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Regalia  作者: 山下愁
第10章:愚直な君に手向けの言葉を
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【第10話】

 呆気なく吹き飛ばされていく子供。

 殴った時の感覚はあまりにも軽いものだったが、全力でぶん殴らなければならない相手だった。相棒と弟機との戦いに水を差すような真似をした馬鹿野郎を許せるはずもなかった。


 右腕の戦闘用外装をガシャンと鳴らし、エルドは右拳を引く。放物線を描いて吹き飛ばされ、今しがた地面に背中から叩きつけられた子供の姿を模した自立型魔導兵器『レガリア』を狙った。



「アシュラ!!」



 エルドが叫ぶと、右腕の戦闘用外装に幾重にもなって青い光が駆け抜けていく。ぷしゅー、という蒸気を噴き出すと、右腕が驚くほど軽くなった。

 岩をも粉砕する剛腕を発揮し、エルドは起き上がろうとする子供のレガリアに拳を真上から叩きつける。頭部をぶん殴られた相手は顔面から大地にめり込み、動かなくなってしまった。よく見れば頭部が凹んでいる。


 だが、相手は自立型魔導兵器『レガリア』だ。エルドの拳を受けた程度では撃破できるはずもない。



「【警告】頭部を中心に甚大なダメージを確認。修復作業に移行」



 地面にめり込んでいた頭部を持ち上げ、子供は「【嘆息】酷いなぁ」と言う。顔中に付着した砂粒を手で払い落とし、頬や額などについた泥を手で擦って落としている。

 やはり自動回復機構が備わっているようだ。エルドが殴った頭部の損傷箇所もあっという間に修繕されてしまい、何事もなかったかのように相手は立ち上がる。


 良家の坊ちゃん、という単語がよく似合いそうな子供である。生意気そうな雰囲気も相まって意味不明な長ったらしい名前を名乗られたら納得してしまいそうだ。



「テメェ、ウチの相棒が弟とやり合ってる時に邪魔しやがって」


「【疑問】弱いレガリアは必要ないから撃破したまでだよ? 何がおかしいの?」



 子供はキョトンとした表情で首を傾げると、



「【補足】リーヴェ帝国が常に求めるのは結果だけだよ。その結果を出せないレガリアはただのガラクタって訳さ。改造人間も最新式の部品が出たら使いたいと思うでしょ?」


「少なくとも、俺は思わねえな」



 エルドは吐き捨てる。


 最新式の部品なんぞ高くて手が出せないという理由が大半だが、数々の戦場を潜り抜けた相棒を簡単に切り離せる訳がないというのがエルドの考えだった。他の改造人間はどう思っているのか知らない。

 まあ、せいぜい『最新式』の単語はすぐに更新される。やれ全体的に軽量化しただの頑丈になっただの、御託をグダグダと並べられても使う方は分からないのだ。改造人間の部品は身体の一部である。本当に最新式を取り入れるべきかどうか悩まれるのだ。


 右拳を握りしめたエルドは、



「生意気なクソガキなんてとっとと破壊してやる、かかってこい」


「…………」


「あ? どうしたクソガキ、改造人間だから簡単に殺せるとでも思ってんのか!?」



 舐められたものである。確かに改造人間は自立型魔導兵器『レガリア』と違って弱いかもしれないが、エルドだってそれなりに場数を踏んできた傭兵だ。対等に戦えずとも時間稼ぎぐらいは出来る。

 右拳を構えて威嚇するエルドとは対照的に、子供はユーバ・アインスに見せていた好戦的な一面とは打って変わっていた。随分と消極的で、戦う気力が全く感じられない。


 子供は「【拒否】やーめた」と言い、



「【補足】当機は帰るよ、せっかく初号機を撃破できるチャンスだったのに。興醒めだね」



 子供はそう言うや否や、くるりと踵を返すと逃げ出してしまった。さすが自立型魔導兵器『レガリア』だからか、逃げ足も一級品である。


 あっという間に見えなくなってしまった子供のレガリアに、エルドは舌打ちをする。自分に自信がなくなったのかどうなのか分からないが、ユーバ・アインスに見せていた時の態度と大違いだ。

 次に会う時は容赦はしない。刺し違えてでも撃破してやる所存だ。


 エルドはユーバ・アインスへ振り返り、



「アインス、大丈夫か?」


「【回答】当機は問題ない」



 ユーバ・アインスは地面に倒れたユーバ・ツヴァイを見やると、



「【疑問】エルド、どこかに鉄の塊は落ちていなかったか?」


「鉄の塊?」


「【説明】自立型魔導兵器『レガリア』にとって大切なものだ」



 ユーバ・アインスに言われ、エルドは周囲に視線を巡らせる。


 ちょうど離れたところに、土に塗れた鉄の塊を見つけた。それを拾い上げると、ユーバ・アインスは「【要求】その鉄の塊を渡してほしい」と求めてくる。

 相棒が言うのだから、よほど大切なものなのだろう。ユーバ・アインスに土塗れとなった鉄の塊を手渡してやると、彼は大切そうな手つきで鉄の塊を受け取った。


 丁寧に土埃を払い落としてやると、ユーバ・アインスは倒れたユーバ・ツヴァイの身体を仰向けにしてやる。



「【謝罪】ユーバ・ツヴァイ、撃破できずにすまない」



 ユーバ・アインスは謝罪をすると共に、ユーバ・ツヴァイの胸に開いた穴に鉄の塊を押し込んだ。

 その鉄の塊を押し込んだところで、すでに魔力切れとなっているのかユーバ・ツヴァイが起動することもなかった。完全に撃破されてしまった形である。


 開きっぱなしになっているユーバ・ツヴァイの瞼を下ろしてやったユーバ・アインスは、



「【遺憾】当機の判断が遅かった。あと少しでユーバ・ツヴァイを撃破してやれたのに」



 銀灰色の双眸をどこか遠くに投げかけて、ユーバ・アインスは言う。



「【宣告】次はあの生意気な末弟を撃破する」


「末弟? あれテメェの弟機なのか?」


「【回答】当機がリーヴェ帝国を去ってから開発されたものと言っていいだろう。当機の本来の開発者はあのような弟機を開発などしない」


「てことは8号機って奴か。厄介なレガリアだな」



 エルドは顔を顰めると、



「アインス、いいか?」


「【疑問】何だ、エルド?」


「姉御から言われてな、リーヴェ帝国が総力戦を仕掛けてきたんだとよ」



 リーヴェ帝国から量産型レガリアの大群が派遣され、さらにシリーズ名で管理される自立型魔導兵器『レガリア』の存在も多数確認されたとの報告があったのだ。ついに拮抗していた力関係がひっくり返るのである。

 量産型レガリアが製造できる限り――そして自立型魔導兵器『レガリア』の開発ができる限り抗戦するリーヴェ帝国もすでに限界が近い。敗北はまだ決まったものではないと思っているのだろう。おそらく、あのユーバシリーズの8号機とやらもリーヴェ帝国が出してきた抗戦の手段だ。


 ユーバ・アインスは頷くと、



「【納得】言わんとすることは理解した。【了解】その命令を受諾する」


「秘匿任務達成もあと少しか」


「【肯定】そうだ。リーヴェ帝国を撃破し――」



 エルドを真っ直ぐに見据えたユーバ・アインスは、



「――末弟であるユーバ・アハトを破壊する」



 その言葉の端々には意思が確かにあった。


 ユーバ・アインスだって兄弟喧嘩の最中に生意気な弟機に邪魔されたのが悔しいのだろう。ユーバ・ツヴァイのトドメを刺したのも、ユーバ・アインスではなく末弟のあの生意気なクソガキである。恨みのようなものがあるのだ。

 秘匿任務にあった『ユーバシリーズの撃破』はまだ続く。リーヴェ帝国が開発して世に送り出された8号機を撃破しなければ、ユーバ・アインスに課せられた秘匿任務の遂行とは言い難い。


 エルドは「そうかい」と応じて、



「それなら、俺はいつも通りに補佐をしてやるだけだ」


「【感謝】ありがとう、エルド」


「当たり前だろ、相棒なんだから」



 ユーバ・アインスの肩を叩くエルドは、



「ユーバ・ツヴァイ、持って帰ってやろうぜ。戦場の真ん中で埋葬なんて可哀想だろ」


「【肯定】ああ、安全な場所で埋めてやりたい」



 もう動かなくなってしまったユーバ・ツヴァイを抱き上げ、エルドはユーバ・アインスを連れて自陣に戻る。



 長きに渡る戦争の終結が迫っていた。

 天下最強のレガリアが斃れ、残りは本陣のみ。

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