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Regalia  作者: 山下愁
第10章:愚直な君に手向けの言葉を
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【第6話】

 ついに姿を見せたユーバシリーズ2号機――ユーバ・ツヴァイの存在に戦場を漂う緊張感がますます高まる。


 相手は高い攻撃力を持つ自立型魔導兵器『レガリア』だ。それも数々のレガリアが開発されて最新型が戦場を席巻してもなお天下最強の4文字をほしいままにするユーバシリーズの2号機である。

 爆発系の兵装を多く搭載し、地面を吹き飛ばして多くの改造人間を地獄に送り込んだ死神だ。3号機のユーバ・ドライは個別に対する戦闘力は非常に高かったのだろうが、ユーバ・ドライの得意とする戦術は対軍戦闘である。建物も人間も爆破して吹き飛ばせばいい。


 エルドはユーバ・ツヴァイを見やり、



「テメェが2号機か」


「【疑問】どちら様ですか?」



 首を傾げるユーバ・ツヴァイに、エルドは警戒するように右腕の戦闘用外装で拳を作る。

 唐突に爆破なんて結末は避けたかった。出来ればそんな最期を迎えたくない。だけど今の声の調子は「兄との会話を邪魔するんじゃねえ」というような雰囲気が漂っていた。


 ユーバ・アインスが純白の盾を突き出してエルドとユーバ・ツヴァイの間に割って入ると、



「【回答】現在、当機が所属する傭兵団『黎明の咆哮』の傭兵だ。【追記】当機の相棒でもある、手出しは許さない」


「【納得】そうでしたか、これは大変失礼致しました」



 ユーバ・ツヴァイはペコリと頭を下げ、



「【挨拶】初めまして、相棒さん。当機わたしはユーバシリーズの2号機、ユーバ・ツヴァイと申します。【補足】当機が現在請け負います最優先任務には改造人間の破壊を命じられておりませんので、むやみに爆破することはありません。ご安心を」


「お、おう……?」



 拍子抜けである。


 無慈悲な爆破によって殺されるのかと思えば、ユーバ・ツヴァイは上層部の命令に忠実だった。てっきり敵を殲滅する殺人兵器になるのかと勘違いしていたが、そういえば彼はこのユーバ・アインスの弟機であったことを思い出す。

 ユーバシリーズは、他の自立型魔導兵器『レガリア』と違って感情豊かだ。本当に人工知能によって最適解を導き出しているのか疑問に思えるほど感情表現が人間みたいである。人智を超えたその技術力は、人間らしくない容姿を抜きにしても目を見張るものがある。


 どこか安堵の息を吐くエルドをよそに、ユーバ・アインスは純白の盾を突き出したまま問いかける。



「【疑問】その最優先任務は、当機の撃破か?」


「【回答】さすがです、兄さん。当機わたしは兄さんの撃破を任務として言い渡されました。【追記】母国に反逆をするようなお人形は必要ない、と」


「…………」



 ユーバ・アインスは口を閉ざす。弟機の口から出た「お人形」という単語にどう反応していいのか分からない様子だ。



「【回答】当機わたしとて兄である初号機を破壊するのは気が引けます。それでも当機はリーヴェ帝国に所属する以上、上層部の命令に逆らえるような設計にはなっていません」



 ユーバ・ツヴァイは「【嘆息】皮肉なものですね」と吐き捨て、



「【落胆】当機わたしはどこまでもリーヴェ帝国のお人形のままです。量産型然り、シリーズ然り」


「…………」



 これにはエルドもどう反応すればいいのか分からなくなる。


 リーヴェ帝国はそんな国なのだ。自立型魔導兵器『レガリア』でも、これほど感情豊かな機体がいるとは想定していない。レガリアをただの戦闘兵器として扱い、捨て駒にしては最新式を戦場に投入していく。慈悲どころか人間の心すらないのではないだろうか。

 可哀想だとは思う。弟機に酷な命令を強いるとは、可哀想以外の感想が出てこない。でも手を差し伸べたところで、彼の首が縦に振られるとは思わない。


 ユーバ・ツヴァイは「【転換】まあ、それよりも」と話題を変え、



「【回答】リーヴェ帝国は、兄さんとの兄弟喧嘩の機会を与えてくれたと判断するようにしました。【結論】なので、当機わたしは兄さんを撃破します」


「テメェ、それでいいのか」


「【回答】はい、兄さんとは兄弟喧嘩らしい喧嘩をしたことはありませんでした。喧嘩というより戦闘訓練は2485回にも及びましたが、あれは喧嘩ではありませんので兄さんは防戦を強いられてばかりでした」



 エルドの言葉に、ユーバ・ツヴァイはいきいきとした言葉で返す。



「【歓喜】だから全力の兄さんと戦えることが嬉しいです」


「【納得】そうか」



 ユーバ・アインスは純白の盾を一旦下ろすと、



「【要求】エルド――」


「おう」


「【疑問】まだ何も言っていないが、当機の要求を予測できたのか?」


「あれだけ分かりやすい反応をされれば嫌でも分かるわ」



 エルドはひらひらと左手を振り、ユーバ・アインスに応じる。


 敵兵である量産型レガリアやシリーズ名で管理される自立型魔導兵器『レガリア』はいる。しかも大勢だ。リーヴェ帝国の主要拠点であるリットー要塞を攻め込まれているのだから、相手側も本気で防衛してくるに違いない。

 リットー要塞を攻め落とす為に懸念される事項はユーバ・ツヴァイのみだ。それをユーバ・アインスが押さえてくれるのであれば、あとは敵兵の量産型レガリアや他のレガリアを処理するだけである。



「アインス」


「【応答】何だ?」


「弟に兄貴の本気を見せてやれよ」


「【了解】その命令を受諾する」



 ユーバ・アインスを見送り、エルドは量産型レガリアの処理に向かった。



 ☆



 遠ざかっていくエルドの背中を見送り、ユーバ・ツヴァイが言う。



「【羨望】いい人ですね、兄さんの相棒さんは」


「【回答】エルドは優しい人だ」


「【納得】そうなんですね。あの人がエルドさんと言うんですか」



 ユーバ・ツヴァイの橙色の瞳が、エルドの立ち去った方角を見やる。


 納得できない、非常に納得できない。

 いくら弟機でも許容できるようなものではないのだ。エルドと長く時間を過ごしたのは弟妹機の中でもユーバ・アインスがダントツであり、弟妹機は全て敵兵として出てきたのだ。一目惚れさせるなど許さない。


 ユーバ・アインスは低い声で、



「【警告】エルドに惚れることは許さない」


「【否定】いい人だと言っただけですよ、兄さん」



 ユーバ・ツヴァイは困ったように笑うと、



「【回答】兄さんは、エルドさんが大切なんですね」


「【肯定】エルドは当機にとって大切な存在だ。当機の秘匿任務を理解し、当機に協力すると申し出てくれた」



 今回の件もそうだ。

 エルドはユーバ・アインスがユーバ・ツヴァイと戦うことを、何も言わずに送り出してくれた。援護するなどの申し出はなかった。弟機との決着をつけろと、秘匿任務に理解を示してくれているのだ。


 ユーバ・アインスは瞳を閉じると、



 ――通常兵装、起動準備完了。


 ――非戦闘用兵装を休眠状態に移行。戦闘終了まで、この兵装を使うことは出来ません。


 ――残存魔力95.82%です。適宜、空気中の魔素を取り込み回復いたします。


 ――彼〈リーヴェ帝国所属、自立型魔導兵器『ユーバシリーズ』2号機〉我〈自立型魔導兵器レガリア『ユーバシリーズ』初号機〉戦闘予測を開始します。


 ――戦闘準備完了。



 ユーバ・アインスは純白の盾を構え、銀灰色の瞳を開く。


 今までの戦闘記録からユーバ・ツヴァイの兵装は熟知している。ユーバ・アインスがリーヴェ帝国から去ってから追加された兵装は知らないが、あらゆる戦闘を想定して設計され、受けた攻撃を模倣するユーバ・アインスに死角はない。

 人工知能が『戦闘予測を開始します』と告げる。視覚機能に映り込むユーバ・ツヴァイに関する様々な情報、それらを必要なものと不必要なもので整理して最適解を導き出す。


 そして、告げる。



「【状況開始】戦闘を開始する」



 ――最初で最後の兄弟喧嘩が始まった。

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