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Regalia  作者: 山下愁
第3章:見上げるほど、遙かなる

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【第8話】

 轢き殺したレガリアは、腕や足がひしゃげてあり得ない方向に捻じ曲がっていた。


 髪の色は薄い水色、長めの前髪から色鮮やかな青い瞳が覗く。感情の読めない表情は綺麗に整っており、形の良い唇から「ぴー、がが」と人間ではあり得ないような異音を漏らす。

 無表情で荒野に転がる青い髪のレガリアは、女性の形をしていた。緩やかに胸部は盛られており、折れ曲がった四肢はすらりと細い。人形に欲情するエルドではないが、本当に人間の女性に見えてしまうほど精緻に作られていた。


 折れ曲がった手足を懸命に操作して立ち上がった女性型のレガリアは、



「【警告】本体の50%以上を損耗。【提案】自動回復機構を用いた修繕の開始」



 桜色の唇から漏れた声は平坦で、しかし女性らしい響きもあった。やはり女性型として設計されている以上、女性らしさを重要視したのだろうか。


 四輪車から降りて戦闘用外装を装着したエルドは、ガシャンと膨れ上がった右腕を鳴らして相手の出方を警戒する。

 意味もなく分身した状態でアルヴェル王国の輸送車と並走していた謎のレガリアだ。自立型魔導兵器『レガリア』の量産型ならまだしも、シリーズ名が割り当てられていると強さは桁違いに跳ね上がる。予想だが、どこぞのシリーズであることは間違いない。


 青い瞳を瞬かせる女性型レガリアは、その視線をエルドの背後に控える純白のレガリアに向けていた。



「【疑問】ユーバシリーズ初号機、ユーバ・アインスですね。何故このようか場所に?」


「【回答】当機は傭兵団『黎明の咆哮』に所属し、共にリーヴェ帝国の撃滅を誓った。現在の当機は貴殿を破壊する為に存在している」


「【納得】なるほど」



 女性型レガリアの腕が、逆再生されるかのように修繕されていく。気味の悪い修繕方法だと思う。

 そういえば、ユーバ・アインスも同じような機構を宿していたか。魔力が充填されている限り自己修復し、ちゃんと戦えるような魔法みたいな機能である。改造人間にもあんな機能がほしいところだ。


 折れ曲がった腕や足が回復したところで、女性型レガリアは恭しくお辞儀をした。



「【挨拶】お初にお目にかかります、ユーバ・アインス。当機はジュディシリーズ3号機、ジュディ・スリィです」


「【質問】貴殿は最近設計・開発されたばかりか?」


「【肯定】当機の運用開始日は、本日より3か月前となっております」



 随分と早い運用開始である。

 最新機能を搭載したレガリアなら、勝つ為に戦場へ投入するのは基本中の基本だ。戦いながらデータの収集をしていけばいいし、不備はその都度改善していけば問題ない。アルヴェル王国は最新型レガリアの都合のいい実験台なのだ。


 ジュディ・スリィと名乗った女性型レガリアは、



「【警告】当機の任務を邪魔しないでいただきたい」


「【拒否】それは出来ない」


「【疑問】何故?」


「【回答】当機は現在、傭兵団『黎明の咆哮』に所属している。『黎明の咆哮』の不利益に繋がるような真似は許可できない」



 レガリア同士の会話は実に淡々としていた。


 ジュディ・スリィも轢き殺されたことに対して憤りを露わにする訳ではなく、またユーバ・アインスもやはり淡々とした調子で対応している。傍目から見るとお人形同士の会話であり、どこか冷淡な印象も受けた。

 奇妙な光景であることは間違いない。深夜にこんな光景に出会ったら絶対に悪夢か何かだと思う。


 ジュディ・スリィは「【回答】そうですか」と告げ、



「【警告】ならば当機の任務遂行に邪魔となる為、貴殿をここで排除いたします」


「【応答】出来るものならやってみろ」



 ユーバ・アインスはちょっとムキになった様子で言い返していた。


 ジュディ・スリィの姿が揺らぐ。

 エルド自身の目が悪くなったのかと思ったが、どうやら違うようだ。ジュディ・スリィの身体が蜃気楼の如く揺らいだと思えば、同じような機体が彼女の隣に生み出されていた。


 その調子で次々とジュディ・スリィの姿が増殖していき、最終的には10体のジュディ・スリィが荒野に出現した。



「【警告】当機の任務遂行を邪魔する場合は排除する」


「【警告】命が惜しければ退け」


「【警告】」


「【警告】」


「【警告】」


「【警告】さあ、決断しろ」



 10体のジュディ・スリィが一斉に喋り始めて、耳障りな雑音を奏でる。誰も彼も「任務遂行に邪魔だから退け」と警告しており、警告音がピーピーと喧しい。


 ユーバ・アインスが純白の盾を構えるより先に、エルドは苛立ちに任せてジュディ・スリィの顔面を殴り飛ばしていた。

 膨れ上がった右腕が振り抜かれ、ジュディ・スリィの顔面を確実に捉える。細い首から頭部が千切れ飛び、ボールのように遠くへ転がっていく。残された身体が自動回復機構によって回復しないように、エルドは渾身の力でジュディ・スリィの身体もぶん殴る。



「アシュラ!!」



 エルドの右腕に青色の光が駆け抜けた。


 常人では発揮できない腕力が発動され、岩石をも砂にするほどの剛腕でぶん殴られたジュディ・スリィの身体は上半身と下半身で半分こになった。

 腰から上が千切れて飛んでいき、残った下半身は思い切り蹴飛ばして転がす。無理やり千切れた箇所からバチバチと紫電が弾け、回復はもう難しいことになっていた。


 蜃気楼かと思ったのだが、どうやら違ったようだ。この感触だとどれも本物のように見える。



「【警告】何をする」


「【警告】見逃してやる」


「【警告】許してやる」


「【警告】今の蛮行を」


「【警告】だから」


「ごちゃごちゃうるせえなァ」



 エルドは近くに寄ってきたジュディ・スリィの顔面を右腕で掴み、力任せに頭部をもぎり取る。

 呆気なく首と胴体がサヨウナラを告げ、ベラベラと喧しく警告音を鳴らしながら喋るジュディ・スリィの頭を握り潰した。ぐちゃり、とジュディ・スリィの頭部がスクラップとなる。


 何が警告だ。エルドにとっては喧しい雑音にしか聞こえない。このまま命が惜しくて逃げるのであれば、それは傭兵団『黎明の咆哮』の名折れだ。



「あんまり舐めた口を利いてんじゃねえぞ、スクラップが。撤退なんて最初から手段にあるか!!」


「【警告】」



 ジュディ・スリィの両腕が解体されて、巨大な砲塔を作り出す。

 それが現在まだ息のある7体分である。一斉掃射をされれば、さしものエルドとて無事では済まない。前言撤回したくなった。


 感情の読めない瞳でエルドを睨みつけるジュディ・スリィは、



「【警告】撤退しないのであれば、貴方から先に殺します」



 砲塔に光が宿る。

 高濃度の魔力を光線として放つ『魔力砲』だろうか。ここ最近ではあまり見かけなくなったと思ったが、どうやら最新式のレガリアには搭載されている模様だった。


 7体分の魔力砲が展開され、エルドに向けて一斉に集中する。無謀だとは思うが右腕の兵装で魔力砲を耐え凌ぐことにし、大きな手のひらを突き出して魔力砲を受け止めようとエルドは考えた。



「【展開】絶対防御イージス



 魔力砲が射出されたと同時に、エルドの前へ純白のレガリアが躍り出る。


 構えた真っ白い盾が、ジュディ・スリィ7体分の魔力砲を受け止める。

 改造人間の兵装を容赦なく焼き焦がすほどの威力を持った魔力砲でも、純白の盾の前では無力だった。難なく7体が放った魔力砲を受け止めると、そのまま魔力砲を中和してエルドを完全に守り切った。


 身体の正面で純白の盾を構えるユーバ・アインスは、



「【警告】エルドを傷つける輩は、誰であろうと許さない」


「【疑問】何故そこまでその人間を庇うのです?」



 感情のない青い瞳でユーバ・アインスを見据え、ジュディ・スリィは首を傾げる。



「【回答】決まっている。当機がエルドにぞっこんラヴだからだ」



 まだ続行するのか、その嘘。

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