第3話 見た目と強さは関係ない!
アルマディアを倒した翌朝も昨日と同じ時間に大香が起こしに来てくれた。すると
「きゃー!」
という悲鳴が聞こえると同時に大香が抱きついてきた。
「こんどはなにごとなの?」
「叶詩ちゃんかわいい!」
一体どうしたのだろう。姿が戻ったのかな?それにしてもこの驚き様…。そして抱きついたまま離れてくれない。
「はるか、おはよう。どうしたの?」
「かわいい〜!」
だめだ、ちっとも話にならない。
「かおあらいたいからどいて!」
退かない大香を強引に引きずって洗面台までたどり着く。そしてまた鏡を見ようと思った時にようやく気づいた。鏡が見えない。身長が縮んでいるではないか!
「やれやれ、はるか、あしばちょうだい!」
私はちっとも話を聞いてくれない大香を足場にする事にした。
「こんどはおさなくなったのか。」
〈今日は討伐依頼を受けるのは無理そうだな…いや、この身体で大香を引きずることができているということは案外馬鹿力なのでは!?〉
叶詩は試しにこの街最弱のネズミ型モンスターのディッチュウを倒しに行く事にした。大香の絡みが面倒なので一人で行くと言ったら心配だからと一緒に着いてきてしまった。
〈まぁ、ディッチュウ程度なら危険なことも少ないだろう。でも、地下水路ってやっぱり臭う。そう言えば大香の戦闘力はどれくらいなのだろう…アデル山に一人で行ける程なら少しは戦えるんだろうけど。〉
そんなことを考えているとディッチュウの群に遭遇した。試しに殴ってみる。すると強力なソニックウェーブが発生し、ディッチュウ達はひとたまりも無く吹き飛んだ。
「わぁ、そうていがい…」
「叶詩ちゃんすごいでちゅね!」
〈うん、本当に怠い…〉
「ねぇ、はるかってどれくらいたたかえるの?」
「どうしたの?急に。」
「はじめてあったとき、あでるざんにひとりできてたでしょ?だからどれくらいせんとうりょくがあるのかなっておもったの。」
「なるほどね!私が得意なのは魔法だよ!そうだ!ここで見せてあげるね!」
〈魔法か…あまり詳しくないからどれくらいのことができたらすごいとかよく分からないけどちょっと楽しみ!〉
『雷神よ!我に力を!閃電殷雷響かせて 今 万雷を成す!』
「あわわ!たんまたんま!これだいじょうぶなの!?ちかすいろこわしちゃわない!?そもそもこんなせまいところでつかってm…」
「最大雷撃‼︎」
「きゃー!!!」
大香が魔法を唱えた刹那、薄暗い地下水路は一瞬にして光に包まれて、言葉では表現できないほどのバリバリという音を立ててなんかとんでもない事になった。魔法が収まると大香がこちらを見てどうですか!と言わんばかりのドヤ顔をしていた。
「しぬかとおもった!」
「つい張り切っちゃいました!てへっ」
「これがまほうか…ってあれ?こんなことできたのならきのうなんでつかってくれなかったの!?」
「いやぁ、叶詩ちゃんの活躍を見たいなーと思いまして、てへっ」
〈あれ?大香って私よりも遥かに強いんじゃない?なんで冒険者登録してないの?これだけ強ければランクA級とかいけるやつだよね…?なんか冒険者としての自信なくなってきた…〉
「どうしたの?」
不思議そうな顔でこちらを見てきた。悪気は無いのだろうけど…。私は眉間に皺を寄せて 別に とだけ応えた。
「ちからもためすことができたしかえろう!おなかすいちゃった!」
「そうだね!美味しいパン屋さんを知ってるからそこへ行こうか。」
パン屋さんへ向かう途中、大香は忘れ物を取りに行くと言って一度帰って行った。私は一足先にパン屋さんに向かう事にした。その道中、背後から何者かに袋を被せられ縛られてしまった。あまりにとっさの事で対応できずあっさりと捕まってしまった。
「ぐへへ、こいつぁ高く売れそうっすねアニキ!」
「あぁ、とりあえずさっさと連れてくぞ!しっかり口を塞いでおけ!」
どうやら二人組らしい。軽々と馬車に乗せられてしまった。そう、誘拐されてしまったのだ。こんな姿になったせいで酷い目に遭ってしまった。どうすることもできない!ピンチである。しかし十分ほど経った頃だろうか。誘拐犯が突然焦りだしたのだ。
「あ、アニキ!後ろからすごいスピードで走っててくる奴がいます!」
「何を言ってるんだ?走ってくる?こっちは馬車だぞ!?」
「間違いありません!もう追いつかれます!」
すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「私の娘を返せぇ!」
あぁ、大香だ。娘が誰のことかと突っ込みたいが今はそれどころでは無い。
『風神よ!我に力を!風雲の時を見極めて颯爽と出でる龍の如くっ』
あ、見えなくてもわかるこの感覚。間違いなく私も吹き飛ぶ奴だ…
「最大竜巻!!」
詠唱が終わると同時に馬車の積荷がバキバキと音を立てて宙に舞った。誘拐犯も、もちろん私も。
目隠しされた状態で放り出され、地面に叩きつけられる衝撃に備えたがその必要は無かったようだ。大香が優しく受け止めてくれた。
「はるか、ありがとう!」
「無事で良かった!」
誘拐犯たちは地面に叩きつけられ伸びていた。その後衛兵がやってきて二人組は連行されて行った。
「どうしてここがわかったの?」
「私はサーチ魔法が使えるの。叶詩が突然スピードを上げて走りだしたから不思議に思ってとんできたの!」
〈一体ほんとに大香って何もの何だろう…〉
「さぁ!パン屋さんへ行こうか!」
二人は朝食を求めパン屋さんを目指して歩きだした。