【第6話】
ジュディ・ワンの様相はおとぎ話に出てくる巨人のようだった。
全長50メートルの情報は伊達ではないのか、見上げなければ頭のてっぺんまで認識することが出来ない。全体的に毛むくじゃらで、腰蓑のみを着用した原始人じみた見た目の巨大レガリアは、チカチカと赤い2つの光を眼球の辺りで瞬かせている。
毛が密林地帯の如く生い茂った胸板が唐突に内側から開かれ、そこから爆弾が勢いよく飛び出てくる。よく見れば、胸から飛び出してきた爆弾の1つ1つはジュディ・ワンを小さくしたような姿をしていた。
純白の盾を掲げるユーバ・アインスは、
「【警告】その個体はジュディ・トゥだ。【説明】触れると爆発する自爆機能が搭載された量産型レガリアよりも使い捨てられる機体だが、威力はシリーズ名を冠するだけあって高い水準に設定されている」
「何でそんなものが巨人の体内に眠ってんだよ!?」
ユーバ・アインスの説明を受け、エルドは右腕の改造部分をガシャンと鳴らす。
ジュディ・ワンの胸板から飛び出してきた小さい人型爆弾――『ジュディシリーズ』が2号機、ジュディ・トゥは地面に叩きつけられた側から盛大に爆発して粉塵を巻き上げている。量産型レガリアに爆弾を搭載した機体は何度か見かけたが、あれと比べ物にならないほど威力は上昇している。シリーズ名を冠するレガリアは全体的に強い傾向にあるのだろうか。
遠距離系の改造を施された仲間たちが次々とジュディ・トゥを撃墜するが、数え切れないほど降り注ぐジュディ・トゥの群れに対応できなくなる時も近い。もはやレガリアではなく空飛ぶ爆弾の群れだ。
「おいエルド、ボケッとしてんじゃねえぞ!!」
「!!」
仲間内から叱責され、エルドは我に返る。数多のジュディ・トゥの群れに意識が彼方に向かいかけた。
弾かれたように顔を上げれば、目の前にはジュディ・トゥの姿が迫っていた。毛むくじゃらの巨人であるジュディ・ワンをそのまま小さくしたような見た目なので、髭面のおっさんが熱烈なキスを迫ってくるという悪夢みたいな光景を目の当たりにしてしまった。
エルドの行動はほぼ反射的だった。膨れ上がった右腕の戦闘用外装で拳を握りしめると、ジュディ・トゥの顔面めがけて巨大な拳を叩きつける。
「ゥオラ!!」
爆弾を真正面から殴りつけた。
さすがに首と胴体が離れるまでの威力ではなかったのか、殴られたジュディ・トゥは頬の部分を盛大に凹ませてすっ飛んでいく。砲弾よろしく打ち返されたジュディ・トゥは他の個体に衝突を果たし、周囲の仲間たちを巻き込んで連鎖的に爆発した。
一気にジュディ・トゥの存在が片付いた気がする。こんなことがあっていいのか。
巨大な右拳を突き出したままポカンとするエルドは、
「よしこれなら!!」
ジュディ・トゥを仲間めがけてぶん殴れば、連鎖的に爆発して片付けることが出来る。その分、命を削ることにはなるが、傭兵団『黎明の咆哮』の非戦闘員やアルヴェル王国の輸送車に到達しなければいい。
ほんの少しの油断も許されない。殴った瞬間に爆発すればそれまでだ。こんな危険な戦場など果たしていつ頃ぶりだろうか。
拳を握り直したエルドは、降り注ぐジュディ・トゥの群れを次々とぶん殴って処理しながら雄叫びを上げた。
「爆弾が何だってんだぁぁぁぁぁぁ!!」
☆
「爆弾が何だってんだぁぁぁぁぁぁ!!」
エルドの絶叫が聴覚機能を刺激する。
ジュディ・ワンにあらかじめ搭載されることを想定して設計された小型爆弾式レガリア――ジュディ・トゥをぶん殴って、他のジュディ・トゥにぶつけて連鎖的に爆発させて大量に処理をしている。他の傭兵たちもエルドの戦い方を採用し、近接系の改造を施された傭兵はそのような戦法を選択していた。
危険に見えて、実はあれが最も効率の良い戦い方である。無数に降り注ぐ爆弾ならば、他の機体と一緒に爆発させて片付けてしまえばいい。その結論に至るとは、傭兵として長いこと戦場を生き抜いてきただけある。
ユーバ・アインスはジュディ・トゥを順調に処理するエルドを眺め、
「【奮起】当機もジュディ・ワンとの戦闘を開始しなければ」
――【了解】戦闘予測は完了しております。
「【感謝】戦闘予測通りに動こう。【要求】3秒ごとに戦術の更新、相手の動きを計算して最速での戦闘終了を」
――【了解】命令を更新、戦術の更新時間を5秒から3秒に変更。計算を開始します。
搭載された人工知能が導き出した星の数ほど存在する戦闘予測から、最適解が弾き出される。
ユーバ・アインスは1歩を踏み出した。
見上げるほど巨大なレガリア――ジュディ・ワン。広域を探査する為に設計された自立型魔導兵器レガリアだが、まさかこんなところに放置されているとは想定外である。もしかしたら、この位置ならレノア要塞まで見渡せるのかもしれない。
降り注ぐジュディ・トゥめがけて純白の盾を突き出すと、
「【展開】一方通行」
ジュディ・トゥが純白の盾に触れるとほぼ同時、ユーバ・アインスの兵装が展開される。
純白の盾に触れたはずのジュディ・トゥがそのまま弾き返され、開かれたままになっているジュディ・ワンの胸板の兵装に飛び込んだ。細かな部品が集まっているのか、ジュディ・ワンの胸板から小さな部品の数々が爆発によって吹き飛んでいく。
兵装『一方通行』は、兵装『絶対防御』と同一視される傾向がある。この兵装はただ守るだけではなく、受けた攻撃をそのまま打ち返すユーバ・アインスを代表する兵装の1つだ。
胸部兵装からぷすぷすと黒煙を噴き出すジュディ・ワンは、
「【警告】胸部兵装に攻撃。出力低下」
やはりジュディ・ワンの弱点は胸部兵装にあるか。
以前、弟妹機が無謀にもジュディ・ワンに喧嘩を売って「負けた!!」と馬鹿みたいに騒いでいた。突出した防御力は、最強と名高いユーバシリーズの攻撃も無効化する様子だった。
今後、暴走した時に対処するのは自分たちかもしれない。その時は弟妹機に処理をさせずに自分が引き受けるべく、ジュディ・ワンの設計図を盗み見ておいたのだ。
今になって、その盗み見た設計図の情報が役立つとは思わなかった。
「【展開】重機関砲」
ユーバ・アインスの手から純白の盾が消失する。
白い粒子に変換され、次に手の中へ生まれたのは巨大な重機関砲だ。8つの銃口を束ねた重機関砲をジュディ・ワンに突きつけ、人工知能に従って狙いを定める。
その時だ。
――【警告】ジュディ・トゥの接近を検知。
「!?」
認識できる範囲にジュディ・トゥの存在はない。
そのはずなのに、どうしてジュディ・トゥの存在を検知できるのか。あれほ地面に触れた途端に爆発する代物ではないのか?
ユーバ・アインスは足元を見やる。
爆発によってボコボコに凹んだ地面。荒れ果てた大地に転がる小人を模した危険なレガリア。
小さな手をユーバ・アインスに伸ばして歩いてくるのは、不発によって地面に叩きつけられるだけとなったジュディ・トゥだ。人工知能が検知したのはこの機体か。
「近づいてんじゃねえぞオラァ!!」
ユーバ・アインスめがけて進撃していたジュディ・トゥが、真横から伸びた巨大な手のひらに掬い上げられる。
ジタバタと暴れるのも束の間、ジュディ・トゥはエルドの手によって遠くに投げ飛ばされてしまった。
放物線を描くジュディ・トゥ。その先にいたのは他のジュディ・トゥで、勢いよく衝突すると周囲に散った他の機体を巻き込んで爆発した。
エルドはユーバ・アインスへ振り返らずに、
「アインス、やれ!!」
「【了解】その命令を受諾する」
ユーバ・アインスは白い重機関砲を構え直し、照準を修正する。
誤差の範囲は最小に、威力は最大に。
確実に相手を屠る攻撃を。
「【惜別】さようなら、ジュディ・ワン。貴殿に何の恨みもないが」
――今ここで、当機の為に壊れてくれ。
その声は、連なる重機関砲の銃声によって掻き消された。
雨霰のようにジュディ・ワンの胸板の兵装に、重機関砲が生み出す弾丸が襲いかかる。部品が飛び散り、紫電が弾け、盛大に爆発したその機能を停止させる。
それと同時にジュディ・ワンの心臓も射止めたのか、巨人の瞳から赤い光が消える。その巨体は斃れることなく、直立不動のまま機能を停止していた。
「【報告】対象の沈黙を確認。【状況終了】」
物言わぬ巨人を見上げ、ユーバ・アインスは戦闘終了を報告した。




