表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Regalia  作者: 山下愁
幕引き:それからの未来へ
126/127

終章:【警告】この記録は削除できません

 波の音がする。



「【報告】エルド、飲み物を購入した」


「お、悪いな」



 ユーバ・アインスが差し出してきた瓶にはしゅわしゅわと泡立つ飲み物が並々と満たされており、すでに栓も抜かれた状態である。

 よく見ればラベルには酒の類であることが示されており、酒精アルコールも何%と記載がある。しかもなかなか度数の高い酒だ。見た目はジュースと大差ないのに、騙されて瓶ごと呷れば酔っ払いそうである。


 エルドは飲み物を購入してきたユーバ・アインスを見やり、



「わざとか?」


「【疑問】何がだ?」


「いやこれ瓶の中身を丸ごと飲むと酔っ払うぐらいに度数が高いぞ」


「【納得】なるほど、そうか」



 ユーバ・アインスはどこか納得したように頷き、



「【回答】そこの売店で購入したのだが、やたらその場で飲むことを勧められた。当機は飲酒に適した身体構造を有していないので飲めないのだが」


「そうだな、テメェは見た目だけなら美人な男だもんな。ワンナイトを狙ったんだろうよ」



 エルドはユーバ・アインスが飲み物を購入したという売店を見やる。


 小さな木造建築の小屋には雑貨が並べられ、手作り感満載の看板を掲げている。小屋の窓を開け放って会計台の代わりとしており、そこから日に焼けた浅黒い肌を持つ髭もじゃの男が慌てた様子で顔を引っ込めた。

 予想だが、エルドの存在を忘れていたのだろう。ユーバ・アインスがただお使いで飲み物を購入しにきたのだから、その場で飲ませて酔っ払ったところを美味しくいただく算段だったか。残念ながらユーバ・アインスは飲酒できるような身体の構造をしていないので、その目論みは外れることになるのだが。


 瓶の中身に口をつけるエルドは、



「アインス、運転を頼む」


「【了解】その命令に従おう」



 静かに頷いたユーバ・アインスは四輪車の運転席に乗り込み、慣れた手つきで動力炉を起動させる。運転する姿も板についてきた模様だ。

 最初の頃は運転をさせても平気だろうかと悩んだものだが、慣れた現在では快適極まりない。このままだと確実にダメ人間の道を爆進する羽目になるのだが、まあもう戦争も終わったことだしいいだろう。


 エルドが助手席に乗り込むと、



『おいエルド、今どこに』


「聞こえない」



 四輪車の通信装置が起動して、聞き慣れた女性の声が耳朶に触れた。


 エルドは迷いなく通信装置の電源を落とすと、そのまま何事もなかったかのように酒を傾け始めた。その点についてユーバ・アインスが咎めることはない。

 何故なら彼も分かっているのだ。戦争はもう終了し、リーヴェ帝国はアルヴェル王国に従うこととなった。エルドが命を削って戦場を駆け回る必要がない時代になりつつある。


 それに、今は新婚旅行中だ。水を差さないでほしいものである。



「姉御もしつこいな、新婚旅行中なんだからほっとけよ」


「【回答】エルドはアルヴェル王国の英雄だ。英雄が不在だと示しがつかないのだろう」


「英雄って祭り上げられる存在じゃねえっての」



 助手席の背もたれに身体を預け、南国特有の木々が並ぶ道をぼんやりと眺めるエルド。


 南の方面には来たことがなかったし、海も初めて見た。これほど穏やかな気候だから最高の気分である。

 敵兵である自立型魔導兵器『レガリア』もアルヴェル王国が接収することになり、現在では介護や教育に活用されているらしい。量産型レガリアはユーバシリーズの4号機の配下に置かれ、工事現場など重労働を必要とする仕事に取り組んでいるとかいないとか。


 この辺りの情報は定期的に2号機と3号機と7号機が教えてくれるので、時代に乗り遅れることはない。彼らもアルヴェル王国側でイキイキと生活しているようだ。



「南側に行くならどこかで土産を見ていかねえとな、フュンフの奴にどやされる」


「【回答】常から南側に行ってみたいと駄々を捏ねていたからな。どこかでいいものがあれば」



 四輪車を走らせて5分もしないうちに、ユーバ・アインスが四輪車を停止させてしまった。


 故障かと思えば、違う。ユーバ・アインスの視線は道の先を睨みつけている。

 熱気を受けて揺らぐ道の先に、黒い何かが覚束ない足取りで歩いていた。両腕に括り付けられた重機関砲は引き摺られた影響で傷だらけになっており、つるりとした頭部でチカチカと明滅する赤い光が不気味である。


 エルドは中身がまだ半分以上残ったままの瓶を安全な場所に立てかけると、



「まだいるのかよ、残党が」


「【報告】残党数、およそ15機。問題ない」


「俺もやるわ、身体が鈍ってきちまうからな」



 エルドは助手席を降りると、後部座席の扉を開く。

 引っ張り出したのは右腕に取り付ける為の戦闘用外装である。慣れたように右腕へ嵌め込むと、ようやく出番かと言わんばかりにぷしゅーと蒸気が噴き出た。


 感覚を確かめていると、運転席からユーバ・アインスも降りてくる。銀灰色の双眸を真っ直ぐに量産型レガリアへ突き刺すと、純白の盾を構えた。



「行くぞ、アインス!!」


「【状況開始】戦闘を開始する」





 人間と機械が共存する世の中になった今、その象徴とも呼べる改造人間と自立型魔導兵器『レガリア』の夫婦の旅はどこまでも続いていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ