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Regalia  作者: 山下愁
第12章:黎明に勝利の咆哮を
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【第8話】

 その瞬間を、エルドは誰よりも間近で目撃した。



「【展開】巨神鉄拳ギガント



 淡々とした言葉と同時に、ユーバ・アインスの兵装がついに完成を果たす。


 それは巨大な白い拳だった。

 エルドの右腕の戦闘用外装を模倣して構築された『剛神鉄拳デストロイ』――それに改造を施して新たに出力が上がった兵装だ。ユーバ・アハトの閉じ込められた培養槽ぐらいなら簡単に押し潰せそうなほど大きい。


 空中を軽々と舞うユーバ・アインスは、完成した新たなる兵装『巨神鉄拳ギガント』を引き絞る。右腕の動きに合わせて引かれた巨大な拳は、迷いなく培養槽めがけて突き出された。



「あ」



 緑色の液体で満たされた培養槽から、真っ白い巨大な拳を見上げたユーバ・アハトがポツリと呟く。


 次の瞬間、巨大な拳がグシャリとユーバ・アハトを閉じ込めた培養槽を殴り潰した。

 蓋から展開されていたユーバ・アハトの兵装ごと押し潰されることになり、強度の高かった硝子製の筒も粉砕されて周辺に飛び散る。緑色の液体が床全体を侵食していき、肝心のユーバ・アハト本体は培養槽の蓋に押し潰されて姿が見えない。きっと碌な死に方はしていない。


 空中で器用に体勢を変えるユーバ・アインスは、



「【要求】エルド、受け止めてくれ」


「はッ!?」



 唐突な要求に、エルドは目を剥いて驚く。


 もう終わったことだし、天高く放り投げてしまったとはいえユーバ・アインスだって落下に備えた兵装ぐらいは展開できるはずだ。それなのに何故この時になってエルドに「受け止めてほしい」と要求してくるのか。

 ユーバ・アインスと床が正面衝突を果たすまで、残り僅かである。このまま放っておけば確実にユーバ・アインスは落下の衝撃で床でも突き破る可能性が非常に高い。


 エルドは慌てて両腕を広げて、



「ッとお!?」


「【感謝】助かった、エルド」



 落下してきたユーバ・アインスを受け止めてやる。

 ほとんど右腕の戦闘用外装に頼ることとなってしまった受け止め方だが、自立型魔導兵器『レガリア』は総じて重量がかなりあるので右腕の戦闘用外装を使わなければエルドの腰が逝ったかもしれない。落下してくるレガリアを受け止める機会など、今後二度と訪れることはないと信じたい。


 エルドは受け止めたユーバ・アインスを床に下ろしてやり、



「ッたく、何で急に受け止めてくれだなんて……」


「【回答】残存魔力最低ラインに到達しそうだった。これ以上の兵装展開をすると、安全にリーヴェ帝国から脱出できないかもしれない」



 ユーバ・アインスの声は淡々としていたが、割と大変なことになっていた。


 残存魔力最低ラインに到達してしまうと、自立型魔導兵器『レガリア』に標準装備となっている自動回復機構が強制的に停止してしまう。空気中の魔素を吸収して体内で魔力に変換し、体内に蓄積した魔力を消費して兵装展開をするレガリアにとって残存魔力最低ラインは大切なものだ。

 そこまで魔力を消費してしまうと、余計な兵装を展開するのは憚られるか。エルドよりも知能があって判断力に優れた相棒のことなので、そこまで突っ込むことは止めよう。


 納得したように頷くエルドは、



「それなら仕方がねえな」


「【報告】現在の魔力量は12.33%だ。【回答】レガリアに遭遇しなければ安全にリーヴェ帝国を脱出可能」


「そうか」



 ユーバ・アインスの報告を受け、エルドは「じゃあ早く脱出しねえとな」と言う。


 元凶のユーバ・アハトは撃破した。

 制御装置となっている彼を撃破すれば、必然的に全てのレガリアに影響が出る。少なくとも制御下を離れているユーバ・アインスには関係のないことだが、予備兵力が投入されないとは限らない。早急に脱出するのが望ましいだろう。


 その時、



 ――外的要因により、制御装置が破壊されました。


 ――自立型魔導兵器『レガリア』全機に自爆信号を送信いたします。



 平坦な女性の声が、まさかの現実を告げてきた。



「は?」


「【驚愕】最後の最後でこんなものを残していたか。【提案】早急に脱出しなければ、当機もエルドも粉微塵だ」


「何でそんな冷静に言ってんだよ!?」



 普段通りに冷静なことを宣うユーバ・アインスの両肩を掴み、エルドはガタガタと揺らす。さすが自立型魔導兵器『レガリア』である。どこまでも落ち着いていられるとは見上げた根性だ。


 自爆信号を全てのレガリアに送信したと告げていたが、現実はさらにとんでもない方向に舵を切ることとなる。

 視界が真っ赤に染まったと思えば、女性の淡々とした声がなおも部屋の中を反響する。危険を煽る色の光で満たされたこともあって、エルドとユーバ・アインスがいる部屋も危機的状況に陥っていた。



 ――アルヴェル王国への鹵獲を防ぐため、制御装置も自爆いたします。


 ――自爆まで残り30秒。



 30秒で制御装置のある部屋から脱出し、この鉄塔から離れなければならないのか。無茶な要求である。



「【報告】おおおおい兄貴!! やべえぞ、この塔全体に自爆信号が送られてたって!?」


「ユーバ・ドライ!? テメェ無事だったのか!!」


「【回答】あんな雑魚に当機アタシが負ける訳ねえだろ、エルド義兄さんよ。悪いが白兵戦なら負けなしだぜ」



 部屋に飛び込んできた銀髪碧眼の女性型レガリア、ユーバ・ドライが「【焦燥】いや違うんだってば!!」と叫ぶ。



「【報告】フィーアの奴が言うには急速に塔全体が爆発に向かってるって!!」


「【補足】証拠隠滅や鹵獲されない為に機材へあらかじめ自爆機構が備わっていたようでござるな。こりゃ当機せっしゃでも無理ッスわ無理」



 補足をするように、後ろから4号機のユーバ・フィーアが説明をする。


 この場所に果たしてどれほどの自爆機構が備わった機械が置いてあるのか不明だが、30秒以内に逃げなければエルドは終わる。レガリアのように自動回復機構がついている訳ではないのだ。

 本当に最後の最後で余計なことをしてくれるものだ。まあ、頭のいい奴らのことなので最後は華々しく散ることを考えていなかったエルドが悪いのだが。



「【疑問】ゼクス、何とか脱出するまでの時間は稼げないのですか?」


「【回答】ごめん、ね……ツヴァイにーさま。当機ぼくではとても……」



 2号機のユーバ・ツヴァイが自爆までの時間を遅らせられる可能性のあるユーバ・ゼクスに問いかけるが、彼はゆるゆると首を横に振っていた。さすがに無理があるようだ。



「【疑問】どうするの、当機あたしならそこのデカブツぐらいなら運べるぐらいの余力はあるわよ」


「おい、デカブツって俺のことを言ってんのか」


「【回答】当たり前でしょ? 他に誰がいると思ってんの?」



 ツンと澄まし顔で言う5号機のユーバ・フュンフを睨みつければ、彼女はそっぽを向いた。どこまでも生意気な機体である。



「【疑問】ユーバ・フィーア、塔全体に行き届いた自爆信号の解除は?」


「【回答】塔全体はさすがに無理。ここより下なら、まあギリギリってところでござるよ」


「【了解】ではその判断に従い、フィーアには塔の自爆信号解除の任務に当たってもらう」


「【驚愕】当機せっしゃの意思は丸無視でござるか!?」



 出来るというような雰囲気で言ってしまったのが運の尽きなのか、ユーバ・フィーアはまた貧乏くじを引いて頭を抱えていた。もしかしたら彼が1番理不尽な扱いを受けているのかもしれない。


 ユーバ・アインスは純白の盾を展開する。

 盾を構えた純白のレガリアは、エルドを守るように立ち塞がった。弟妹機たちにも手招きをして周囲に集める。



「【回答】爆発の衝撃は当機が受け止める。【展開】白壁天幕ドーム



 ユーバ・アインスを中心に、半球状の結界が展開される。


 残存魔力最低ラインに到達しそうだというのに、彼は兵装を展開した。これ以上に兵装を展開すれば活動限界となる。

 エルドは「おい!!」とユーバ・アインスの背中に声をぶつければ、彼は視線だけをエルドに投げかけた。そして、いつもの淡々とした調子で告げた。



「感謝する、エルド・マルティーニ」



 それから彼は、口の端を僅かに持ち上げて笑った。



「命を賭して私の任務に協力してくれた貴殿を、今度は私の命を懸けて守り抜く」



 そう言って、ユーバ・アインスがエルドめがけて腕を伸ばす。

 首だけをエルドに向け、腕をエルドの後頭部に回して引き寄せてくる。されるがままに引っ張られ、次の時にはユーバ・アインスの綺麗な顔がすぐ側にあった。


 唇に少し冷たく、思った以上に柔らかいものが触れる。その触れ合いは一瞬だけだったが、ユーバ・アインスは満足そうに笑っていた。



「愛している、エルド」



 そして、



「【展開】【並行】絶対防御イージス



 ――爆発の衝撃が襲いかかる。

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