第10話 くん煙で一網打尽!みたいな?
「叶詩ちゃん朝だよ〜。」
私は呼びかけながらリビングへ向かう。
「あれ!?朝食ができてる!?」
テーブルの上に置かれている手紙を見つけ、目を通す。
「大香へ。討伐に行ってきます、朝食は私が作ったから食べてね。」
叶詩ちゃん…成長したのね…。私は席に着いてトーストを見る。真っ黒だ…。焦げたトーストに焦げた卵、焦げたベーコンに冷え切ったスープ…。あと床に土が落ちてる…一体何したんだろう。」
「せ、せっかく叶詩ちゃんが私のために作ってくれたんだし、頂こうかな。戴きます。」
うっ…。どうして焼くだけの手間でこんなに不味い物が作れるのだろう…。ある意味才能ね…。
「ケルベロスさんおはよう〜、朝食があまっちゃったんだけど食べない?」
「あぁ、俺は別に食べなくても問題ないが。くれると言うのならせっかくだから頂こう。」
さて、トースト作ってこよっと♪
「人間ってこんな不味いもの食べてたのか…。」
外からそんな声が聞こえてきた。
『サーチ』
「叶詩ちゃんの居場所は…えっ!?オルミナ湖!?ここから二時間はかかるのに!?…。一体何時におきたんだろう…。」
朝食を済ませ、私はケルベロスにお願いして、叶詩ちゃんの元へ向かう。
「すごい…たったの二十分で到着しちゃった…。」
「あれ?大香も来たんだ?」
「あ、叶詩ちゃん!おはよう〜。」
「おはよう。どうしたの?」
「叶詩ちゃんが早起きまでして討伐依頼を受けるなんて珍しいなーと思って来てみたの!」
すると叶詩ちゃんはなんだか楽しそうに笑った。
「ねぇ、大香!見てて!」
『炎弾丸‼︎」
叶詩ちゃんは初級魔法を唱えて誇らしげな顔をした。いったいなにが言いたいのだろう…?
「私、魔法が使えるの!」
「この前も属性付与とか使ってたよね?。」
「付与魔法じゃなくて攻撃魔法を使うのは初めてなのっ!私ずっと魔法に憧れてたんだ〜!」
そう言いながら叶詩ちゃんはデタラメに魔法を放ちまくる。
「そんなに魔法使ったら魔力が尽きてすぐ動けなくなっちゃうよ!?」
「心配は無用だよ!ジャーン!」
そう言うと何処からか魔篭石を取り出す。これは術者の代わりに、この石に秘められた魔力を消費し魔法を放つことが出来るアイテムだ。
「こーんなにいっぱいあるからいくら使ってもヘッチャラだよ!」
「そ、そんなに買ったの!?もっとお金は計画的に…」
そう言うと再び得意げな顔をして、冒険者カードを見せつけてきた。そこには所持金が…
「ご、五十七万!?」
「えへへ。」
「か、叶詩ちゃん、遂に非行に走ったのね…」
「もうっ!違うよ!討伐依頼を大量に受けただけだよ!」
「もういいのよ…私も着いていってあげるから一緒に謝りに行こう…。」
「だからっ!悪いことはしてないんだって!」
「依頼を何回も受けるってこんな遠くまできてそんなことできるわけないじゃない!ケルベロスさんも家にいたんだし!」
「そうだぞ小娘、嘘はいかん。」
「二人とも酷いよ…。あ、依頼達成したから報告行ってくるね!」
すると突然、叶詩ちゃんは私達の目の前から消えた。
「あ、あれ!?叶詩ちゃん!?」
「小娘!?何処へ消えた!?」
私達が戸惑っていると今度は急に私達の目の前に現れた。
「ただいま〜。」
「い、今のはなんなの!?なにが起きたの!?」
「よくわかんないけど、瞬間的に行きたいところに行けるの!ただ、一度見たことがあるところっていう条件はあるけどね!朝早くにおしっこに行きたくなってトイレを頭に思い浮かべたら気づいたらトイレに立ってたの!」
な、なにそれ…。聞いたこともない。
「それでね、冒険者カードを確認したら〈魔法使い〉って書いてあって!嬉しくなって討伐クエストを受けようと考えてたら、気づいたら酒場にいたの!まだパンツあげてなかったから恥ずかしかったよ!」
「え、えぇと…つまりその力を利用して稼ぎまくってたってこと!?」
「そうそう!でも途中でご飯食べてない事に気づいて、家に戻ってまた出かけたの!もちろんこの力を使って!」
ま、まだ信じられない…。そんなことがあり得るのかな?
「ね、ねぇ叶詩ちゃん、私も一緒にそに力で移動できるのかな?」
「わからないけど試して見る?」
「うん、お願い!」
「じゃ、とりあえずお家に帰ろう!」
私は叶詩ちゃんと手を繋ぐ。すると一瞬で周りの景色がかわる。
「着いたよ!」
私達はリビングに立っていた。
「ほ、本当に一瞬で…。」
「えへへ、信じてくれた?」
「うん…っあ!土足じゃん!」
「あ、忘れてた…。」
なるほど、床の土はそう言うことだったのか…。
「あれ…他にも何か忘れてることがある気がする…。気のせいかな?」
「…俺は走って帰れと?」
「それにしても本当にすごい力だね!」
「うん!そうだ大香!何か強いモンスターがいるところ知らない?」
「どうして?四天王でもよければアギル山を抜けた先のカミラの森にいるって聞いたことがあるわ。」
「じゃあ早速行こう!アギル山のどの方角?」
「南だよ。」
すると叶詩ちゃんはアギル山南部へとワープした。
「このまま真っ直ぐでいいの?」
「そうだよ。ただ、ケルベロスさんとは違って沢山のモンスター達がいるわよ?」
「ちょうどいいね!それじゃ行こうか!」
アギル山を抜け、カミラの森へ入る。するとそこら中に見張りがいる。
「四天王のガナビールはここを拠点としているのよ。注意してね。」
『炎の風よ〜!ふけふけー!びゅーびゅーふけ〜!』
「叶詩ちゃん、それはなんなの?」
「ちょっと黙ってて!集中してるから!」
〈広域地獄焔竜巻‼︎〉
叶詩ちゃんはデタラメな詠唱をし、デタラメな魔法を放つ。そのネーミングとは裏腹に炎を宿した竜巻が発生し、一瞬で森を火の海へと変える。
「ちょ、ちょっと!これはやりすぎじゃない!?」
「大丈夫だよ!これで雑魚共が一瞬で片付くね!」
うわ…えげつない…。
「か、火事だー!火を消せ!」
「無駄だ!逃げろ!」
「一体なにが起きた!?」
「逃げ場なんて何処にもねーじゃねーか!」
「熱い…誰か助けてくれっ!」
森にいた魔物達はパニックになり、沢山の魔物が死んで行く。やっぱりエゲツナイ…。
しばらくすると森は焼き尽くされ、焼け野原と化していた。その中ただ一体生き残っている物がいた。
「これほどの強力な魔法…貴様、一体何者だ‼︎」
「か、叶詩ちゃん、あれが四天王の一人、ガナビールよ!」
『貫け〜!やっちゃえ〜!刺さっちゃえ〜!』
〈遠距離型焔地獄無数矢(ファーファイヤインフェルノアローズ‼︎〉
また訳の分からない詠唱を終えると、トンデモな魔法が遠くにいたガナビールに向かって真っ直ぐと向かっていく。
「ぐあぁぁぁぁあああ!」
これほど距離があると言うのに飛ばされた矢が何本も的中する。
「ふざけた魔法使いやがって…。これは一撃で沈めるしかないか…。我が名はガナビール‼︎これほどの魔法が使えるとは。敵ながら見事だ!こちらもとっておきの技を見せてやる!我が魔力全てを使用する大技だ!生きて帰れると思うなよ!」
するとガナビールは手を天に掲げ魔力を凝縮させて、巨大なエネルギーを発生させた。
「か、叶詩ちゃん!これはまずいよ!急いで逃げよう!」
そう呼びかけるも叶詩ちゃんは目を瞑り何故か動かない。
「ねぇってば!どうしちゃったの!?」
「ハハハハハッ、くたばれっ!」
〈不滅焔鳳凰‼︎〉
凝縮された魔力は鳳凰の形を成し、物凄い勢いでこちらに近づいてくる。
「叶詩ちゃん!お願いだからあの力を使って逃げようよ!!」
もう駄目だ…と思った瞬間、叶詩ちゃんはカッと目を見開く。その瞬間、すぐ目の前まで来ていた強大な魔力の鳳凰が目の前から消える。
「なっ!一体何がおk…」
するとそれは突然ガナビールの目の前に現れ、そのまま直撃し、大きな爆発が起きる。
「ぬぁああああああぁぁっ…」
ガナビールが悲鳴をあげたかと思うと一瞬にして塵と化した。爆発が収まるとそこには大きなクレーターができていた。私は急に足の力が抜け、その場で崩れ落ちる。
「し、死ぬかと思ったわ…。一体何をしたの!?」
「あの魔力の玉を瞬間的にガナビールの目の前に飛ばしただけだよ!やったね!これで四天王は残すところ二体だね!」
まさか叶詩ちゃんは魔王討伐を考えてるのかな…
戦場は数十分前には森があったなんて信じられないような地形になっていた。まさか森を吹き飛ばしてしまうなんて…
私達は叶詩ちゃんの能力で酒場へ移動し、今さっき起きたことを報告した。ついでにケルベロスの件もここで明かす事にした。この話はすぐさま街中に広がった。叶詩ちゃんはそんな事はどうでも良いと言わんばかりに、報告を済ませ大金を受け取ると、もっと魔法をブッパしたいと言ってまた討伐依頼を受け、何処かへとんで行ってしまった。
本当に底が知れない…。ひょっとすると、叶詩ちゃんが魔王を倒す日が来るんじゃないか…
「流石にそんなわけないか!」
私はそんなことを妄想して一人で笑いながら一足先に家へ帰る事にした。