第7話 天使にも裏の顔くらいある!
朝早、大香は啜り泣く声が聞こえて目を覚ます。この声の正体に気付いた途端、慌てて叶詩の部屋に駆けつける。するとそこには縄で縛られた状態で涙を流す叶詩の姿があった。
「あわわ、ごめんね叶詩ちゃん!今すぐ解くからね!」
昨日 叶詩に襲われるのを恐れ、縛り付けたまま眠らせていたことをすっかり忘れていた。
「もう大丈夫だからね!本当にごめんね!」
縄を解いても泣き止む様子がない叶詩。
「か、叶詩ちゃん、どうしたの?」
「…ちゃった。」
「何て言ったの?」
泣きながら話す声が聞き取れず、聞き直してみる。
「漏らし…うっ…ちゃった…」
そう言う叶詩の布団が水浸しになっていた。
「だ…だって…ひっ…夜中にトイレ行こうとしたら…っ…動けなくて…」
ど、どうしよう、私のせいで叶詩ちゃんを泣かせてしまった!
「き、気にしないで!叶詩ちゃん!これは私のせいなの!だから、ね!とりあえず着替えておいで!」
私は叶詩ちゃんの布団を干す為に外へ出た。するとまた、幼子が泣くような声が聞こえてくる。私は慌てて叶詩ちゃんの元へと向かう。
「どうしたの!?」
「だって…っ…着替えて戻ってきたら…っ…大香がいなくなってたんだもん…っ。」
「ご、ごめんね!ちょっとお庭に出てただけだから!」
そう言って叶詩ちゃんを抱きしめる。今日も可愛いなぁ…。あれ?なんだろう、このお世話役みたいな…
「大香…お腹すいた…」
また泣き出しそうな声の叶詩ちゃん。私は慌てて朝食を作りに行く。いつものようにトーストを焼こうとすると泣きそうな顔でホットケーキがいいと言い出した。どうやら今日は見た目は大人で中身はこどもになっているようだ。この様子じゃ今日の討伐依頼は無理そうだな…まぁ、甘える叶詩ちゃんもかわいいからいっか!とりあえずホットケーキを作らなきゃ。
「ふんふんふーん♪」
ホットケーキを作り始めると上機嫌で鼻唄を歌いながらこちらを見ている。何だかこっちまで幸せになって来る。
「はーい!ホットケーキできたよ〜!」
出来上がったホットケーキを見せると叶詩ちゃんは目をキラキラと輝かした。
「いっただっきまーす♪」
ナイフとフォークを不器用に使いながらホットケーキを頬張る姿には尊死してしまうのではないかと思った。
「ごちそうさまでした!」
あぁ、食べ終わってしまった。もっと眺めていたかったのに!もっと叶詩ちゃんが喜ぶところが見たい!
「ねー、叶詩ちゃん。今日は何がしたい?」
「お菓子のおうち作りたい!」
なんてメルヘンチックなの…発想がかわいい!
「じゃあ、材料を買いにいかないとね!一緒に行く?」
「うん!」
叶詩ちゃんが満面の笑みを見せつける。この顔に何度殺されかけたことか…。
〈でも見た目は大人なのにこんなにはしゃいでたら周りから見たら変な目で見られてしまうかもしれない。念のため叶詩ちゃんの容姿をかえておこう…〉
『変身!』
以前幼くなった時の叶詩ちゃんを思い浮かべ、その姿に変身させた。不思議そうに顔を傾げている。
「さて、行こうか!」
私は叶詩ちゃんの手を握り、家を出た。
「どんなお家を作りたい?」
「可愛いおうち!」
「そうだね!頑張って作ろうね!」
とりあえずお菓子屋さんへ向かうことにした。途中で叶詩ちゃんが足を止めてお洒落なお店を指差して止まった。
「ここはどんなお店なの?」
「ここは魔法の道具が売っているんだよ。」
するとまた、目をキラキラさせた。
「入ろうか!」
お店に入ると綺麗な色液体入ったビンがたくさん並べられていた。
「キレイ…」
叶詩ちゃんはいろいろな商品に興味津々のようだ。十分ほどお店を回っていた叶詩ちゃんがくまの可愛らしいマスコットを指差してこれが欲しいと言ってきた。
「買ってあげるね!持っておいで!」
叶詩ちゃんは笑顔で二つのマスコットを持ってくる。これはどんな商品何だろう。私は気になって商品の説明に目を通すと絶句した。そこにはこう書かれていた。
〈こちらの商品は他人を不幸にする力を宿しています。一つは自分がもち、もう一つを不幸にさせたい人物に渡してください。そうすればそれを受け取った人物は不幸な目に合います。※くれぐれも自己責任でお願いします。〉
そう、呪具だったのだ。もう買ってあげるって言っちゃったしどうしよう…
その様子を見ていた店員が苦笑いしていた。
「これください。」
仕方なく買うことを決意した私は勘定場へ向かう。
「ご愁傷様です…」
先程様子を見ていた店員が小さな声でそう囁く。私は叶詩ちゃんのためにも買わない方が正しい選択だったのかもしれない。そんなことを考えていると叶詩ちゃんが口を開く。
「はい!大香!これ二つあるから一つあげるね!」
すごい笑顔でとても恐ろしいことを言い出した。悪意はないのだけれど叶詩ちゃんは私に呪いを押し付けようとしているのだ。私は精一杯の作り笑顔でありがとうとそのマスコットを受け取った。
〈ど…どうしよう。呪いを解除するには光の魔法!…私光の魔法使えないじゃん!これは行き先に教会を追加するほか無い…〉
「叶詩ちゃん!お菓子屋さんに行く前にもう一箇所寄りたいところがあるんだけどいいかな?」
「えー、先にお菓子屋さん行こうよ!」
「そ、そうだね…あはは…。」
私達はお菓子屋さんへ向かい歩き出した。その途中アイスクリーム屋さんを見つけた叶詩ちゃんはアイスが食べたいと言い出したので、アイスを二人分購入する。お金を渡そうとすると手が滑って落としてしまう。あわれて拾おうとするが見当たらない。私は諦めて再びお金を支払う。なんとなく気が沈んでしまう。
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アイスを食べ歩きしていると今度はカラスの大群が私を目掛け一直線に飛んでくる。私は咄嗟に手で顔を覆い目を瞑る。目を開けた頃には持っていたはずのアイスが無くなっていた。
「びっくりしたね…」
叶詩ちゃんが泣き出すんじゃないかと不安そうに様子を伺うと楽しそうに笑っていた。これは不幸が起こるほんの兆しなのではないかと感じた。
その後は特に何もなくお菓子屋さんにたどり着く。私は一刻も早く教会に行きたい一心でお菓子の家に必要そうな板チョコや生クリーム、ビスケットなど適当に買い物かごに詰めていき急いで会計を済ませる。そして叶詩ちゃんを背に乗せて教会へ急いで向かう。
「どうされたのですか?」
シスターさんが優しく出迎えてくれる。
「色々あって呪いを受けてしまいまして…実は…」
私はこれまでの経緯を簡単に説明した。するとシスターさんは笑いながらそのマスコットにそんな大きな力はないと説明してくれた。私はホッとして胸を撫で下ろす。しかし突然シスターさんの表情が曇る。
「その子、魔物よね?」
私は理解が追いつかなかった。シスターさんが叶詩に向かって突然そんなことを言い出した。これ以上この場にいるとなんとなく大きな騒ぎになるような気がして慌ててシスターさんを眠らせ、一部の記憶を消し、慌てて家に帰宅した。
家に帰ってからもシスターさんの言っていたことが頭に残っていた。
「叶詩ちゃん、ちょっと冒険者カード見せてくれる?」
叶詩ちゃんからカードを受け取り職業を確認する。そこにはこう書かれていた。
【エナジーバンパイヤ】
*他人から運気や生命力を吸い取る人のこと
「いやいや、そんな職業初めて聞いたし!デスキノコって何でもアリなのね!」
そういって叶詩ちゃんの顔を見る。私はその表情を見て寒気がした。そこにはニタァっと口を大きくして笑う叶詩ちゃんの姿があった。
「やっと…気付いた…?」
「ぎゃーー!!」
今回は若干ネタ回です。見ていただきありがとうございました!\(^^)/