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Regalia  作者: 山下愁
第2章:驕れる兵器に叛逆を
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【第7話】

「【報告】索敵範囲内に多数の武装勢力の存在を確認。【推奨】対軍兵装による早急な殲滅」


「んあ?」



 変わり映えのしない荒野を延々と四輪車で走っていたが、唐突に助手席のユーバ・アインスがそんなことを言い出した。


 横目に彼を見やれば、ユーバ・アインスの銀灰色の双眸は正面を見据えたまま微動だにしない。声の調子から判断してユーバ・アインスは本気で撃破を推奨しているのだろう。

 自立型魔導兵器『レガリア』――その最優にして最強と名高いユーバシリーズの初号機が味方になってから、傭兵団『黎明の咆哮』以外の存在は必要ないと判断しているのだろう。まあ商売敵は少ない方がいいのだが、情報収集などがあるので排除するのは惜しい。


 エルドは通信装置の受話器を手に取った。運転用の兵装を使用しているので、運転中でも問題なく動くのはありがたい。



「姉御、アインスの奴がオルヴランを認識したぞ」


『距離はどれぐらいだ?』



 通信装置から聞こえてきたレジーナの質問に、ユーバ・アインスがエルドから受話器を受け取って回答する。



「【回答】距離およそ30キロ前後。兵力はおよそ1万強」


『それはアルヴェル王国側に所属する傭兵たちだな。予想以上に集まっているか』



 レジーナが通信装置の向こうでガチャガチャと何かを弄る。おそらく通信装置の通信可能範囲を広げたのだろう、彼女の声がやたら雑な感じで流れてきた。



『我らが同胞に告げる。もうすぐオルヴランの町だ。到着次第、作戦会議に入る』



 作戦会議を経て、レストン王国奪還作戦が執り行われる。

 1万強の兵力があれば、奪還作戦も成功することは間違いない。あとは誰が敵将を討ち取るかという部分が問題だが、それはエルドがいただく予定だ。ついでに本国から支払われる特別報奨も給料へ上乗せしてもらおう。


 エルドはハンドルを握る手に力を込め、



「特別報奨は絶対に手に入れてやらァな」


「【了解】エルドがそう言うのであれば、当機は貴殿の補佐をしよう」


「何言ってんだ、テメェも特別報奨を目指すんだよ」


「【回答】当機がレストン王国奪還に動けば30分43秒での任務を達成する。【結論】面白みがないので、今回はエルドの補佐に回った方がいい」


「レガリアでも『面白みがない』って言うんだな」



 人間らしい感情を露わにするユーバ・アインスにエルドは「まあいいか」と呟く。

 ユーバ・アインスにある最優先任務はレストン王国の奪還ではなく、弟妹機である他のユーバシリーズの撃破とリーヴェ帝国の壊滅だ。それは秘匿任務として設定されているので、傭兵団『黎明の咆哮』に所属する傭兵たちはおろか団長のレジーナさえ知らないのだ。


 最優にして最強と名高いレガリアが自ら「補佐に回る」と申し出てくれたのだ。これを有効活用する他はない。



「じゃあ頼むわ」


「【了解】その任務を受諾する」


『おい、エルド。そのやり取りは狡いだろう』


「姉御、コイツの責任は俺が取るって言ったんで」


『だからって補佐を独り占めするんじゃないエルド!! お前に特別報奨が支払われることがないように取り計らってやる!!』


「アインス、姉御の四輪車を背後から撃ち抜けねえかな」


「【回答】通常兵装で任務遂行可能だ。【提案】出力3%未満に押さえればちょっと脅す程度の威力で済む」


『待って私が悪かった』



 あからさまに慌てふためく団長に、エルドは笑いが止まらなくなった。常に冷静沈着な印象を与える彼女でも、見たことのない慌て方だった。



 ☆



 オルヴランはレストン王国の近郊にある町で、背の低い建物が密集した地域である。


 人口もそこそこいたのだが、リーヴェ帝国がレストン王国を占拠したことでオルヴランに住んでいた一般人はアルヴェル王国まで避難した。現在ではレストン王国奪還の為にアルヴェル王国側に所属する傭兵団たちが拠点として使用しており、オルヴランの周辺には大小様々な四輪車が停まっている。

 大規模な奪還作戦が執り行われるということもあり、他の傭兵団も積極的に情報交換と作戦のすり合わせをしている最中だった。団長のレジーナも作戦の概要を他の傭兵団から聞き入れ、何故だか難しげな表情で待機中のエルドたちのところへ戻ってくる。



「問題が発生した」


「問題ィ?」



 非戦闘員の子供から水筒を受け取ったエルドが、神妙な面持ちで戻ってきたレジーナに聞き返す。



「奪還作戦だが、どうやら難航しているらしい」


「難航って言っても、奪還するだけだろ。リーヴェ帝国が不法占拠してるんだから、他の傭兵団と協力して正面から叩けばいいじゃねえか」


「レストン王国内にリーヴェ帝国が人質をとっているらしい」



 レジーナの言葉に、エルドは何も返せなくなった。


 リーヴェ帝国謹製の自立型魔導兵器『レガリア』は、人質を取るほど人間らしい思考回路を有しているのだろうか。もしくはリーヴェ帝国側から生きた兵士が投入されのか?

 どちらにせよ、リーヴェ帝国がレストン王国で人質を取っているのであれば簡単に動けない。レジーナが神妙な顔をしていた理由も頷ける。



「現在、作戦司令部で人質の解放作戦も同時進行で立てているようだが、作戦内容がまとまるのは果たしていつになることやら……」


「マジかよ……」



 口に含んだ温い水を吐き出しそうになってしまったエルド。


 臨時の作戦が果たしていつまとまるのか分かったものではない。それまで待機を命じられていれば、他の戦線はどうなるだろうか?

 無駄にこのオルヴランで時間を潰す訳にもいかない。もし仮に人質解放作戦とレストン王国奪還作戦が成功したところで、他の領土がリーヴェ帝国に占拠されていたら元も子もない。


 レジーナは青みがかった黒髪を左右に揺らして、



「これ以上、ここで時間を潰す訳にはいかん。他の戦線にて報奨金を稼ぐ方針で」


「【報告】レガリアの警備が手薄な箇所が、レストン王国の裏手側にある」


「何だと?」



 レジーナの緑色の瞳が、襤褸布を頭から被った純白のレガリアに注がれる。


 傭兵団『黎明の咆哮』で受け入れるとは言ったが、他の傭兵団はユーバ・アインスがアルヴェル王国側に寝返ったことを知らない。ユーバ・アインスの情報を完全に伏せる為の手段として、人目のある場所では襤褸布ぼろぬのを被って過ごしてもらうことにしたのだ。

 襤褸布を被ったユーバ・アインスの瞳が、レストン王国がある方向に投げかけられている。彼の高性能な索敵技術が、敵と認識されたレストン王国を不法に占拠するレガリアを割り出したのだ。



「【提案】大多数の傭兵でレストン王国の正面から威嚇攻撃を、その隙に少人数で裏手側からレストン王国への潜入」


「それで、人質を無傷で助けられる可能性は?」


「【補足】当機とエルド、それと『黎明の咆哮』から何名かの傭兵を選出してくれれば無傷での救出確率は100%だ」



 言い切りやがった、このレガリア。しかもしれっとエルドまで巻き込んでいる。


 嘘偽りのない堂々とした報告内容に、レジーナは「よし」と頷いた。

 何が「よし」なのだろうか。それは間違いなくエルドへ危険な道を選択させるものだった。レストン王国へ潜入なんて、それは主要部隊と同義ではないか。



「ではその作戦を提案してくる」


「え、通るんですかィ姉御」


「我が団が提案した作戦だ、通してみせるさ」



 レジーナは数名の戦闘要員を引き連れて、作戦司令部に向かってしまった。これは主要部隊で働くことが確定してしまった瞬間である。


 エルドは深々とため息を吐き、容赦なく巻き込んできた純白のレガリアへ視線をやる。

 レストン王国のある方角から視線を逸らさないユーバ・アインスは「【報告】索敵範囲内に弟妹機の存在なし。【開始】レストン王国を占拠するレガリアの特定」などと少しばかり忙しそうだ。レガリアの種類まで割り当てることが出来るのか。



「おい、アインス。この作戦で俺が死んだらどうするんだよ、面倒な作戦に巻き込みやがって」


「【回答】問題ない」



 ユーバ・アインスはエルドへと振り返り、



「【断言】当機は貴殿を死なせない」



 そう言って、口の端を持ち上げて笑ったのだ。

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