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Regalia  作者: 山下愁
第10章:愚直な君に手向けの言葉を
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【第9話】

 何が起きたのか分からない。


 ユーバ・ツヴァイの瞳が見開かれ、ゆっくりと自分の胸元を映し出す。胸部には自立型魔導兵器『レガリア』としての重要な部品が詰め込まれており、現に背後から突き刺さった腕には煌々と輝く鋼の心臓が握られていた。

 自立型魔導兵器『レガリア』に於ける重要な装備、動力回路である。それを破壊されれば、魔力が尽きたユーバ・ツヴァイでも行動不能に陥ってしまう。



「に、いさ」



 ユーバ・ツヴァイの口からそんな言葉が漏れると同時に、彼は膝から崩れ落ちた。もう指先1本だって動くことはなく、橙色の瞳には光が差していない。


 銀灰色の瞳を丸くしたまま固まるユーバ・アインスは、ユーバ・ツヴァイの鋼の心臓を手持ち無沙汰に弄ぶ子供を発見する。

 艶やかな黒髪と透き通るような青い瞳、子供らしく愛らしさのある顔立ちには意地の悪い笑みを浮かべている。まるで貴族のような仕立ての良いシャツと膝丈のズボンを身につけ、真っ赤な蝶ネクタイが目を惹く。道楽で戦場まで遊びに来たリーヴェ帝国上層部の家族と言っても信じることが出来るだろう。


 子供はユーバ・アインスを見やると、



「【挨拶】初めまして、初号機。当機ぼくはユーバ・アハトって言うんだ。ユーバシリーズ8号機だよ」


「【疑問】8号機だと?」



 ユーバ・アインスは眉根を寄せる。


 ユーバシリーズは初号機であるユーバ・アインスから7号機であるユーバ・ズィーベンまでの7機だけだ。そのうち3号機から7号機までユーバ・アインス自ら撃破してきた。

 それなのに8号機の存在は知らない。すでに開発者である父はユーバ・アインスの手で殺害してしまい、8号機の話についてはユーバ・アインスの知るところではないのだ。


 ユーバ・アインスは自らをユーバ・アハトと名乗った子供を睨みつけると、



「【疑問】何故ユーバ・ツヴァイを貴殿が撃破する必要があった?」


「【回答】弱い兄なんて必要なくない?」



 ユーバ・アハトは嘲笑を見せ、



「【落胆】たかが猿真似しか出来ない初号機に負けるとは拍子抜けだよ。戦闘訓練とでも思っていたのかな?」



 ユーバ・ツヴァイを愚弄するような言葉を吐くユーバ・アハトに向けて、ユーバ・アインスは超電磁砲レールガンを放つ。


 白い閃光がユーバ・アハトに襲いかかり、膝から上全ての部位を焼き尽くす。相手は最後の最後までユーバ・アインスを馬鹿にしたような態度で、超電磁砲の閃光が襲いかかっても表情変化すらなかった。

 ユーバ・アハトの存在など関係なかった。第三者がユーバ・ツヴァイを撃破することが許せなかったのだ。秘匿任務は自分自身の手で遂行して、初めて任務達成と言えるのに。


 ユーバ・ツヴァイを撃破するのは、ユーバ・アインスのはずだったのに。



「【悲嘆】酷いなぁ、初号機は」



 自動回復機構が備わっているのか、ユーバ・アハトの身体は徐々に修復されていく。本体の8割が超電磁砲によって焼かれたにも関わらず、何事もなかったかのように身につけた衣服すら修繕されてしまった。

 リーヴェ帝国で開発された自立型魔導兵器『レガリア』であることは判断できる。おそらくユーバ・アインスがリーヴェ帝国を立ち去ったあとで、殺害したユーバシリーズ開発者の記録を参照にしてユーバ・アハトを独自開発したのだろう。ユーバシリーズを開発した父は、きっとこんな性格の悪い弟機を作らない。


 ユーバ・アインスは超電磁砲レールガンから重機関砲ガトリングの兵装に変えると、



「【説明】ユーバ・ツヴァイを撃破するのは当機の任務だった」



 ユーバ・アハトに狙いを定めて、ユーバ・アインスは引き金を引く。


 幾重にもなって響き渡る銃声。雨霰のように銃弾がユーバ・アハトに襲撃し、その小さな身体に容赦なく弾痕が刻み込まれていく。腕や足が銃弾によって吹き飛んでも自動回復機構によって修復され、何事もなかったかのようにユーバ・アハトは首を傾げる。

 まるで「何をムキになっているのだろう、この兄は」と言わんばかりの態度だ。状況が何も分かっていない子供のようなユーバ・アハトに、ユーバ・アインスの苛立ちが募る。


 ユーバ・アハトは深々とため息を吐くと、



「【嫌悪】いつまでも古い人形が天下最強だの何だのとのさばるのが嫌なんだよね。リーヴェ帝国もそろそろアップデートしないと」



 小さな右手をゆらりと持ち上げたユーバ・アハトは、兵装を発動させる。



「【展開】重機関砲ガトリング


「ッ!?」



 それはまさに、ユーバ・アインスが有する兵装と同じものだった。


 ユーバ・アハトの手には、身長に似つかわしくない真っ黒な重機関砲が出現する。それを右手だけで構えると、ユーバ・アインスめがけて引き金を引いた。

 連続する銃声と共に弾丸の豪雨がユーバ・アインスに迫る。重機関砲の兵装を解除して白い盾を突き出し、襲いくる銃弾の雨を防いだ。


 盾を通じて重たい衝撃が伝わってくる。頭部に搭載された人工知能が『【警告】強い衝撃を受けています』と警告音を吐いた。



「【驚愕】これは……」



 銃弾の雨が中断して、ユーバ・アインスは白い盾を見やる。


 どれほど攻撃を受けても傷すらつかなかったユーバ・アインスの盾が、ボコボコに凹んでいた。かろうじて貫通することはなかったが、自立型魔導兵器『レガリア』の特殊な装備でもない限りはユーバ・アインスの盾は無敵の防御力を誇っていたはずなのに。

 これほど凶悪な兵装を有しているということは、さすが最新型のレガリアと呼ぶべきだろうか。天下最強という4文字に胡座を掻いていたユーバ・アインスも油断していたのだろうが、研究材料に使われているのは間違いない。



「【疑問】驚いた?」


「【質問】当機や弟妹機の戦闘データ及び兵装データを参考にして貴殿は開発されたのか?」


「【回答】せーいかーい、頭がいいね」



 ユーバ・アハトはなおもユーバ・アインスを馬鹿にしたような口調で、



「【解説】初号機の戦闘データや兵装データを当機の開発時に組み込み、そして兵装データを改良しているんだ。アンタが有する兵装よりも当機の兵装の方が段違いに優れているよ」


「【回答】だとしても、戦闘実績では当機の方が上だ」



 ユーバ・アインスとしても、天下最強のユーバシリーズを率いていた初号機である。運用実績は確かなものだし、情報として搭載されているだけの最新型に負けるつもりなど毛頭ない。


 自動回復機構が適用され、純白の盾がまっさらな状態で蘇る。

 それと同時に大量の警告音を吐く人工知能を黙らせて、ユーバ・アインスはユーバ・アハトを撃破する為の戦闘予測を命じた。



「【要求】戦術更新間隔を3秒から1秒に変更、状況に応じて複数の戦術の提案を」


 ――【了解】戦術更新間隔を変更しました。状況に応じて複数の戦術案を此方が提案、本体で最適解の判断をお願いいたします。


「【了解】戦闘を開始する」



 ユーバ・アインスは重機関砲の兵装を展開すると、ユーバ・アハトめがけてぶっ放す。


 相手の兵装が優れていることなど百も承知である。だが、相手に少しでも有効打を与えて魔力を削り、残存魔力最低ラインに到達させることが重要だ。

 ユーバ・アハトは馬鹿にしたような態度を止めない。頭部に銃弾を受けようがすぐに自動回復機構が適用されて元通りに修復されてしまい、碌な影響がないようにも判断できる。そんなことは想定の範囲内だ。


 ユーバ・アインスは重機関砲の兵装を展開しながら、



「【展開】【並列】地雷爆撃ボマー



 ユーバ・アハトの足元が爆破する。


 出力はユーバ・ツヴァイと比べてしまうと劣るが、それでもユーバ・アハトの小さな身体を吹き飛ばすのは十分だろう。防御姿勢を取らないユーバ・アハトがまともに爆発を受ければひとたまりもない。

 熱気がユーバ・アハトを包み込み、粉塵が視覚機能の性能を落とす。ユーバ・アハトの反応はまだあるのがユーバ・アインスにとって悪い情報だった。



「【悲嘆】痛いなぁ、初号機」



 粉塵が晴れた時、ユーバ・アハトが構えていたのは黒い砲塔だったを


 見覚えのある砲塔である。それはユーバ・アインスが『超電磁砲レールガン』を使用する際に用いる兵装の形に似ていた。

 まさか超電磁砲さえも搭載済みだったか。人工知能が『【警告】回避行動を』と警告を発してくるのだが、それより先にユーバ・アハトの砲塔に黒い光が宿る。



「【挨拶】さようなら、初号機。ツヴァイ兄ちゃんを追いかけてね」



 ユーバ・アハトが改良された超電磁砲を放つその寸前のこと、真横から巨大な拳が飛んできて彼の小さな身体を呆気なく吹き飛ばす。



「邪魔だクソガキ!!」



 ユーバ・アハトとユーバ・アインスの戦闘に乱入してきたエルドは、放物線を描いてすっ飛んでいくユーバ・アハトに向かって怒鳴っていた。

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