第15話 城主が居ない?ならば私が!
「小娘…無理ばかりしよって。大切な人を失った時の悲しみがどれほどのものか分からぬのか…。」
ケルベロスは寝ている叶詩をじっと見つめる。
「どんな状況であれ、せめて心配くらいはさせてあげるべきだ。とは言え、サモクレーヌを倒すとはな。お疲れさん。」
『癒心灯火』
そう言って叶詩に回復の魔法を使う。
「おやおやケルベロス。私は罰を与えるためにこの世界に君を送り込んだつもりだったが、何だか満喫してるみたいだねぇ。」
「アヌビス様!?一体どうされたのですか!?」
「ケルベロスがどうしてるかなと気になって来ただけだ。まさか地獄の番犬ともあろう君がペットをやってるなんてねぇ。」
「揶揄わないでくださいっ!一生の不覚です…。」
「残念だけどこの二人はどうやらこの先すぐ死んでしまうんだ。」
「分かっています…。私にも死期くらいは見えますから。せめてこの先何が起きるのか見届けたいと思いまして。」
「そうか。ただ情を持ちすぎちゃぁイケナイ。」
「何もかもお見通しなのですね。私は成し遂げたい事があるんです。」
「君がしたい様にすればいいさ。」
アヌビス様は微笑む。
「意外な事を仰いますね…。何を成し遂げたいのか聞かないのですか?」
「それはまた今度話してくれれば良いさ。それじゃ私は帰るよ。またね。」
そう言ってアヌビスは姿を消した。
「叶詩ちゃんおはよう!!」
大香は私を見るなりいきなり叫びながら飛びついてくる。前にもこんなことがあったな。
「おはよう大香。今日の私は一体どうなってるの?」
「とても可愛いわよ!ケモミミともふもふの尻尾!」
どうやら獣人になっているみたいだ。
「そうだ…。昨日はすごく疲れているみたいだったけど大丈夫?」
「あぁ。信じられないくらいに体が軽いよ。」
すると突然、玄関の扉が叩かれる。
「こんな朝早くからなんだろう?」
大香が玄関へ赴き、扉を開けるとそこには鎧を纏った兵士が立っていた。
「王からの伝言だ。至急ケルメスの街の王宮まで来る様に、との事だ。」
それだけ伝えると兵士は去っていった。
「王様が?一体どうしたんだろう?」
「ねぇ、これって行かないといけないの?」
「王様の命令だからね…。」
叶詩ちゃんは渋々ケルメスの街へ向かうことにした様だ。
「ケルメスってそもそも何処?」
「エルヤの西側だよ。」
「めんどくさいなぁ〜。さっさと行って済ませよ。」
私達は最低限の準備を済ませ、エルヤ地区の西部に空間移動し、ケルメスを目指した。
「見えてきたわよ!あれがケルメスの街よ!」
「へー。」
相変わらず怠そうにしている。王宮の前に立っていた兵士に事情を話し、応接室へと案内される。それから何時間も立ってようやく王が姿を現す。
「さて、ワシが何故貴様等を呼んだのか分かるか?」
これだけ待たせておいて一つの謝罪も無しかよ。
「心当たりがないです〜。」
「そうか。ならば教えてやる。ワシは腹を立てとるんじゃっ!」
「はい?私何かしました?」
「ふざけた耳を付けよって。ワシの前に出向くと分かっておきながらなんだそのみすぼらしい格好は。」
「これ本物の耳なんですが?そんなことより早く本題をどうぞ。」
(か、叶詩ちゃん…頼むからおさえて…。)
「さっきから舐めた態度を取りおって!まぁいい。ワシが何故腹を立てとるか…それはなぁ、魔王軍四天王を倒すほどの力がありながら、今まで動かなかったことだ!」
「はい?」
王が意味のわからないことを言ってくる。
「今すぐ貴様等には魔王軍討伐部隊の軍隊に入ってもらう。いいか、これは命令だ!」
理不尽な王の言葉に私達は唖然とする。しばらくして叶詩が口を開く。
「拒否します。」
周りがざわつく。
「拒否…だと?それは反逆と捉えて良いのか?」
「反逆どうこうの話ではありません。私達は軍隊に入る気がないだけです。」
「そうか、ならば貴様等を死刑とす。此奴等を捕らえよ!」
「これだから苦労せずに生きて来た奴は…。」
(あわわ、大変なことになった。叶詩ちゃん余計なことを!)
私達は急いで空間移動で家に戻る。
「き、消えただと!?あんな化け物を野放しにしていてはワシに危険が及ぶ!まだこの辺に居るはずだ!さっさと捕らえよ!」
「王様クズだったね。」
「こ、これからどうするの叶詩ちゃん!」
「どうしようか、王様でも殺す?」
「それはもっとやばいよ!とりあえずケルベロスさん連れて逃げましょ!」
「何処へ?」
「任せるわ!」
私達はひとまずサモクレーヌのお城へ避難した。
「な、何者だ!?」
するとサモクレーヌの手下に出くわした。
「どうして此処なのよ!危険でしょ!」
「だって任せるって言ってたじゃん!それにここ豪華だし…。」
「き、貴様、サモクレーヌ様を殺した忍か!?」
「とりあえずお掃除しなきゃだね。とりあえずこのお城の敵全部此処に集めちゃうから一掃してくれる?」
「ま、待ってくれ!我らはもう戦う気は無い!どうか見逃してくれないか!?」
「そんなの信用できる訳ないから殺すわね!」
「サモクレーヌ様を倒すほどの者に敵うはずが無いと分かっていながら戦いを仕掛けるバカではありません!どうかお願い致します!」
そう言って魔物達が頭を下げる。
「本当に…?ならあんた達全員に奴隷の首輪を付けさせてくれるならば許す。」
「ならばそうしてくれ。」
「だって、大香。それで良い?」
「予想外の行動に戸惑ってるんだけど…。か、叶詩ちゃんがいいならいいわよ。」
「じゃ、それで。ただ首輪が無いから取ってくるね。」
「魔王城に近づくに連れて知能も上がるとは知っておったが、良い選択をしたな。」
「!?…ケルベロス…様!?」
「ふんっ、いろいろあってな。」
しばらくして叶詩ちゃんが戻ってくる。
「ちょっと!私を一人にしないでよ!」
「大丈夫!大香はゴリラだし、地獄のわんちゃんもいたでしょ!」
「ゴリラとはなによっ!叶詩ちゃんだってわんちゃんの癖に!」
「なにをぉっ!」
やれやれ、よっぽどこの二人よりも魔獣の方が賢そうに見える。
「これ、さっさと此奴等に首輪をつけて回らんか。」
「そうだった!結構数いるなぁ。」
何十分かかけて、城に居る全ての魔物に首輪をつけ終える。
「八十体!?そんなに居たのか。まずは皆んな、聞いてくれ。皆さんの仲間を沢山殺してしまったことを謝罪します。申し訳ございませんでした。」
「仕方のない事です。私達も貴女を殺そうとしていたのですから。ですが貴女は私達を助けてくれたのですから。」
(あれ…悪い奴らじゃない…。)
「ありがとう。ではまず今から言う事を守って貰う。これは命令だ。もし反く様なことがあれば、君達の身体に害が及ぶ様になっている。まず一つ。私達は訳あってこれからここに滞在させて貰う。この事を他の魔物に口外しない事。」
「で、ですがこの首輪を見られたら気づかれてしまうのでは…?」
「なるほど…。大香、この首輪を他の者には見えない様にする事は出来るか?」
「えぇ、問題ないわ。」
「よし、じゃ二つ目だ。私達を攻撃しない事。こちらも裏切ろうとしてこない限り、こちらから手を出す事はしない。約束しよう。」
魔物達が頷く。
「そして最後。情報を共有してほしい。魔王軍に動きがあったり、人間が攻めて来たりしたら教えてくれ。」
「分かりました。私達は必ずその命令を守ります。」
「理解が早くて助かる。これからよろしくね。」
私達は何かが起きてもすぐに逃げられる様、最上階をメインにつかうことにした。
「一時はどうなるかと思ったよ…。」
「まさか人間が敵になるなんてね。王の言うことがちっとも理解できないし。」
「たしかに、叶詩ちゃんの気持ちはよくわかるわ。」
「あんたら、いったい何をやらかしてきたんだ…?」
ケルベロスに事情を話すと私の行動に共感してくれた。
「大香、また迷惑をかけちゃったね。ごめん…。」
「大丈夫よ!でもこうなったら魔王を倒すしか無いのかしらね…。それでも王様が許してくれなかったらもう殺そっか!」
(あれ…?何だか大香、口悪くなってない…?)
「冗談よ!とりあえずこのお城の案内をしてもらいましょうよ!」
「こちらが浴場です。」
「すごい広いね!」
魔物がお城を案内してくれる。不思議な感じだ。
「食材も揃っておりますので後ほど食事をお持ちしますね。お先に入浴を済ませてください。」
「ありがとう。」
私と大香とケルベロスは大浴場へ向かう。
「どうしてわんちゃんもついてくるの?」
「別に良いだろ。人間に発情なんかしねえぜ。」
「そうかもだけど…。ま、今日ぐらいいっか。」
「にしても本当に広いわね…。」
「魔獣達優しいね。」
「あぁ、だが油断はするなよ。俺は睡眠を必要としないから見張っといてやるよ。」
「ありがとう。それは助かるわ。」
風呂から上がると食事が用意されていた。
(大香、毒は盛られてない?)
(えぇ、大丈夫みたい。)
なんだかんだで魔獣と一緒だと思うと疲れるな…
「もうこんな時間…。今日はゆっくり休んで明日いろいろ考えようか。」
「そうね、ケルベロスさん、見張りお願いしますね!」
「任せておけ。」
「おやすみなさい。」
(二人の死に今日のことは関係あるのだろうか。俺の力じゃ二人の死を回避させる事は出来ないだろう…。だからせめて、残りの時間を幸せに過ごさせてやりたい…。それが俺の成し遂げたい事だ。)