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Regalia  作者: 山下愁
第2章:驕れる兵器に叛逆を
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【第9話】

「子供が3人、老人が5人っと」



 レストン王国から脱走してきた人質たちの怪我の有無や消耗具合などを確認し、エルドは「よし」と頷く。

 見たところ怪我はなさそうだし、3人の子供たちは疲れているように見えるが特に問題はなさそうだ。エルドの改造された右腕が珍しいのか、大きな瞳をキラキラと輝かせている。


 本当なら構ってやりたいところだが、今は仕事中だ。「危ねえから触るなよ」とやんわり子供たちが手を伸ばしてこないように注意を促してやり、エルドは型落ちの魔導兵器を手にした5人の青年たちへ視線をやる。



「ここまでよく逃げてこれたな」


「大人たちが逃がしてくれたんだ」



 青年たちはボロボロになった魔導兵器を抱えて、



「まだレストン王国には人質が残ってる」


「子供らの両親が捕まっていたりするんだ」


「早く助けてやってくれ」


「レガリアの奴らに殺されちまう!!」


「分かったから落ち着け。他の人質は絶対に助けてやるから」



 周りを敵兵に取り囲まれ、さらにいつ殺されるか分からない状況に何日も置かれていたのであれば精神的にも切羽詰まっていると言っていいだろう。詰め寄ってくる青年たちを宥め、エルドは自分が進んできた方角を見やる。

 通信兵装とやらが問題なく起動していれば、外にエルドの仲間たちが待っていてくれるはずだ。それまでは彼らを動かすことが出来ない。こんな状態で無防備に外へ放り出そうものなら、すぐさま自立型魔導兵器『レガリア』の餌食になってしまう。


 何してんだと胸中で悪態を吐けば、エルドの背中に光学迷彩で姿を隠すユーバ・アインスが文字を書く。



 ――【報告】目標地点に団長率いる救援隊が到着。保護の用意が出来ていると連絡有り。【提案】人質たちの移動。



 随分とお早い到着だが、エルドとユーバ・アインスも動かなければ怒られそうな予感がある。



「よしテメェら、外にウチの傭兵団が待機しているから保護してもらえ。すぐにアルヴェル王国まで連れて行ってくれる」


「おとーさんとおかーさんは?」



 逃げてきた3人の子供のうち、1人がエルドを見上げて甲高い声で問いかける。



「おとーさんとおかーさんもいるの。すぐにくるかな?」


「おう、絶対に助けてやるからいい子で待ってろ」


「うん」



 しっかり頷いた子供の小さな頭を撫でてやり、エルドは青年たちへ出口の方向を示した。黙って頷いた青年たちは、それまで自分たちが守ってきた子供と老人たちを率いて、出口方面へと向かう。

 外でレジーナ率いる傭兵団が到着しているのであれば問題はないだろう。彼女も優秀な改造人間だし、傭兵団『黎明の咆哮』に属する傭兵たちは誰も彼も強い。これだけ長い戦争を生き残ってきたのだ。簡単に負ける訳がない。


 遠ざかっていく脱走した人質たちを見送って、エルドは暗闇に呼びかける。



「おい、もう光学迷彩を解いていいぞ」


「【了解】その命令を受諾する」



 展開中だった兵装を解除し、全身真っ白なレガリア――ユーバ・アインスが姿を見せる。



「レストン王国内の人質の居場所は分かるか?」


「【回答】レストン王国内の大教会に閉じ込められている模様。人質の数は58名」


「58人か……多いな」



 エルドの表情が厳しくなる。


 58人ともなれば、一斉に逃げれば怪しまれることは確実だ。いいや、すでに13人も逃げ出しているのだからレガリアに気づかれない訳がない。

 揺動部隊で大勢の傭兵がレストン王国めがけて攻撃をしているが、果たして彼ら全員を無傷で助け出すことが出来るだろうか。しかもエルドとユーバ・アインスの1人と1機で。


 エルドの不安を察知したのか、ユーバ・アインスが肩を叩いてくる。



「【宣言】エルド、当機がいる」


「アインス……」


「【補足】当機は自立型魔導兵器レガリアでも最優を謳うユーバシリーズの初号機だ。人質を無傷で救出する任務など造作もない」



 銀灰色の双眸でエルドを見据えるユーバ・アインスは、



「【激励】だからエルド、貴殿はここで諦めてはいけない。当機がいるのだから貴殿には何も問題はない」


「そうだな」



 それまでの厳しい表情を消し去り、エルドは暗闇の向こう側を睨みつける。

 遠くから聞こえる銃声や砲声は未だに止まず、なおもレストン王国を攻撃し続けている。早めに救出をしなければ、人質が見せしめとして殺されそうだ。


 エルドは膨れ上がった右腕をガシャンと鳴らし、



「行くぞ」


「【了解】その命令を受諾する」



 暗闇の先で助けを待つ人質たちの救出の為、エルドは純白のレガリアを伴ってレストン王国内に足を踏み入れる。



 ☆



 用水路の先は瓦礫で塞がれていたので、殴って侵入することにした。



「ゥオラ!!」



 裂帛の気合いと共に引き絞られたエルドの右拳が用水路を塞ぐ瓦礫に叩きつけられ、粉微塵に破壊する。

 あれは必要なものだったのか、それともリーヴェ帝国側が敵の侵入を阻む為にやったものなのか分からない。ただ壊してしまったので直す必要がある場合はレジーナに土下座をしなければならない。


 右拳の調子を確かめるエルドは、



「よし調子がいいな」


「【報告】先程の攻撃で近隣を巡回していたレガリア3機が当機たちの侵入に勘付いた。【提案】応戦」


「言われなくても分かってらァ!!」



 エルドは右腕の手のひらを大きく広げて、盾の如く前に突き出す。

 手のひらにギガガガガガガガガッ!! と衝撃が立て続けに起こった。近くを巡回していた量産型レガリアが、腕に搭載された機関銃をエルドとユーバ・アインスに向かってぶっ放していたのだ。


 特殊な弾薬でもないし、たとえ特殊な弾薬だったとしてもエルドの右拳の前では無意味だ。それに、エルドには強い味方がいる。



「アインス!! アイツらをやれ!!」


「【了解】任務を開始」



 機関銃の弾丸を受け止めるエルドの脇をすり抜けたユーバ・アインスは、一瞬にして相手との距離を詰めると量産型レガリアの胸部を手刀で貫いた。

 鉄板で作られたはずの量産型レガリアの胸がユーバ・アインスの腕に貫かれ、糸が切れた人形のように力を失う。つるりとした頭部に浮かぶ赤い光がプツリと消え、ただの鉄屑と化した。


 すぐさま別の機体が反応するが、相手がユーバ・アインスと認識するとほんの僅かに怯むようだ。心があるとすれば「何故、最強の機体と謳われたユーバシリーズがここに?」だろうか?



「【推奨】当機を前にしたのであれば、油断をしないように戦術を組み直すことだ。【進言】人工知能の改良をした方がいい」



 胸を貫かれて動かなくなったレガリアを反応した別のレガリアに向かって叩きつけたかと思えば、すでに動かなくなったレガリアごと蹴飛ばす。

 ユーバ・アインスの強烈な回し蹴りが2機のレガリアをまとめて薙ぎ払い、近くにあった建物の壁をぶち破った。壁の瓦礫からレガリアのひん曲がった足が垣間見え、ピクリとも動かないのでもう壊れてしまったか。


 最後の1機となったレガリアは「【推奨】退避、退避、退避」と自分自身に敵前逃亡を促すが、



「隙が出来た時点でテメェの終わりだ!!」



 逃亡を目論むレガリアの前に躍り出たエルドは、渾身の力でレガリアをぶん殴った。


 殴られたレガリアは大きく吹き飛び、綺麗な放物線を描いて建物の屋根に落ちる。ぐわっしゃーん!! というやたら大きな金属音が耳朶に触れた。

 あれだけ盛大に叩きつけられれば、さしものレガリアだったとしても無事では済まない。エルドの渾身の力を受けてもなお無事でいるのは、よほど優秀なレガリアぐらいだろうか。それこそユーバ・アインスの弟妹機とか。



「【報告】周辺を巡回するレガリアが反応した。こちらに向かってくる」


「人質救出が優先だ!!」


「【了解】命令受諾により、戦術の変更を開始。【設定】第1目標は人質の救出。此れを最優先とする」



 やたら揃った雰囲気の足音を聞きながら、エルドは人質の待つ大教会とやらに向かうのだった。

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