表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Regalia  作者: 山下愁
第3章:見上げるほど、遙かなる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/127

【第7話】

 機能停止に追い込まれたジュディ・ワンは、指先すらピクリとも動くことはなかった。


 エルドは直立不動の状態を貫くジュディ・ワンを見上げる。

 このレガリアを解体するには、それなりに労力が必要になってくるだろう。さすがにエルドもこの巨大なレガリアを解体する作業には従事したくない。金がかかりすぎて仕方がない。


 ここはアルヴェル王国に引き取ってもらおう。本国であれば資金源は潤沢であり、また人員も山ほどいる。この巨大なレガリアを本国に持って帰ることも可能だろう。



「おい、アインス。このレガリアの解体作業は――」


「…………」


「アインス?」



 純白のレガリア、――ユーバ・アインスは、遠くを見つめたままエルドの言葉に耳を傾けようとしない。銀灰色ぎんかいしょくの双眸を荒野のその先に投げ、普段から即座に反応が返ってくるはずの彼だが無反応のままだったのだ。

 彼が見つめている先は、団長のレジーナを含めた傭兵団『黎明の咆哮』の残り連中と、本国が開発したと息を巻くレガリアを積んだアルヴェル王国の輸送車が進んだ方角だ。何かを感じ取ったとしか表現が出来ない。


 呑気に「解体はどうする?」「もう本国に任せてもいいんじゃねえか?」などと会話する身内の戦闘員へ振り返ったエルドは、



「テメェら、急いで四輪車に乗れ」


「何だよエルド、別に爆発とかしねえから平気だろ」


「心配性なのか?」


「レガリアが爆発する心配なんてしてねえんだよ」



 エルドは荒野の先を見つめたまま動かないユーバ・アインスを顎で示し、



「アイツを見てみろ、嫌な予感しかしねえだろうが」


「まあ確かに」


「ユーバ・アインスだもんな。索敵云々で何かを感じ取ったとしか思えねえな」



 身内の戦闘要員たちもユーバ・アインスが喋りもしないで荒野の一点を見つめる姿に異変を察知したらしく、次々と四輪車に乗り込んでいく。動力炉を吹かして出発準備は意外にも早く整った。


 エルドも改造された影響で膨らんだ右腕の戦闘用外装から、運転用外装に装備を交換する。運転用に調整された右腕の調子を確かめてから、荒野を見据えて動かないユーバ・アインスの首根っこを引っ掴んだ。

 助手席に叩き込まれて、ようやくユーバ・アインスは状況を理解したらしい。銀灰色の双眸を瞬かせると、運転席に乗り込んで動力炉を起動させるエルドを見やった。



「【疑問】出発するのか?」


「テメェが何かおかしいから、姉御をとっとと追いかけンだよ」



 動力炉が完全に起動したところで、エルドはギアを変えて四輪車を発進させる。それに合わせて他の四輪車も動き出し、団長を含めた『黎明の咆哮』とアルヴェル王国の輸送車が進んだ方角を目指す。

 ただしエルドは方向音痴だ。この方角で合っているか不明だが、ユーバ・アインスが見つめていた先に進んでいけば間違いはないだろう。間違った方角に進んだとしても正してくれることを信じるしかない。


 ユーバ・アインスは「【応答】そうか」と言い、



「【報告】広域探索にてレガリアの存在を検知。機体名称は特定不可」


「特定不可ァ?」


「【説明】当機がリーヴェ帝国を脱してから開発されたレガリアかもしれない。その場合、当機に相手の情報はない」



 戦争用の道具として使われている自立型魔導兵器レガリアは、すぐに新しいものが出現することで有名だ。それまで通用していたはずの戦術が1週間で使い物にならなくなるのはザラで、リーヴェ帝国の更新が早すぎるのだ。

 そんな中でもユーバシリーズは登場当初から最強にして最優だった。周囲のレガリアがどれほど新しくなろうと、ユーバシリーズにはアルヴェル王国の改造人間が敵う訳なかったしリーヴェ帝国の他のレガリアだってユーバシリーズの性能を追い越すことは終ぞなかった。


 ユーバ・アインスがリーヴェ帝国を脱してからそれなりの時間が経過したのだ、新しいレガリアが戦場に投入されていてもいい頃合いである。



「姉御、おい姉御!! 大丈夫か!?」



 エルドは急いで通信機器の受話器を手に取って、団長のレジーナに向かって呼びかける。


 距離がある影響か、それともレガリアに襲撃されたのだろうか。受話器はうんともすんとも言わなかった。

 通信機器に受話器を叩きつけて、エルドは「クソが!!」と悪態を吐く。動力炉を最大限まで稼働させて加速するが、果たして仲間たちの元に辿り着けるのはいつになることやら。



「【報告】傭兵団『黎明の咆哮』及びアルヴェル王国の輸送車の位置情報は、この先13キロだ」


「姉御は無事なンか? 他の連中は?」


「【回答】生体反応を確認。生存していることは間違いない」



 ユーバ・アインスは荒野をじっと見つめたまま、言葉を続けた。



「【懸念】ただ、おかしなことがある」


「おかしなこと?」


「【回答】傭兵団『黎明の咆哮』及びアルヴェル王国の輸送車を襲撃するように設定されたはずのレガリアだが、何故か並走しているだけだ。攻撃するような素振りは一切見せない」



 銀灰色の双眸を音もなく眇めたユーバ・アインスは、



「【疑問】奴は一体何が目的なのだろうな」



 ☆



 動力炉を最大限まで稼働させ、周囲に止める人間などいないから加速に加速を重ねて、ようやくエルドの視界に見慣れた四輪車の群れと輸送車の姿を確認できた。

 それと同時に、周囲には数体のレガリアが存在している。走行中の四輪車と輸送車を追いかける訳でも、襲撃している訳でもない。ただ並んで走っているだけなのだ。


 エルドは通信機器の受話器を手に取り、



「姉御!!」


『ッ、その声はエルドか!?』


「ジュディ・ワンは撃破した、一体どうなってやがる!?」


『分からん!!』



 通信機器から聞こえた団長のレジーナは、どこか焦っている様子だった。

 この状況であれば、いつ襲撃されてもおかしくないのだ。それなのに、相手のレガリアは焦らすように四輪車や輸送車に襲撃しない。遊んでいるにしては性格が悪すぎる。


 レジーナは『ユーバ・アインスはいるか!?』と叫び、



「【応答】当機はここに」


『あのレガリアの正体は分かるか!?』


「【回答】不明。おそらく、当機がリーヴェ帝国を脱してから開発されたレガリアだろう。性能など不明な部分は多い」



 エルドから受話器を受け取って淡々と報告するユーバ・アインスは、



「【回答】しかし、情報が不足していても当機は戦闘可能だ。【要求】戦闘の許可を」


『…………』



 ユーバ・アインスの要求に、レジーナは応じなかった。


 応じることが出来なかったのだ。

 今はアルヴェル王国の輸送車を護衛中である。アルヴェル王国にはユーバ・アインスがリーヴェ帝国を裏切った話をしていないので、ユーバ・アインスに交戦許可を出してしまうと混乱を招いてしまうことになる。最悪の場合、アルヴェル王国にユーバ・アインスを連れて行かれて終わりだ。


 なおも団長からの交戦許可を待つユーバ・アインスに、エルドは通信機器の受話器を毟り取る。



「アインス、行ってこい。アイツの足止めをすりゃコッチのモンだ」


『おい、エルド!?』


「足止めに成功すりゃいいんだろ、姉御」



 あの正体不明なレガリアから、傭兵団『黎明の咆哮』とアルヴェル王国の輸送車を引き剥がせば任務完了だ。あとはユーバ・アインスの独壇場である。

 多少の技術は必要になるだろうが、エルドや他の戦闘要員なら可能だ。相手は自立型魔導兵器レガリアなのだから痛覚など存在せず、敵を屠るということで罪悪感もない。


 エルドはギアをさらに変更して、動力炉の稼働率を限界まで高める。グンと四輪車が前に進み、重力が容赦なくエルドに襲いかかる。



「だったらァ!!」



 向かう先は四輪車の群れではない。

 四輪車を襲うのか襲わないのか不明な、正体すら分からないレガリアの群れだ。エルドのやるべきことが分かったのか、戦闘要員を乗せた四輪車が次々と加速して取り囲んだ状態で並走してくるレガリアに向かう。


 ハンドルを強めに握ったエルドは、



「轢き殺せばいいだろうが!!」



 めごぐしゃッ!! とレガリアが四輪車に撥ね飛ばされる。


 宙を舞う人型の魔導兵器。恨めしげな視線が寄越されたが知るか。

 地面に叩きつけられて腕や足がひしゃげるレガリアの前で四輪車を停止させ、エルドは離れていくレジーナの四輪車に向かって通信機器に告げる。



「逃げろ、姉御。出来ればアインスの奴が戦ってるのをバレない位置まで!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ