悔する。


 戦闘用外装を外して運転用の外装を取り付けながら、エルドは未だにボケッと立っているユーバ・アインスを呼んだ。



「アインス、行くぞ」


「【了解】その命令を受諾する」



 彼の声には、心なしか覇気がなかったように思える。

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