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Regalia  作者: 山下愁
第12章:黎明に勝利の咆哮を
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【第9話】

 展開中の兵装『白壁天幕ドーム』を通じて、強い衝撃が伝わってきた。



 ――【警告】強い衝撃を感知。


 ――【報告】残存魔力最低ラインに到達しました。外部から魔力を補給するまで、自動回復機構を停止いたします。


 ――【警告】兵装展開の出力が低下。並列展開は魔力の大幅な消費に繋がります。【提案】並列展開の解除。



 頭部に搭載された人工知能が、淡々とした口調でユーバ・アインスに現実を突きつける。


 爆発の衝撃で兵装を展開する為に使用していた魔力が、とうとう残存魔力最低ラインに到達してしまった。並列展開をすれば魔力の消費量は2倍に跳ね上がるので、すぐに活動限界が訪れてしまう。

 ここで防衛できなければ、弟妹機や相棒もろとも爆死を回避できない。残存魔力最低ラインを突破しようと、強固な防衛兵装の展開を止めるという選択肢は取らなかった。


 しかし、純白の盾を構えるユーバ・アインスに、さらなる衝撃が襲いかかる。



「――――ああああああああああああああああああああ!!!!」


「わあああああああああああああああああああああああ!!!!」



 ユーバ・アインスの展開する『白壁天幕ドーム』の向こうから、ひび割れた音声による大絶叫が聴覚機能を刺激した。


 直後に衝撃を受ける。

 部屋が爆発した時と同じような雰囲気の爆破だ。連続した爆破の衝撃を受け止めるたびにユーバ・アインスの魔力が削られていく。



「【報告】お兄様、ユーバ・アハトによる自爆特攻です」


「【回答】複製の方がまだ残っていたか」



 7号機のユーバ・ズィーベンの報告を受け、ユーバ・アインスは絶叫の正体に納得する。


 この場で逃す訳にはいかないのだろう。どのみちリーヴェ帝国の敗北は確定的なものとなっているのだから、せめてアルヴェル王国の勝利に貢献した英雄たちをこの場で屠って敗北を認めない気だ。

 往生際の悪い連中――いいや、魔導兵器である。最初から性格の悪い生意気な機体だとは認識していたが、ここまで負けを認めないのはいっそ清々しい。



 ――【警告】保有魔力が5%を下回りました。【推奨】外部からの魔力補給。


 ――【警告】兵装の並列展開は危険です。



 頭部の人工知能がなおも警告を促す。


 そんなことは分かっている、だがここで防衛機構を解除する訳にはいかない。

 ユーバ・アインスの後ろには弟妹機がいる。何より、命を懸けて守りたいと願った相棒のエルドがいる。絶対に彼らを失いたくない。


 だが、複数のユーバ・アハトによる自爆特攻は未だに続いている。このままユーバ・アハトによる爆発攻撃を受け止め続けるとなれば、ユーバ・アインスの魔力が先に尽きる可能性が高い。



「ッ」


「アインス!?」



 ユーバ・アインスの右膝から力が抜ける。


 保有魔力を5%まで下回った影響か、身体機能にもとうとう影響が出てきてしまったようだ。身体のあちこちの出力が低下しているという事実が、数字でユーバ・アインスの視覚機能の隅に表示される。

 活動限界に到達するまで残り時間も僅かだ。ユーバ・アハトの自爆特攻がどれほど続くのか、人工知能も計算できないのだろう。先程から自爆特攻が終わるまでの時間を報告してくれない。


 エルドの大きな右手がユーバ・アインスの背中を支え、



「おいアインス、もう止めろ!! テメェの活動限界が」


「【拒否】その命令を拒否する」


「何でだよ!!」



 涙声で、エルドは叫ぶ。



「テメェが傷ついてまで、守ることはねえだろ!!」


「【回答】これは当機の意思だ」



 純白の盾を持つ手にさえ力が入らなくなり、指先から滑り落ちて耳障りな音を奏でる。

 かろうじて兵装の展開は続いているものの、ユーバ・アハトによる爆破の衝撃は未だに続く。何度も何度も警告音が頭の中に響き渡り、その度に兵装の並列展開を止めるように促してきた。


 それでも止めないのは、ユーバ・アインスにも守りたいものがあるからだ。



「【回答】当機は貴殿を守る。死なせないと決めた」



 ユーバ・アインスは足元に転がる純白の盾を拾い上げ、出力が低下して力の入らない指先で盾を握りしめる。



「――だからたとえ活動限界を迎えようと、守ってみせる」



 次の瞬間だ。



 ――【警告】保有魔力が1%を下回りました。


 ――【報告】兵装の展開を強制的に終了いたします。



 展開されていた兵装が、唐突に終わりを告げる。


 ユーバ・アインスたちを守っていた純白の天幕が弾け飛び、絶対の防御力を誇る兵装すら消えてなくなる。その先で待ち受けていたのは、身体を半壊させながらもなお突撃をしてくるユーバ・アハトたちの群れだった。

 幸いなことは、全機揃ってユーバ・アインスの構える盾めがけて突撃をしてくることだろうか。エルドや、弟妹機たちにユーバ・アハトの被害が届くことはなさそうだ。


 ユーバ・アインスはボロボロのユーバ・アハトたちを見据え、



「【要求】機体保有魔力を兵装に回せ」



 すでに、兵装の準備は完了していた。


 兵装の並列展開を中止するように人工知能が警告音を発していたのも、おそらくこの為である。

 爆発程度を受けても魔力の消費は大幅に削れないが、魔力の消費が異常に早かったのは兵装の展開準備に割かれていたことが原因だ。3種類の並走を同時に展開していたので、準備に遅延が生じてしまった。



 ――【報告】特殊戦闘用兵装『1-001』の展開準備が完了いたしました。


 ――【提案】突撃してくるユーバシリーズ8号機に目標を設定します。


 ――【報告】計算を開始いたします。



 亡霊のように成り果てたユーバ・アハトたちが迫る。


 まだ計算が完了していない。先頭の1機が想定よりも早くユーバ・アインスに触れそうだった。

 その小さく、そして傷つける意思を持って伸ばされたユーバ・アハトの腕が真後ろから伸びてきた巨大な拳がぶん殴られた。顔面を殴り飛ばされたユーバ・アハトの1機は後方に吹き飛ばされていく。


 左手でユーバ・アインスの背中を支えていたエルドは、



「いけ、アインス!!」


「【了解】その命令を受諾する」



 人工知能が計算終了を報告してくる。


 計算に使用したのは部屋の爆発、そしてユーバ・アハトの自爆特攻だ。

 あれだけ爆発を受ければ威力、範囲、その他諸々の計算はほぼ一瞬で終わらせることが出来た。その衝撃を上限値である100倍に設定する。


 兵装展開。



「【展開】戦国無双ツァイヘンベルーグ



 ユーバ・アハトの1機がユーバ・アインスの構える純白の盾に触れようとしたその時、爆破の衝撃を元に計算された衝撃が100倍の威力となって反射される。


 見えない衝撃波を受けて、ユーバ・アハトの群れがまとめて後方へ盛大に吹き飛ばされた。視覚で認識できる範囲からユーバ・アハトは1機残らず消え去り、壁や天井を構成していただろう機械の残骸たちもまとめてその場から吹き飛ばす。

 視界が開けているのは、鉄塔の壁や天井がないからだ。紺碧の空に明るみが差し込み、東から朝日が垣間見える。黎明を告げる明空に、吹き飛ばされたユーバ・アハトたちが爆発して粉々に砕け散った。


 兵装展開が終了すると同時に、ユーバ・アインスの全身から力が抜ける。エルドが何かを叫んでいるが、もう視覚機能が正常に働かず徐々に暗くなっていく。



「おいアインス、おい!!」


「【提案】エルド義兄さん、兄さんを安全な場所へ移動させましょう。【推測】魔力切れによる活動限界だと思います」


「【報告】早急な魔力補給が必要になります。外部から魔力を補給しましょう、エルドお義兄様」



 エルドと弟妹機が騒ぐ声が遠くなる。

 暗くなる視界で最後に認識できたのは、朝日に煌めく相棒の金色の髪だった。



 ――【報告】活動限界に到達。外部から魔力を供給されるまで休眠状態に移行します。



 ぷつん。

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