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Regalia  作者: 山下愁
第12章:黎明に勝利の咆哮を
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【第7話】

『クソがああああああああ!!』



 ユーバ・アハトの激昂が響き渡ると同時に、培養槽を塞ぐ蓋の部分から大量の武器が飛び出した。


 エルドを握り潰そうとした巨大な手のひらの武器に始まり、ユーバ・アインスの兵装で見かけたことのある重機関砲や超電磁砲などが展開される。さらには大砲や爆弾を投擲とうてきする武器まで多岐に渡り、それらが一斉にユーバ・アインスへと向けられる。

 対するユーバ・アインスは純白の盾を構えるだけだった。同じように複数の兵装を展開することはない。全ての攻撃を盾だけで防げるのか疑問だ。


 ユーバ・アハトは展開した全ての武器をガチャガチャと動かして、



『最後に、最後に余計なことをしてくれやがってええええええ!!』



 重機関砲が火を噴き、超電磁砲から純白の閃光が飛んでくる。大砲から巨大な砲弾が射出され、爆弾の投擲機から礫によく似た小型の爆弾がポンポンと投げ飛ばされた。

 常人であれば両足を地につけて生きていることすら不可能だ。逃げたところで無事な箇所はない。子供の駄々を想起させるしっちゃかめっちゃかな攻撃が、全てユーバ・アインスに叩きつけられた。


 爆弾が炸裂し、砲弾がユーバ・アインスの盾を強襲し、重機関砲の弾丸が雨霰の如く襲いかかり、超電磁砲が網膜を焼く。全ての攻撃が合わさって盛大な爆発を引き起こし、室内に煙が立ち込めた。



「アインス!!」



 煙の中にエルドが呼びかけると、



「【回答】問題ない」



 砂煙を振り払って現れたユーバ・アインスは、



「【回答】全て予想していた通りだ」



 純白の砲塔を展開し、その引き金を引く。


 大口径の砲口から放たれた白色の閃光が虚空を駆け抜け、ユーバ・アハトの展開する超電磁砲の兵装を焼き切る。閃光に飲み込まれた超電磁砲の兵装は消し炭となり、もう使い物にならなくなってしまった。

 培養槽に浮かぶユーバ・アハトがあらかさまに顔を顰める。『クソが、早く回復しろ!!』などと消し炭となった超電磁砲の兵装に文句を飛ばしていた。


 ユーバ・アインスは純白の砲塔から純白の重機関砲に切り替えて、



「【展開】重機関砲ガトリング


『ッ!!』



 ユーバ・アハトの浮かぶ培養槽の蓋めがけて銃弾をぶっ放す。


 蓋に攻撃を受けたユーバ・アハトは「止めろ!!」と叫ぶ。そこが攻撃されたくない場所だと彼の態度が告げていた。

 未だ複数の兵装が展開された状態を鑑みると、ユーバ・アハトの弱点は培養槽の蓋になるのか。完全に破壊できずとも、銃弾の雨を浴びせ続ければ兵装を機能不全に追い込めるかもしれない。


 エルドは右腕の戦闘用外装をガシャンと鳴らし、



「――アシュラ!!」



 膨れ上がった右腕を青色の光が駆け抜けていく。


 軽くなった右腕を引き絞り、ユーバ・アハトが閉じ込められた培養槽をぶん殴った。岩をも砕くと謳われるエルドの右拳だが、培養槽の表面はそれ以上に硬いらしい。鈍い音が耳朶に触れるが割れるどころかヒビが入ることすらない。

 緑色の液体を揺蕩たゆたうユーバ・アハトがジロリとエルドを睨みつけてきた。黒曜石の双眸に浮かぶ数字がチカチカと明滅し、豊かな表情は怒りの形相を張り付けている。



『お前のせいだああああああああああああああああッ!!』



 ユーバ・アハトが叫ぶと同時に、巨大な手のひらがエルドめがけて広げられる。捕まえて握り潰す算段か。



「【展開】絶対防御イージス



 巨大な手のひらとエルドの間に滑り込んできたユーバ・アインスは、純白の盾を突き出して兵装を展開する。


 迫り来る巨大な手のひらが、ユーバ・アインスの純白の盾によって阻まれてしまった。『クソが!!』というユーバ・アハトの口汚い罵声が盾の向こう側から聞こえてくる。

 巨大な手のひらがゆっくりと拳を握り、ユーバ・アインスの展開する純白の盾を力づくで破壊しようと何度も何度も叩きつけられた。殴られた時の衝撃が重いのか、1発の拳を受け取るたびにユーバ・アインスが僅かに後退する。


 しかし、ユーバ・アインスの表情は涼しげなままだ。純白の盾を構える真っ白なレガリアはエルドへ振り返ると、



「【疑問】怪我はないか?」


「いやテメェ、今もまだ殴られ続けてんだろ!? 何で平気でいられるんだよ!!」


「【回答】当機の防御力ではこの程度の攻撃など耐えられて当然だ。【補足】もっとも、衝撃までは防げずに後退してしまう訳だが」



 ユーバ・アインスは銀灰色の双眸をユーバ・アハトに向けると、



「【警告】エルドを傷つけようとしたことは許さない。【展開】一方通行アクセラレーション


『あッ』



 純白の盾を殴りつけたユーバ・アハトの巨大な手のひらが、ユーバ・アインスの展開する兵装『一方通行』によって弾かれてしまう。その反射の勢いが凄まじかったのか、巨大な手のひらと培養槽の蓋を繋げていた管が根本から吹き飛んでしまった。

 遠くに弾かれた巨大な手のひらは壁に叩きつけられると、ずるずると重力に従って落下して床の上に広がった状態で動かなくなった。よく見れば手のひらそのものも亀裂がいくらか生じており、部品単位で粉々になるところだった。


 ユーバ・アインスは純白の盾を構え直し、



「【要求】先程の攻撃を兵装に変換」


 ――【提案】既存の兵装『剛神鉄拳デストロイ』の強化。


 ――【予測】現在の出力よりも48.56%ほど上昇します。


「【承諾】その提案を受け入れる。【要求】既存の兵装を改良・兵装展開を早急に」



 ジジジ、という音が鼓膜を揺らす。


 ユーバ・アインスの構える純白の盾が形を変えようとしていた。盾の形状から徐々に拳を形成していく。

 ただし、その拳の大きさは規格外だ。本来であればエルドの戦闘用外装の威力などを計算して編み出された兵装『剛神鉄拳』が、あまりにも大きく膨れ上がっていく。その大きさは巨人の拳と呼んでも差し支えはない。


 表情を引き攣らせるユーバ・アハトは、



『うわああああああああああああああああ!!』



 癇癪を起こした子供のように重機関砲をぶっ放し、銃弾の雨を降らせる。


 エルドはユーバ・アインスを抱き寄せ、右腕の戦闘用外装を広げて盾の代わりに用いる。広げた手のひらがユーバ・アハトの展開する重機関砲の銃弾を受け止め、鈍い衝撃が戦闘用外装を通じて右腕全体に伝播する。

 だが、さすがユーバ・アインスとドクター・メルトで共同作業をして開発しただけあるのか、重機関砲の銃弾を浴びても壊れる様子が見えない。頑丈さを身をもって体験できた。


 抱き寄せられたユーバ・アインスは、



「【疑問】エルド?」


「テメェがケリをつけろ、アインス」



 重機関砲の銃弾を受け止めるエルドは、ユーバ・アハトを睨みつけながら言う。



「これはテメェの秘匿任務だろ」


「……【了解】その命令を受諾する」



 ユーバ・アインスがしっかりと頷いた時だ。


 それまで重機関砲をぶっ放し続けていたユーバ・アハトの攻撃が、途端に止まったのだ。重機関砲が動きを止め、しゅうしゅうと白い煙を発している。

 発熱状態にあるのかと思えばそうではなく、ユーバ・アハトが「何で動かなくなるんだよ!?」などと叫んでいる。部屋を埋め尽くしていた機械の群れも異常を告げるように赤い光を次々と点滅させていった。



 ――【警告】何者かが機構に侵入。対処のため、兵装の展開を中止します。



 平坦な女性の声が、そんなことを言う。



『兵装の展開を中止するだと!? 主導権はこっちだろ、一体誰がこんなことを――!!』



 ユーバ・アハトが培養槽の中で怒り狂う。


 エルドとユーバ・アインスが周囲に視線を巡らせると、部屋の外で何かの影が蠢いた。

 ひょっこりと顔を出したのは、ユーバ・フィーアとユーバ・ゼクスである。特にユーバ・フィーアは悪戯が上手くいった子供のように意地の悪い笑みを見せており、ひらひらと手を振っていた。『侵食』の能力を使ってユーバ・アハトを補助する機構に侵入したのだろう。


 エルドは右腕の戦闘用外装を広げると、



「アインス、乗れ!!」


「【了解】心得た」



 広げた手のひらにユーバ・アインスが飛び乗る。


 エルドは高い天井めがけて、ユーバ・アインスをぶん投げた。

 剛腕によって放り投げられた純白のレガリアは空中で器用に体勢を変えると、ユーバ・アハトを閉じ込めた培養槽の蓋に狙いを定める。兵装として完成した巨大な拳が展開された。



「【展開】巨神鉄拳ギガント



 ユーバ・アインスの展開する純白の巨大な拳が、ユーバ・アハトを閉じ込める培養槽を叩き潰した。

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