第11話 私以外と楽しく話さないで…
外が明るい…そろそろ起きなきゃ。私は体を起こす。隣には寝息を立てて眠る叶詩ちゃんの姿があった。
「叶詩ちゃん、朝だy…。」
あれ?どうして叶詩ちゃんがとなりに!?いつのまに!?
「…あ、大香。おはよ。」
叶詩ちゃんがずっと私の手を握っていたからか腕があかくなっていた。
「おはよう!で、どうしてここにいるの!?」
「どうしてって…大香の事が大好きだからだよ?」
「大好きって…?」
「そのままの意味だよ!何当たり前なこと聞いてるの?そうだ!お腹空いてるでしょ?すぐご飯作ってあげるからね!」
「いいよ!私がやるから!」
「大丈夫!ゆっくりしてて!」
そう言って張り切って行ってしまった。
(お願いだから自分でやらせて…。)
私は仕方なくテーブルで待っていると予想通りのモノが運ばれてきた。
「はい、召し上がれっ!」
「あ…ありがとう。いただきます。」
(パンが可哀想…。)
「どぉ?美味しい?」
「う、うん!美味しいよ…?」
「そうだ、聞きたい事があったんだぁ〜。この前大香が私のこと大好きって言ってくれたよね?私の何処が好きなの?私は大香の全てが好きだよ!目も手も髪も!いつまででも一緒だよ!大香がいれば何もいらない!ね!私の気持ちわかってくれるよね!?大好きって言ってくれたもんね!ね!」
(今日はヤンデレ叶詩ちゃんか…。なんて返したらいいんだろう…)
「え…えぇと、私も叶詩ちゃんと一緒にいるととても楽しいよ!」
叶詩ちゃんは嬉しそうに笑った。これでうまく返せたのかな…。とにかく話題を変えなきゃ。
「今日も討伐依頼受ける?」
「大金貰ったからもう働かなくても大丈夫だよ!大香も養ってあげるね!だからずっと一緒にいてね!なんでも欲しいもの買ってあげるからね!これからもっと楽しい思い出を作っていこうね!」
うぅ…重い。
「た、大金って言っても一生遊んで暮らせるほどじゃないでしょ?だからこれからのためにもしっかりと稼がないとね!」
「えぇ〜、こんなにいっぱいあっても足りないんだ…。じゃあ討伐依頼いこっか!準備してくる〜!」
よ、よかった…。私も準備しなきゃ。
「さて!行こっか!早く靴を履いて!」
私が靴を履くと叶詩ちゃんが腕にしがみついて来た。その瞬間目の前の景色が変わる。
「お!英雄が来たぜ!」
「この娘が四天王を倒したと言う噂の…?」
ぞろぞろと何人かが近づいてくる。
「私に近づかないで!私は大香しか興味ないの。」
「ストイックだなぁ」
そう言って寄ってきて人たちが笑う。
あれ…?一瞬で酒場ついちゃったんだけど…。
「叶詩ちゃん、ちょっとどう言うこと?なんで今日もその力が使えるの?」
「分かんないけど使えた。」
なるほど、それで朝私の布団に入って来たのか。この力は叶詩ちゃんが元々持っていた力なのかな?
「それより大香、今日は何を受けるの?」
「あ、うん。キルミシア丘にいるラットイーターはどうかしら?」
「ラットイーター?」
「植物型のモンスターで、蔓で獲物を捕らえてそれを養分にしちゃうのよ。成長しすぎると人をも呑み込んでしまう危険な植物よ。」
「よく分かんないけどそれでいいや。」
「じゃあこれにしよっか!」
私達は依頼を受ける手続きのため、梨乃の元へ向かう。
「おはよう、聞いたよ叶詩!また四天王を倒したんだって!?しかも一発で!?」
「そうなのよ!急に森を焼き尽くしてとんでもない魔法をブッパなして…」
「もっと詳しく聞かせてよ!」
「……ってことがあってね!あ、それかっいたたたたっ!」
話が盛り上がってつい夢中で話し込んでしまった。その事に嫉妬したのか叶詩ちゃんがつねってきた。
「あ、ごめんね!そろそろ行ってくるね!」
「はーい!気をつけてね!」
私達はキルミシア丘を目指す。
「ねぇ、どうして私以外の人とあんなに楽しそうに喋ってたの…?どうして?ねぇ!私のこと大好きって言ってくれたよね?なのにどおして!」
「ごめんね、ちょっと盛り上がっちゃって…。」
「次私以外の人と楽しそうに喋ってたら大香のお口をこれで縫い付けるからね?」
そう言って何処からか針と糸を取り出した。
「は、はいっ!もう二度としません!」
今日はこの依頼が終わったら家で大人しくしてよ…
キルミシア丘に入ると巨大な植物が沢山生えている。
「歩きにくいね、せめて道ぐらい作って欲しいわよね?。」
「そうだね…虫もいっぱいいてキモチワルイ…。早く済ませて帰りたいよ。」
「前来た時はもっとマシだった気がするんだけどな…。」
「また魔法が使えたらこの丘ごと燃やしてやるのに…。」
「無闇に燃やしちゃダメよ!?街も近いんだからね!」
今の叶詩ちゃんは本気で言ってるのか冗談なのか分からないから怖い。
「で、依頼の植物は何処にいるの?」
「案外そこら辺にいたりするから注意してね!あら?何かしらこの蔦は。」
突如大香の体に幾つかの蔓が巻きついてきた。その蔓に絡まり身動きが取れなくなる。
「きゃぁっ!」
次の瞬間その蔓に引っ張られはじめ、紫色の花の中へと飲み込まれてしまった。
「大香!?これがその植物…?」
すると今度は叶詩を目掛けて蔓を伸ばしてきた。
「…くも…。よくも私の大香をっ!」
叶詩は二本のナイフを取り出して目に見えないほどの手捌きでラットイーターを刻んでいく。
「ウグギギギァアアッ」
ラットイーターから音なのか声なのかが聞こえてくる。すると胃袋のようなものが見え、人のシルエットがうっすらと確認できた。
「大香っ!」
中の大香を傷つけないように胃袋のようなものを切り破る。
「ぷはぁっ、油断したわ。ありがとう叶詩ちゃん!」
すると中から所々服がやぶれ、肌が赤くなった状態で大香が出てきた。
「大丈夫!?」
「ちょっとヒリヒリするけど大丈夫よ!うへぇ、体中がドロドロ…。まさかこんなに成長したラットイーターがいるなんて…。これじゃヒューマンイーターね…」
すると叶詩ちゃんは険しい顔になり、デコイを使い出した。
「叶詩ちゃん!?何してるの!?」
すると大量のラットイーターが姿を表した。
『浮遊小刀』
無数のナイフが現れ、叶詩ちゃんの周りを浮遊する。
『威力強化』
『ダブル』
『属性付与・火』
すると今度は幾つかのバフをかける。
〈旋回斬刻!!〉
浮遊している刃物が高速で回転し始め、それぞれに意思があるかのようにラットイーターを刻んで行く。辺りには緑色の液体やら蔓やらが飛び散らかる。
「大香を傷付けるやつは絶対に許さないっ!」
あっという間に寄ってきた全てのラットイーターを一掃してしまった。
「大香!大丈夫っ!?」
どうやらこのドロドロした液体はとても強力な酸のようで服や皮膚がどんどん溶けていく。
「すぐに帰ろう!」
叶詩は大香を抱き抱えすぐに空間移動し、家に帰る。そのまま大香を浴槽に入れてお湯を溜め始める。顔を歪めながら大香がお礼を言う。
「少し待っててね!」
そう言って叶詩ちゃんが目の前から消えたと思ったらすぐに何故か全裸で大量の薬草を抱えてきた。よく見ると私を抱えてたからか叶詩ちゃんの手も真っ赤になっていた。
「効果あるか分からないけどとりあえず浴槽に入れてみるね!」
すると薬草を持ったまま浴槽に飛び込んできた。
「ごめんね、叶詩ちゃんまで怪我しちゃったね…。」
「ううん、大香が無事でよかったよ!私大香の事大好きだからこの程度なんともないよ!それに大香が傷つくのはいやだもん!」
「私も叶詩ちゃんが傷つくのは嫌だよ。」
「それにしてもこの薬草すごいね!もう腫れがおまさり始めてる!傷痕残らないといいね!私は傷痕が付いたくらいで大香を思う気持ちはちっとも変わらないけどね!」
そう言って抱きついてきた。
風呂から上がるとすっかり傷は無くなっていた。
「じゃ、依頼達成の報告してくるね!」
そう言って叶詩ちゃんの姿が消えた。
「まって叶詩ちゃん!服を…。」