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Regalia  作者: 山下愁
第11章:機械仕掛けの街
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【第4話】

「【報告】目的地周辺に到着した。【要求】この辺りで止めてほしい」



 ユーバ・アインスの要求に従って、エルドは四輪車をゆっくりと停止させる。


 そこはリーヴェ帝国の鉄板で構成された壁があるだけで、他には何もないような場所だった。地下用水路とは言われたものの、それらしき影はない。

 四輪車が止まったことを確認したユーバ・アインスは、さっさと助手席から降りてしまう。薄暗い世界の中に亡霊の如く浮かび上がる相棒は周囲を見渡すと、おもむろに近くの巨大な岩を押していた。


 エルドは後部座席から戦闘用外装を引っ張り出し、右腕の義手に装着する。指先までしっかりと動くことを確認してから、



「アインス、何してんだ」


「【要求】エルドも手伝ってくれ。この岩を退けてほしい」


「岩を?」



 エルドはユーバ・アインスが押している岩を見やる。


 一抱えほどもある岩は、何の変哲もない自然が作り出した岩のように見える。左手で触ってみるも表面は岩らしくザラザラとしており、ゴツゴツとした感触が指先から伝わってくる。特に言及するようなことはない。

 ただ、ユーバ・アインスが「押してほしい」と言っているので、何か意味があっての行動だろう。自立型魔導兵器『レガリア』であるユーバ・アインスはエルドには分からないことを色々と知っているからだ。


 岩を前にしたエルドは、



「退け、アインス」


「【疑問】何故?」


「岩を退けるんだろ、俺が押した方が早い」



 この岩が重要なのか不明だが、とりあえず殴って壊さないという方針を掲げたい。破壊するとリーヴェ帝国が擁する自立型魔導兵器『レガリア』に勘付かれるという展開になったら嫌である。


 エルドの指示に従って、ユーバ・アインスは岩の前から退く。入れ替わるようにエルドは岩の前に立つと、右腕に装着した戦闘用外装を使用して岩を押した。ユーバ・アインスと協力するよりも、怪力が必要になる場面にはエルド1人で行動した方が早い。

 さて、目が飛び出るほどの剛腕を発揮したエルドは、ズズズと何かが動く感触を察知した。見れば岩のあった場所からほんの僅かにズレが生じているのだ。


 この岩、ちゃんと動く訳である。



「動いた?」


「【回答】この岩を退けると、地下用水路の入り口となる」



 ユーバ・アインスは岩が動いたことで生じた隙間を見やり、



「【説明】リーヴェ帝国の地下用水路は敵兵が侵入しないようにと巧妙に隠されている」


「なるほどな、頭のいい連中は考えることが違う」



 さすが自立型魔導兵器『レガリア』を開発した連中だ。まともに自立型魔導兵器『レガリア』を作ったら、英雄として表彰でもされそうである。


 エルドは一抱えほどもある岩を押して、さらに地下用水路へ至る入り口を広げていく。ゆっくりと岩は動いていき、ついに人間が1人ほど通れるぐらいの穴が露出された。

 穴の中を覗き込んだユーバ・アインスは「【報告】敵性反応はない」と言う。用水路にまで敵のレガリアが蔓延っていたらエルドとユーバ・アインスの行動が相手に筒抜けである。


 用水路へ至る狭い階段を見下ろすユーバ・アインスは、



「【展開】白色常灯ランプ



 ユーバ・アインスから白く輝く綿雪のような兵装が展開され、薄暗い闇の中に沈む狭い階段も明るく照らしてくれる。昼間のように明るくなったことで相手から気づかれる不安はあるが、足を滑らせて余計な怪我を負うよりマシだ。

 下りやすいように階段を明るく照らしたユーバ・アインスは、先に狭い階段を進んでいく。岩の下に作られた穴の向こう側に相棒が消えてから、思い出したように白い頭がひょっこりと飛び出してきた。


 銀灰色の双眸が入り口で佇むエルドを見上げ、



「【疑問】どうした、エルド?」


「いや……」



 エルドは難しい表情で、ユーバ・アインスが頭だけを突き出す穴を見やる。


 穴の規模は小さく見え、エルドの体格では詰まってしまいそうな雰囲気がある。さらに規格外の改造を施されて膨れ上がった右腕の戦闘用外装も表面を擦ってしまって何らかの影響が出そうだ。

 息が詰まりそうなほど狭い通路を利用してリーヴェ帝国に潜入するのはいい考えだと思うのだが、果たしてこの通路をエルドが利用できるのかが問題である。無様に詰まってしまったら元も子もない。


 その不安を察知したのか、ユーバ・アインスは「【回答】問題はない」と告げる。



「【説明】この地下用水路の設計はエルドの体格でも十分に通行できる。【補足】当機の記録にある全238にも及ぶ地下用水路の規模を参考にし、エルドの体格でも十分に通行可能かつ敵性レガリアに発見されにくい地下用水路を算出した。【提案】右腕の戦闘用外装は当機が格納・運搬を担おう。傷をつけないと誓う」


「いやそれだと戦えなくなるだろ、俺が。どうするんだよ、用水路にレガリアが来たら」


「【回答】この78番用水路は現在使用をされていないので、敵性レガリアに発見される可能性も低い。【補足】エルドは当機が守ると決めた。【要求】当機を信じてほしい」


「そりゃテメェほど信用できる奴はいねえけどよ」



 戦場で戦闘用外装を外すという行為に、エルドはどこか抵抗があった。改造人間故に、武器である改造部分を取り上げられてしまうと心許ない気分になってしまう。

 だが、ユーバ・アインスがわざわざエルドの体格でも通ることが出来る用水路を算出してくれたのだ。さらに敵性レガリアに気づかれないという面も考慮されている。ここまでしてくれたのだから、応えてやらなければならないだろう。


 エルドは仕方なしに右腕の戦闘用外装を外しつつ、



「頼んだぞ、アインス」


「【了解】その命令を受諾する」



 エルドの戦闘用外装を受け取ったユーバ・アインスは、真剣な表情でしっかりと頷いた。



 ☆



 用水路は確かにエルドの体格でも通ることが出来た。



「それにしても凄え数の用水路があるんだな」


「【回答】リーヴェ帝国は蜘蛛の巣のように用水路を地下空間に張り巡らせている。元々は避難経路としても使われていたようだ」


「なるほど、確かにここから外に避難できるわな」



 エルドは納得したように頷いた。


 これほど狭い通路であれば、避難経路としても利用可能だ。足元は多少の水が張られているとはいえ、靴など濡れてもまた乾く。靴が濡れた時の気持ち悪さよりも人命の方が重要だ。

 ユーバ・アインスの兵装によって明るく照らされる狭い用水路は、石が積まれて構成されたありふれたものである。壁や天井は苔が生えている箇所が見受けられ、使われていないという言葉は間違いではないようだ。


 すると、



「ん?」



 ガシャ、と何かを蹴飛ばした。


 反射的に足元へ視線をやれば、腕が転がっていた。

 鋼鉄の腕である。見た目は少女のように綺麗なものだが、指先はひび割れて部品と部品の隙間から侵入した水のせいで錆が窺える。


 エルドは「うおお!?」と飛び退ると、



「腕!?」


「【回答】この先にあるものと関係している」



 ユーバ・アインスは淡々と応じ、



「【警告】エルド、この先にも部品は落ちている。足元に気をつけてくれ」


「や、やっぱり部品なんだなこれ……」


「【肯定】そうだ。【補足】おそらく廃棄品ジャンクとなったレガリアだろう」



 ユーバ・アインスに手招きされて、エルドは落ちていた鋼鉄の腕を跨いで避ける。用水路の奥に視線をやれば、確かに足や腕などの部品が落ちていた。

 どれもこれもひび割れた部品である。廃棄品と言っていたが、こんな場所まで流れ着いている時点でお察しだろう。


 廃棄品が転がる用水路を進んだ先には、



「うわ」



 エルドは思わず声を上げた。


 用水路を抜けた先にあったのは、壊れた人形の山だ。光のない瞳がどこかに向けられており、無表情のまま水溜りの中に沈んでいる。錆びついた身体には虫が這いずり回り、卵の温床などにしている様子だった。

 手足の部品が外れ、頭髪は剥がれ落ち、見るも無惨な死に様を晒している人形たち。無数に積まれた人形たちは、全て自立型魔導兵器『レガリア』なのか。


 積まれた人形たちを眺めるユーバ・アインスは、



「【報告】ここは廃棄品の墓場だ」

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