第14話 どうして一人で…
私は朝早く、クレマスディールへ空間移動をした。薄暗い牢屋の周りを見渡す限り、見張りはいない様だ。私は再び空間移動をし、鉄格子の外へでた。この牢屋は今は使われていないのか、見張りどころか囚人もいないのか。しばらく歩いて分かったのは此処が地下だと言うことだけ。階段を見つけたのでとりあえず上がってみる。地下を出るとそこはまるで豪華な旅館の様な明るい廊下が続いていた。
(私がやるべきことはサモクレーヌの討伐だ。ただ奴と消滅から戦っては正直勝てるかわからない。そのためにまずは魔物に見つからない様、奴の居場所を探さなければならない。)
すぐ近くに二体の魔物の気配がする。私は息を殺して静かに背後をとり、気付かれない様に二体の首を鎌で刈る。血が床に垂れる前にその遺体を空間移動で地下牢に送る。
(おそらく今日の職業〈忍〉はサモクレーヌを殺るのに最適性だろう。だから失敗は許されない。何者にも見つからず奴に辿り着き、一撃で仕留めなくてはならい。)
この時間でもまだ寝てる魔物もいる様だ…。こいつらを倒すのはリスクが高い、長居は無用。
(まるでお城に一人で乗り込んでいるようだ。音を立てずに殺すのは時間は掛かるがおそらくこの手段が最も効率的だろう…)
急に背後から敵が近付いて来る気配がした。私は慌てて天井に張り付く。
(っ!…危なかった。全方位に意識を集中させなければ…)
敵が私に気付数に通り過ぎようとするタイミングで天井から落下しながら首を刈って牢屋へと送り、静かに着地をする。
(にしてもこの建物…。広すぎる。見た限りでは上に続く階段があったな。この階に奴は居ないようだし、上へ行こう。)
階段を上がってすぐ、襖の向こうで魔物達の声がする。その数およそ十体は居るみたいだ。
(此処は倒すべきか…。ここでこれだけでも数を減らしておけば後の為になるかもしれない。やはり先程の寝ている奴らも倒しておけばよかったか…。)
私は先程倒した魔物に変身し、襖を開ける。
「おう、どうした。ちゃんと一階の見張りやってるんだろうな?」
「ケルベロス様とガナビール様倒した奴をここに入れた時からサモクレーヌ様はとても恐れているからな。」
「そりゃ仕方ないよな。空間移動を自らなるかの力で使えるかもしれないんだろ?いつ襲われるかわからないからな。」
「で、ちゃんと見回りはしてるんだろうな…?おい、お前なんか匂わねえか?」
(やはり変身は見破られてしまうか…。)
私は懐から球を取り出して勢いよく地面に投げ、空間移動でこの部屋を出る。
「な、なんだ!?」
「特に何も起きないな…?とりあえずサモクレーヌ様に報k…」
「お、おい!どうし…」
魔物達は次々とその場に倒れ込む。先程投げつけた球の中には、空気に触れると強い眠気を誘うガスを発生させる薬品を仕組んでおいた。私は眠っている魔物を殺し、牢屋へと送る。
どうやら今の騒ぎに気付かれては居ない様だ。私は再び二階の探索を始める。
(嗅覚の優れていそうな奴には注意が必要だな。遠距離からの攻撃も必要か。あれ…よく考えたらこう言う時って大体大正は最上階に居そうだよな。)
私は窓から外に出て、上を見上げる。
(全部で十二階層!?これを各階をしらみ潰しに調べてたんじゃ時間が足りない!このまま最上階まで登ろう。)
私は外から壁をよじ登り十二階に辿り着く。念入りに窓の中を見て敵がいないことを確認すると、空間移動で中へ侵入する。
(魔物の気配がそこら中からする…。やはりこの階にいそうだな。)
先程と同じ様に音を立てずに敵を殺しては牢屋へ送る行動を繰り返す。しかしここで敵を倒しすぎてしまっても敵は違和感を感じてしまうだろう。これまで以上に慎重に、気配を消して倒さずに進むのが得策か。
(うぅ、とはいってもこのままじゃ動きが制限される。やはり殺して行くしか無いか…。)
しばらく探索していると、これまでとは明らかに雰囲気の違う扉があった。
(間違い、ここから強力な気配を感じる…。奴は間違いなくここにいる。)
しかし、この扉を開ければ間違いなく気付かれてしまうだろう。仕方なく出来るだけ気配を消し扉が開かれるのを待つことにした。
待つこと二十分、見張りの魔物が扉を開けて中へ入って行く。
(よし、見えた!)
私は部屋の中をしっかりと確認した。そこにはサモクレーヌの姿もあった。私は部屋の侵入に成功した。
(此処までは計画通り…だが、サモクレーヌを一撃で殺るにはどうしたら…。この距離ならあの技で倒せるだろう…しかし問題は的確に急所を着けるかどうか…。此処まできたんだ!やるしか無い!)
しかし、この技を放つには時間がかかり、また間違いなく気付かれてしまう…。
(そうか!こうすればいいのか!)
私は一度家に戻る。すると大香が泣きながら抱きついてきた。
「叶詩ちゃん…!サモクレーヌの元へ向かってたんでしょう!?私も連れて行くって約束したわよね!?どうして一人で言っちゃうの…?」
「すまない大香、今回は一人で行くしか方法がなかったんだ…。」
「だとしても!せめて討伐へ向かう事くらい教えてよ…。どれだけ心配したと思ってるの!?」
「本当にすまない…。私はもう一度サモクレーヌの元へ向かう。」
大香はもう一度私を強く抱きしめる。
「…分かったわ。気をつけてね…。絶対に帰ってきてね!」
「あぁ…。」
そう言って私は一度の攻撃で仕留める準備を始める。
〈武器強化〉
先程の鎌が禍々しいオーラを纏う。
〈属性付与・光〉
〈身体強化〉
〈力込溜〉
「大香、それじゃ行ってくる。」
「行ってらっしゃい!」
大香が笑顔で見送る。
「あぁ、すぐ戻る。」
私はすぐに攻撃に入れる体制になり、空間移動をする。するとサモクレーヌは直ぐにこちらに気づく。
「なっ!貴様!どこから来やがった!」
慌てて魔法を放ってきた。私は空間移動でサモクレーヌの背後に回り込み、全力で攻撃を放つ。
〈首刈奪忍技!!」
「ぐあぁぁぁあああああっ!」
私の放った攻撃により、サモクレーヌの体と頭を切り離す。
「…まさか、こんな早くに討伐に来やがるとはな…。油断していたつもりは無かったがこれまでに強いとはな…。まさか俺が一撃でやられるとはな…敵ながら見事…。」
「サモクレーヌ…討ち取ったり。」
私は近くにあった水晶球を破壊し、家に戻った。
「おかえりなさい。」
泣きそうな声で大香が出迎える。その声を聞き、緊張が解れた私は力が抜けてその場に崩れ落ちそうになる。
「大丈夫!?」
慌てて大香が受け止める。
「あぁ、ありがとう。ただいま。」
私はそれだけ言ってそのまま大香の胸の中で眠りについてしまった。
「叶詩ちゃん…。お疲れ様。無事に帰ってきてくれてよかった…。本当に良かったよ…。ゆっくり休んでね。」
大香は涙を流しながら叶詩をしばらく抱きしめていた。