「夢⑧」不注意
「夢⑧」不注意
「‥‥はぁ…今日も学校か…」
目に映るのは…オレンジ色のレンガによって端から端まで舗装されている、薄汚れた景色。
時折、鼠色一色に染まるときもあれば…鼠色と白色が交互に目を覆う。
そんないつも通りで、何一つとして変わらない日常に相応しい、没個性のような景色を途方も無く歩く。
途方すらも目に映さず
視界の中に入ってくるのは…自分以外の人間が履いている靴と、生身だったり…ズボンだったりと異なる脚の数々…。
他人の脚が動けば、自分の脚も動き
靴音が耳に入れば、自分の靴も動く
そんな…どこか他力本願で、心此処に非ずと言わんばかりに、今日も彼は
進む。
「何で…俺ばっかり…こんな不幸なんだ…」
朦朧とした意識の中、誰にも聞こえないように小言を放つ。
その瞬間に、背筋が熱くなるような…汗ばむような…そんな≪背筋が凍る≫ような感覚に陥る。
小言を放った瞬間に、見知らぬ誰かからの視線を感じとったから…なのだろうか?
それとも…その小言が誰かの耳に入ってしまったのか…?
疑問ばかり浮かぶ彼の脳裏
だが、真実を確かめる術も、余裕も無い彼は
進む。
「死にたい、、何で俺って、こんなに憶病で…死ねないんだ…」
瞳には涙が少しずつ溜まっていく。
だが、その涙は雫と成る事無く、服の袖によって拭われた。
見知らぬ人でも、見知った人であろうと、その雫を…雫の意味も…見知られたく無い。
弱肉強食のような世の中で、自分が弱い立場なんだと悟られたくない。
知られた瞬間から
地獄のような日常が、命を脅かして…また…殺されるから。
だから何があっても弱音を吐いてしまったら…
彼は
進む。
「俺は…どうすれば良いの…?何が間違っていたの?どこで踏み外したの?」
分からない。
どれだけ記憶を手繰り寄せても
どれだけ部屋の中を漁っても
どれだけネットで検索しても
現状の解が求められない。
学校では習わないし、主要教育の中にも入らないような≪人生≫と言う名の方程式。
定義なんて無いのは知っている。
確実な解が無いのも知っている。
でも…
現段階での最適解とは何なのか…。
模範解答とは何なのか…。
何も結論を出せず、苦悩した果てに辿り着いたのは…
堕落だった。
だが彼は
進む。
「誰か…助けて…誰でも良いから…誰か…」
声は誰にも届かない。
彼を避けて通り、行き交う人々の群れ。
同じ表情して、同じような服を着ているんだろうと、心の中で蔑みながら通る。
≪自分は違う≫
叫び
≪あんな奴等みたいになんか≫
嘆き
≪絶対に俺は新たな道を切り開いてやる≫
喚き
そうして彼は
進む。
「ッ‥‥!?」
足を止めた先は≪黄色い線≫
内側で待機してた彼の耳に、鉄が擦れるような轟音が劈いた。
一点に駆け寄る人々
駅員らしき人が道を開けるように声を掛けてくる
急いで入ってきたのは
【担架を持った救急隊、若干数】
今日、初めて目を見開いた彼の目に映ったのは
「‥‥!?」
スマホの外側を一点に向ける傀儡のような群衆。
その一点の先には…
彼の幼馴じ
「はッ‥‥!?」
見開いた先には、見慣れた白い天井。
鳥の囀りが耳を掠め通り、呆然としていた意識を取り戻す。
「…夢か…良かった…あれ…?」
彼の顔を雫が伝う。
自分が泣いている理由をハッキリと思い出せずに、布団で拭い取る。
癖のように、横で充電しているスマホを一目見る
その時、見知らぬ通知が
二件。
≪自分の足で進め、自分の意思で進め。≫
≪前を向いて、途方の無い未来を切り開け≫
「‥‥。」
その通知を無言で読んだ瞬間。
彼はベッドを飛び出した。
目に映るのは…いつもと変わらないような≪今日≫という一日。
だが彼の目には
「おはよ、よく眠れた?」
青き空の下で輝く
常に笑顔が綺麗な少女が一人
「うん、深夜2時に寝れたからばっちりだよ」
「それは寝てる内に入りませーん!」
「え~…、、ふふッ…」
「今日は良い笑顔してるね~、何か良いことあった?」
「いや、別に」
「そっ…か、それじゃ、学校行こうか~」
「だね」
二人は進む。
途方も無く、されど美しい「」に向かって。
貴方はどんな視点で世界を見てますか?
人間観察をしてて思ったよ。
喧嘩して二手に分かれる子供たちだけど、片方は首を下にして悲しさを表している場面。
修学旅行生だけど、服装に違いがあったり、興味を持つ物が違ったりしてる場面。
スーツを着てる人が前を一点で見つめている場面。
人目を気にせず、くっつき合う男女の場面。
車いすに乗ったお爺さんが一人で散歩してる場面。
みんな思い思いの夢があって、志があって、未来がある。
それって美しい世界だと思わないかい?
同じ目をして、同じ服を着てても
心は違う。
行動も違う。
世界が違う。
人間って面白いなと、そう思えた。
改めて問おう。
貴方はどんな視点で世界を見てますか?