【第7話】
「【展開】空中爆撃」
「【展開】絶対防御」
ユーバ・ツヴァイの空爆が、ユーバ・アインスの展開する防壁によって受け止められる。
強い衝撃が純白の盾を通じて伝わってきた。搭載された人工知能も『【警告】強い衝撃を受けました』と警鐘を鳴らす。
この程度の爆撃なら想定の範囲内だ。戦術でも学習済みである。
ユーバ・アインスは即座に純白の盾を別の兵装に切り替え、
「【展開】重機関砲」
「ッ」
純白の重機関砲が出現する。
それを片腕だけで構えると、迷わずユーバ・ツヴァイめがけてぶっ放した。
弾丸の雨霰が2番目の弟機に襲いかかる。ユーバ・アインスのように盾でも展開しなければ防ぎきれないほどの弾丸の数だが、相手が攻撃をどのように防ぐのか人工知能が計算結果を弾き出す。
ユーバ・アインスは銃撃を中断すると、大きく飛び退ってから「【展開】白壁天幕」と真っ白い結界を展開する。
「【展開】防衛爆撃」
次の瞬間、ユーバ・ツヴァイを守るように爆発が生じた。
銃弾が爆風によって弾き飛ばされ、地面が捲れ上がる。もうもうと立ち込める砂煙の向こう側から現れたユーバ・ツヴァイには、何発か防ぎきれずに貰ってしまった銃弾の痕跡が見えた。
しかし、ユーバ・ツヴァイも自立型魔導兵器『レガリア』である。内蔵魔力を使用して自動的に回復する機能――自動回復機構が備わっていた。そのおかげで腕や足に作られた銃痕は跡形もなく消え去る。
ユーバ・ツヴァイは涼しげな表情で、
「【憧憬】やはり兄さんは強いですね」
「【謙遜】そういう貴殿も、変わらない攻撃力の高さだ」
ユーバ・ツヴァイの周辺は爆撃によって凹んでいた。地面の表面は焦げているし、足場の状況は最悪の一言に尽きる。それだけで、ユーバ・ツヴァイの攻撃力の高さが窺えた。
あらゆる戦場を想定して運用するように設計されたユーバ・アインスは、戦闘力など突出していない。せいぜいが平均よりも少し上といったところだろう。防御力だけは突出しているが、それぐらいだ。
爆撃が来ても吹き飛ばされないようにユーバ・アインスは純白の盾で対策をし、
「【回答】そうして、当機も爆撃で追い込まれたことを記憶している」
ユーバ・アインスがリーヴェ帝国を離れる際、真っ先に襲いかかってきたのはユーバ・ツヴァイだ。
自分自身と同じく生真面目で、自分以上に従順だ。抵抗なんて出来るはずもなく、何度も何度も爆撃を繰り返されて内蔵魔力を削っていき、最終的に7割が破壊された状態で捨てられた。まさかその兄が再び敵として、そして改造人間の仲間を連れて目の前に舞い戻るとはユーバ・ツヴァイも想像していなかったことだろう。
ユーバ・ツヴァイは「【肯定】そうですね」と頷き、
「【回答】懐かしいです。あの時、兄さんがリーヴェ帝国を離れる際に当機は攻撃行動を取りました。兄さんが敵として認識されたんです」
「【納得】貴殿は真面目だからな、納得もできる」
ユーバ・アインスは納得したように頷いた。
裏切り者には破壊するように組み込まれていたのだろう。開発者である父はユーバ・アインスにはその機能をつけられなかったが、他の弟妹機には搭載されていたと推測していい。
愚直なまでにリーヴェ帝国へ従順な弟機だ。彼に説得をしても無駄だろう。
「【歓喜】楽しいですよ、兄さんとの兄弟喧嘩は」
ユーバ・ツヴァイは両腕を軽く広げると、
「【展開】地底爆撃」
「ッ」
ユーバ・アインスの立っていた地面が爆破される。
地雷も仕掛けられていないのに、地表が捲れ上がって強い衝撃と熱気がユーバ・アインスに襲いかかる。
人工知能が警告を吐くより先にユーバ・アインスは「【展開】絶対防御」と兵装を展開する。純白の盾で爆発の衝撃を受け止めると、ユーバ・アインスの周辺は見事に捲れた状態となっていた。
やはり威力は上昇している。所詮はユーバ・アインスの兵装は、猿真似でしかないのだ。
「【歓喜】さあ兄さん、喧嘩をしましょう。何度でも何度でも爆撃をします。何なら24時間でも対応します」
「【拒否】そこまで貴殿と争うつもりは毛頭ない」
ユーバ・アインスは純白の盾から、別の兵装に切り替える。
「【展開】追尾魔弓」
ユーバ・アインスの手に出現したのは、純白の弓だった。
しかもただの長弓ではない。ユーバ・アインスの身長に合わせて誂えた兵装であり、照準器まで弓本体に取り付けられている。まるで弓の形をした狙撃銃である。
ユーバ・アインスは純白の長弓を引っ掴むと、グッと弓の弦を引っ張った。その動作と同時に長弓へどこからか真っ白い光の矢が出現すると、白い弓へ自動的につがえられる。
「【疑問】兄さん、そのような兵装などありましたか?」
「【回答】当機には貴殿らに搭載された兵装を全て足しても余りあるほどの兵装が搭載されている」
「【疑問】ら?」
「【回答】2号機から7号機の兵装だ。特定の戦場で運用を想定されて設計・開発された貴殿ら弟妹機と違い、当機は貴殿らの見本となるようにあらゆる状況下によって戦えるように開発・運用されている」
淡々と答えたユーバ・アインスは弓を放った。
つがえられた真っ白な矢は空中を引き裂くようにして飛んでいく。軌道はユーバ・ツヴァイの左眼球を狙っていた。
攻撃の気配を察知したユーバ・ツヴァイは爆撃で追い払おうとする。小さな爆発が起きて真っ白い矢は吹き散らされてしまった。
霧散して消えていく矢を認識しながら、ユーバ・アインスは次の兵装を展開する。
「【展開】追尾大筒」
「【驚愕】一体どれほどの兵装を搭載されているんですかッ!?」
「【黙秘】貴殿に答える義理はない」
ユーバ・アインスが次に展開したのは、小型の大砲のような兵装だった。『超電磁砲』とは違い、こちらは口径が大きい。
純白の筒を思わせる全体的な形と、そんな筒の側面から突き出た照準器。持ち手は発射口に程近い場所に取り付けられており、砲身である筒を肩に乗せて運用する形式の兵装である。
ユーバ・アインスは純白の筒を肩に乗せ、
「【要求】自動追尾機能を展開、照準開始」
――【回答】照準を開始します。
ユーバ・アインスの視覚機能に十字線が表示される。
幾重にも表示される十字線がユーバ・ツヴァイに重なり、人工知能が『照準完了、発射してください』と告げた。反射的にユーバ・アインスの指先が白い大筒の引き金を引く。
聴覚機能が吹き飛ぶほどの轟音と共に大口径の発射口から放たれた砲弾は、照準したユーバ・ツヴァイを狙う。これで頭部を撃ち抜かれればかなりの損傷を負わせることが出来るはずだ。
「【展開】防衛爆撃」
ユーバ・ツヴァイを守るように爆風の壁が展開される。
発射された砲弾は爆風の壁に阻まれて押し戻されてしまい、墜落してしまう。ユーバ・ツヴァイによる爆撃で捲れ上がった地面と衝突して爆発し、さらに深い凹みが生じてしまった。
これも想定の範囲内だ。相手が攻撃を爆風によって防ぐことなど分かりきっている。
ユーバ・アインスは次なる兵装を展開しようとするのだが、
「【展開】爆発突撃」
ユーバ・ツヴァイの両足が爆発し、その衝撃を利用してユーバ・アインスめがけて突っ込んでくる。
ユーバ・アインスは純白の盾を引っ張り出すと、目の前に突き出す。それとほぼ同時にユーバ・ツヴァイの重たい拳が純白の盾をぶっ叩いた。
純白の盾を吹き飛ばすことはおろか、傷を作ることだって不可能だ。ユーバ・ツヴァイの悔しそうな表情がユーバ・アインスの視界を掠める。
「【遺憾】兄さんの防御力だけは当機も敵いません」
「【回答】そのことも想定して当機の防御力は高く設定されている」
ユーバ・アインスは盾を上手く使ってユーバ・ツヴァイの拳を振り払うと、
「【展開】【並列】自動拳銃」
純白の盾を展開したままの状態で、白い自動拳銃を展開する。
驚くユーバ・ツヴァイが何かを言うより前に、ユーバ・アインスはユーバ・ツヴァイの橙色をした瞳を狙って引き金を引いた。けたたましい銃声と共に放たれた銃弾が、的確にユーバ・ツヴァイの瞳を射抜く。
ここから反撃だ。