第5話 浪漫の道はえらく遠距離
「叶詩ちゃんおはよう。」
「おはようございます。」
「珍しいね!叶詩ちゃんが先に起きるなんて!」
「えぇ、早起きは三文の徳ですので。」
毎朝 叶詩が変化することにすっかり慣れ切ってしまったのだろうか。髪の色が黒くなっていることに全く突っ込んでくる気配がなかった。
「今日は久しぶりに討伐依頼に行きたいと思います。」
「なら私も行くよ!」
「よろしいのですか?」
「うん、どうせ暇してたし。」
そう言って二人は朝食を済まし、酒場へと向かう。
「今日はどんな依頼を受けましょうか。」
「これなんてどう?オルミナ湖のダーティフィッシュ百体。」
「わかりました。それにしましょう。」
「梨乃こちらをお願いします。」
「あ、はい!えぇと、どうして私の名前を?」
「私は叶詩ですよ。」
「え!本当に!?すごいイメチェンしたね!?」
私は梨乃にこれまでの出来事を伝える。すると何故か大香が話に入ってきて、これまでの私はの黒歴史を暴露した。
「そんなことがあったんだ!四天王も倒したの!?証拠があれば大金が手に入るよ!?」
「その事はまだ内緒にしておいてください。もしその事がバレたら私が魔王軍の標的になってしまいます。」
「な、なるほど。何だかいつもと違って冷静ね。」
「それでは討伐に向かいます。さようなら。」
「はいはーい。気をつけてね!」
「梨乃ちゃんまたねー!」
「大香さん!また叶詩の事聞かせてね!」
いつの間にこの二人はこんなに仲良くなったのだろう。これ以上恥ずかしい話をされるのは嫌だ。そんなことより、今日の私はちゃんと戦えるのか確認しておかなければならない。冒険者カードを確認するとそこには騎士とあった。武器を見る感じ、できる事は剣士と同じだろう。
今向かっているオルミナ湖はエルヤ地区を抜けた先にある。ひとまずここで試し打ちといこう。
「大香、今からどれだけ戦えるのか試したいので敵を呼びます。私が危険な状態になったらまた前みたいに助けてくれますか?」
「もちろんよ!わかったわ!」
私は頷いて騎士特有のスキル〈デコイ〉を使用した。するとディストリクトードと狩りフラワーの群が出てきた。
「思ったよりも寄ってきてしまいました。参ります。」
『属性付与・火 』
叶詩の剣に炎が宿る。
「最小竜巻!」
炎の宿った剣を勢い良く振ると小さな竜巻が生じた。周りの敵は引き寄せられ、あっという間に息絶えた。
「なるほど。勝手がわかりました。」
「これならすぐに討伐の依頼も出来そうね!」
「えぇ。行きましょう。」
エルヤ地区を抜けると大きな湖が見えてきた。
「これがオルミナ湖ですか。これだけ大きいとたった百匹討伐したところで何も変わらないでしょうね。」
「でも百匹って結構大変よね?」
私は湖に入り一匹のダーティフィッシュを捕らえ、陸上に放り出し、剣を突き刺す。
「うへぇ、臭いわねこの魚。」
「この匂いが名前の由来ですからね。さて、」
〈センソリシェア〉
ダーティフィッシュの感覚を共有する事で特性を調べる。その感覚を覚え、デコイでダーティフィッシュのみを引き寄せる。大香が興味津々でこちらを見ている。
『属性付与・雷』
「稲妻振動!」
叶詩は剣を水上に突き刺した。水中に大きな電流が生じ、バチバチ音が響く。するとダーティフィッシュが大量にプカプカと浮いてきた。そして感電したダーティフィッシュを陸上に上げ、炎で処理を行った。
「この魚食べられたらいいのにね。」
「そうですね。ダーティフィッシュは味は不味いと言われており、さらに沢山の寄生虫がついてるとか…」
「食べてもいい事なさそうだね。」
「さて帰りましょうか。」
「うん!移動にとても時間がかかったのに依頼自体はあっという間だったね。」
「はい、移動の時間がもったいなく感じます。」
「そうだね。移動に便利なモンスターが欲しいね。」
「ですがそれはそれでお世話とかも大変そうですよね。」
「そうだ!二人でお金を貯めて移動用のモンスターを買おうよ!そうしたら討伐依頼に行ける幅も広がるし!」
「うーん。確かにそうですが…一体いくらかかるのでしょう。」
「とりあえず見に行くだけ見に行ってみようよ!イシクルの街にお店があるからさ!」
「そうですね。行きましょう。」
二人は二時間近くかけてイシクルの街に戻り、その足で移動用のモンスターが購入できるお店へと向かった。
「一番安いので五十万ゴールド…でもこの子は長距離の移動に不向きだから…。」
「ならこの子ですかね。どうやら百五十万ゴールドが最低でも必要な様ですよ…」
「馬って結構高いんだね…」
私の全資金は十万ゴールド、全く足りない。
「じゃあこれから毎日近場で討伐依頼を沢山受けてちょっとずつ二人で貯めていこうよ!」
「えぇ、そうですね。あとで一度お金の使い道を見直してみましょう。」
「まずは酒場へ依頼達成の報告にいきましょう!」
馬を買うなんて考えた事なかった。確かにいればとても便利だ。欲を言えばグリフォンの様な空が飛べる様なモンスターが欲しいがおそらく馬の十倍の値はつくだろう…
「あら、おかえりなさい!報酬は振り込んでおくわね!」
十五分で終わる依頼のために往復四時間の移動…報酬は1500ゴールド。割りに合わない。そんなことを考えているとますます馬が欲しくなった。用事を終えた二人は家に帰った。
「さて、お金の使い道についてはなそうか。」
「えぇ。まず私の収入なのですが、週に五日ほど討伐依頼を受けて大体一万五千ゴールドなので、月に大体六万ゴールドです。」
「え…6万…?よくそれだけの収入で生きてこれたわね…」
「だから野宿していたのです。」
「そ、そっか。確かクエストは一度に三つまで受ける事ができたわよね?なら二人で一度に六つまで受ける事が出来るから、大体報酬が千ゴールドの物を受けて毎日一万ゴールドずつかせいでいこう!」
「一日一万ゴールド…二人なら何とかなりそうですね。報酬は半分ずつで、毎日 千ゴールドずつ貯めていきましょうか。」
「そうだね!そうすると毎日二千ゴールド貯まるとして、週に五日のペースでこなせば月に四万ゴールドだから…。」
「三十七ヶ月…。」
「遠いね…気長に頑張ろうか…。」
二人は馬を買うために貯金を始めることとなった。